第二十五歩 口に戸は立てられぬ
そこからはあっという間やった。葉月は青ざめた顔したメルティナさんに連れて行かれてその日はお開き。わけわからんまま俺とアイリは顔を見合わせた。傷治してもらった子どもも目ぇキラキラさせて聞いて来たけど説明してええんかわからんくてそのままアイリが孤児院に連れ帰った。
「治癒魔法、そんな珍しいもんなんか?」
寮に戻って、いつも通りタバコサボりしてるヴァルターに俺がなんとなく聞くとヴァルターは目見開いて俺の肩掴んできた。
「葉月のやつ、治癒魔法を発現したのか!?」
全身揺さぶられながら頷いたら「よりによって……」って呟きながら複雑そうな顔でどっか行っちまった。
そういや、初めて俺を教会に連れてった日も、ヴァルターは葉月の様子を確かめに行ってたらしい。
なんで葉月のこと転移者だってわかって教会に置いてるんか聞いたら、能力開花していない状態の転移者だから王城には連れていきたくないって。
ようわからんかったけど、王城にはなんかあるんやろうか。
メルティナさんは多分口止めしたかったんやろ。葉月の能力が詳しくわかるまで、使いこなせるまで。やけどあいにく魔法を目撃したのが子供やったから噂はすぐに広まっちまった。
「治癒魔法って、便利なものではないのかも。あのあとメルティナさんにはすごくたくさん質問されたし、話で聞くとヴァルターさんも喜んではなかったんでしょう?」
あまりの人の押し寄せ具合に一時閉鎖している教会の中で葉月が悲しそうに言った。葉月が魔法を発現してからもう3日も経ったのに教会にはいまだに人が殺到していた。
「そんなことないやろ。役に立つのは分かりきったことやん。葉月の人を助けたいって気持ちが叶ったんちゃう?」
「ゲームでは治癒魔法は重宝されて、使えるってわかったらパーティーに引っ張りだこだったのになぁ」
「葉月ってゲームとかするんや」
「私結構うまいんだよ?」
ふふっと笑った葉月は少し自慢げでいつもの自信のなさからは考えられないくらいには楽しそうやった。
「ほな、また明日な」
「……うん。またね、輝くん」
葉月に手を振って、俺は教会を後にした。教会を出た頃には、もうすっかり日が傾いていた。
「聖女様が現れたって……」
「教会にそんなお方がいたなんてな、」
帰り道でも、そんな話をしている人を何人か見かけた。
……聖女って。
葉月が聞いたら、また困った顔するやろな。そんなことを考えながら騎士見習いの寮へ戻ると、扉を開けた瞬間、何人かの視線が俺に集まった。
「おい、テル!」
「お前、教会に行ってたんだろ?」
「聖女様に会って来たのか?!」
噂が広まるのは早いな。
「せやけど、なんで俺に聞くねん」
「だってお前、本人と知り合いなんだろ?」
「まあ……知り合いやけど」
「どんな子なんだ!?」
「本当に聖女なのか!?」
「怪我したら治してもらえるのか!?」
「いや、知らんって!」
一気に質問を浴びせられて、俺は思わず頭を抱えた。
「そもそも葉月は聖女ちゃうやろ。この前まで普通だったんや」
「でも今は治癒魔法が使えるんだろ?」
「それは……まあ、そうやけど」
「すげえな!」
「俺たちも一度会ってみたいな!」
周りが勝手に盛り上がっていく。
あれは、葉月自身のもんや。
どう力を使うかは葉月が決めるべきやと思うし、本人のいないとこで聖女と祭り上げるのはどうなんや。葉月の発現は喜ばしいことなはずやのになんかモヤモヤを抱えたまま同僚の奴らの話を聞いていた。
それからしばらくして、各々が部屋に戻りようやく騒ぎが収まった。
ベッドに横になる。
「……疲れたわ」
天井を見上げながら、思い返す。
葉月。
転移者。
治癒魔法。
そして、あの日のヴァルターの反応。
『よりによって……』
あのときの顔。
あれは、葉月が治癒魔法を使えたことを単純に喜んでへんかった。それに、能力が開花してないから王城に連れて行きたくないって話。
「王城に……なんかあるんか?」
独り言が部屋に落ちる。
ヴァルターが何かを知っていることだけは確かや。
考えれば考えるほど、頭の中がごちゃごちゃしてくる。
……まあ、今考えてもしゃあないか。
思考を無理やりシャットダウンして俺はさっさと目を瞑った。




