第二十四歩 強い思い
「ご、ごりごりの関西弁……」
葉月がぽつりと呟いた。
「え、もしかして、お前……日本から来たん?」
「……!」
葉月の身体がびくっと跳ねる。
「やっぱり!」
輝は嬉しそうに笑った。
「俺も日本から来たんや! 大阪から!」
「……日本……」
葉月は目を丸くする。
この世界に来てから、初めてだった。
自分と同じ場所から来た人と話すのは。
「俺、橋田輝。よろしくな!」
「あ……白石葉月、です……」
「葉月か。よろしく!」
輝は遠慮なく手を差し出す。
葉月は少し戸惑いながら、その手を握った。
「……よろしく、お願いします」
「そんな固くならんでええって!」
それからだった。
輝は騎士団の仕事の合間を縫って、教会へ顔を出すようになった。
「葉月ー! 来たでー!」
「……あ、輝さん」
「さん付けやめようや。輝でええって」
「でも……」
「俺も葉月って呼んでるやん」
「……それは、そうですけど」
最初は怯えていた葉月も、少しずつ輝に慣れていった。
「なあ葉月、能力ってどんなんなん?」
「……まだ、分からないんです」
「まだ?」
「はい……」
転移者には、特別な能力が開花することが多い。
けれど葉月には、まだ何も起きていなかった。
「私、もともと何をするにも遅くて……」
葉月は俯く。
「こっちに来ても、掃除も上手くできないし。みんなに迷惑ばっかりかけて……」
「そんなことないやろ」
「でも……」
「葉月」
輝が名前を呼ぶ。
「能力なんか、なくてもええやん」
「……え?」
「俺の能力なんて幸運やで?」
「ラッキー……?」
「そう。転んだ先が草だったり、なくしたもんがすぐ見つかったり」
輝は苦笑する。
「地味やろ?」
「……ふふ」
葉月が小さく笑った。
「ほら、笑えるやん」
「……輝くんは、変な人ですね」
「あ、さん付けやめた!」
そんな時間が、少しずつ増えていった。
ある日のことだった。
「メルティナさん!」
教会の扉が勢いよく開いた。
「薬、何かありませんか!?」
駆け込んできたのはアイリだった。
その腕には、泣いている孤児院の子供を抱えている。
「どうしたのですか!?」
「この子、転んで膝を擦りむいちゃって結構ひどい怪我なんです。でも……孤児院の薬が足りなくて。教会に余ってませんか!?」
「薬ならこちらに――」
メルティナが薬を探し始める。
「痛いよぉ……」
子供の泣き声が響く。
「大丈夫だよ。すぐ手当てするからね」
アイリがあやす。
けれど、子供は涙を止められない。
「……痛い」
「……」
その姿を、葉月はじっと見つめていた。
自分には何もできない。
薬を探すことも。
傷を治すことも。
何も――。
「……泣かないで」
葉月は、子供の前にしゃがみ込んだ。
「え……?」
「大丈夫だから……」
震える手で、子供の手を握る。
そして、いつもメルティナがやっているように祈るように両手を合わせた。
何かできるとは思っていない。
ただ、この子の痛みがなくなればいい。
泣かなくて済めばいい。
それだけだった。
「この子が……痛くありませんように」
その瞬間。
「……え?」
葉月の手から、淡い光がこぼれた。
光は子供の膝へと流れ込み――。
赤く擦りむけていた傷が、ゆっくりと消えていく。
「…………」
その場にいた全員が、言葉を失った。
「痛くない……!」
子供が泣き止んだ。その声を聞いてハッと葉月が目を開く。
そして傷跡すら残らず綺麗になった膝を見て。
葉月は、自分の手を見つめる。
「なにこれ、私が……?」




