第二十二歩 拾われ人
王都の外れ。
街道から少し外れた、静かな田舎道。
「…………」
一人の少年が、地面に倒れていた。
「……ん」
ゆっくりと目を開ける。
「……ここ、どこや?」
身体を起こす。
見覚えのない景色。
舗装された道路でもない。辺りには草原と木々が広がり、遠くには見たことのない建物が見える。
「…………」
寝起きの頭を必死に動かす。
なんや、さっきまで新幹線にいたんやないっけ――。
「……光?」
隣にいたはずの妹。
一緒に新幹線に乗っていた。
「光!」
勢いよく立ち上がる。
「おい! 光!」
辺りを見回す。
返事はない。
「……どこや」
走り出す。
道を外れて、草むらをかき分ける。
「光! おーい!」
「ふざけてるんなら出てこい。流石の輝にいでもそろそろ怒るわ」
いない。
どこにもいない。
頭の中が真っ白になる。
さっきまで隣にいた。
確かにいた。
それなのに――。
「……なんで」
足を止める。
「なんで俺だけ……」
そのとき。
少し離れた木陰に、一人の男が座っていた。
年齢は四十代くらいだろうか。
立派な鎧を身につけているが、兜は外している。
そして――。
「……ふぅ」
煙草を咥えていた。
男は輝と目が合う。
「…………」
「…………」
数秒の沈黙。
男はゆっくりと顔を逸らした。
「…………」
そっと煙草を灰皿代わりの缶へ押し付ける。
そして何事もなかったように立ち上がろうとした。
「おい」
「…………」
「おい!」
男は聞こえていないふりをした。
「待ち!」
輝がズカズカと近づいてくる。
「おい、あんた!」
「……なんだ」
観念したように男が振り返る。
「ここどこや?」
「王都の外れだ」
「王都?」
聞いたことのない言葉。
「日本じゃないんか?」
「……日本?」
男の眉が動く。
「ここは王都アラトリアだ。お前、どこから来た?」
「大阪」
「……」
「さっきまで新幹線に乗ってたんや。妹と一緒に」
男は少し黙った。
それから、深く煙草を吸い込む。
「……あぁ」
「なんや」
「お前、転移者か」
「転移者?」
聞き慣れない言葉。
「そういう奴がたまにいる」
男は面倒くさそうに頭を掻いた。
「王城に行け」
「は?」
「とっとと行け」
「待ちぃや。妹がまだ見つかってないねん!」
「妹?」
「ああ! 一緒にいたんや!」
輝が食い気味に詰め寄る。
「どこにいるのか分からんねん。探さな――」
「そんなん、お前が転移してきた場所に妹もいるかなんて分からねえだろ」
「……!」
「それに、妹もこっちに来てるかすら分からん」
「…………」
言い返せない。
確かに、その通りだった。
でも――。
「……それでも探す」
輝は拳を握る。
「俺が探さないと」
男はしばらく輝を見つめた。
「……はぁ」
大きなため息。
「面倒な奴に当たったな」
「なんや」
「いや、こっちの話だ」
男は歩き始める。
「とりあえず来い」
「どこに?」
「騎士団の寮」
「……騎士団?」
「衣食住くらいは面倒見てやる」
「…………」
輝は少しだけ警戒した。
だが、今は一人で何も分からない。
「……分かった」
男の後を追う。
「そういや、名前は?」
「橋田輝」
「俺はヴァルター……苗字を名乗る義理はないか。まぁ、ヴァルターと呼べ。」
「……ヴァルター?」
「そうだ」
それだけ言うと、男は前を向いた。
王都へ向かう道を歩く。
「お前、今日から騎士見習いな」
「……は?」
「転移者ってだけで何もしなくていいと思うなよ」
「いや、俺、妹を探さんと――」
「それはそれ。仕事は仕事だ。飯食わせてやんだから文句垂れるんじゃねえぞ。」
男は振り返らずに言う。
「たくさんこき使ってやるから覚悟しとけよ」
「はぁ!?!?」




