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第二歩 外れた車輪

 事故に遭って目を覚ましたら異世界でした、なんてよく聞く物語にある冒頭部分。まさか自分が味わうことになるなんて思いもしなかった。


 トンネル内で新幹線が揺れたと思ったら、席から投げ出された。気を失ったとかはなかった気がするんだけど、ハッてなったらスマホだけ持った状態で道に座り込んでたんだ。


「今日は串焼きが安いよー!」

「2本、いや4本買った!」

「まいどー!」


 会話だけ聞くと出店での普通の会話に聞こえるけど。目の前で繰り広げられてる光景は、出店でよくみるものじゃないな。普通、屋台のおじさんってデニムに白ティーでタオル頭に巻いてるよね?でもそのおじさん童話に出てくる木こりみたいな格好なんだもん。よくみると顔立ちもアジア人とはちょっと違う感じもするし。でもバリバリ日本語喋ってるように聞こえるけど。じっとしててもよくわからないままだし、とりあえず出店のおじさんに話しかけてみる。


「あの、ここってどこですか?新幹線はどこでのれますかね、」


 気さくそうなおじさんはわたしの服装を見て首をかしげながらも答えてくれる。


「おじょうちゃん、どっからきたんだい?見たことない服着てるけどもさ。ここは、サマセット領のセリューだよ。シンカンセンとやらは聞いたことないな、すまないね。」


 サマセット?セリュー?ヨーロッパの方?よくわからない単語ばかりで混乱する。でももっとわからないのが、わたしが質問したとき確かに日本語の内容なのに、口から出るのはよくわからない言葉で、おじさんの口から出るのもよくわからない言葉なのに、頭の中に入ってくるのは日本語の文章。わたしは頭の中を整理したくて、おじさんにお礼をして通りを歩き始める。


「ママ?昼ごはん何?」

「パンでも買って行こうかしら」


「この野菜オマケしとくね、おつかいご苦労様」

「ありがとおばちゃん!」


 道ゆく人たちの会話は至って普通で、でも確かにわたしの知っている日常とは違う。お昼ご飯を聞いた女の子は耳がとんがっていて、まるでアニメの中のエルフみたいだし、野菜をオマケしていたおばちゃんの頭からは動物の耳が生えている。


 もしかして異世界ってやつ?

 それなら、わたしはどうやったら帰れるんだろう。


 福岡に着いたら、まず父さんに連絡して、それからイベント会場に向かう予定だった。

 今日は何時まで手伝うんだっけ。たしか明日は朝から仕込みがあるから、終わったらホテルに戻って……。

 そんな当たり前だった予定が、今は全部どこか遠い世界の話みたいに感じる。


「……帰らなきゃ」


 帰るって言っても、どこに行けばいいのかすらわからない。


 スマホを握りしめる。やっぱりアンテナは立っていない。画面に映るのは、さっき送ろうとしたメッセージだった。


【もうすぐ広島に着くとこ!】

――送信不可――


……これ、お父さんに届いてないんだよね。


「あぁ、ほんとだったら今頃福岡についてたはずなのにな」


 状況が飲み込めてきたら、賑やかだった通りの音がやけに遠くに聞こえた。ぽつりと呟いた独り言はちゃんと日本語だったみたいで、誰の耳にも入らなかった。


「お父さんに会いたい」


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