第十八歩 つながる
「……シンカンセン」
昨夜、ダスキンから聞いた言葉が頭から離れなかった。この世界には、俺以外にも転移者がいる。しかも、その人は数ヶ月前にセリューという街に現れたらしい。
「……同じ新幹線に乗ってたってこと?」
そう考えると、胸がざわついた。
俺と一緒に新幹線に乗っていた人間。
そして――隣にいた司。
「……やっぱ、司も転移してるのか?」
答えはない。
でも、そう考えれば全部つじつまが合う気がした。
俺だけがこの世界に来たんじゃない。
他にもいる。
だったら、司だって。
「……どこにいるんだよ」
小さく呟く。
そのまま考え続けているうちに、いつの間にか朝になっていた。
「……眠い」
⸻
「それで、どうして森に入ったんだ?」
朝食を食べながら、ダスキンが少年に尋ねる。
少年――マークは、少し恥ずかしそうに俯いた。
「……ぼく、六歳になったから」
「それで?」
「強くなったって、みんなに証明したかったの」
マークは胸を張る。
「森の入り口まで行って、すぐ帰るつもりだったんだ」
「なるほどな」
ダスキンが苦笑する。
この森の入り口付近には、普段なら魔獣はほとんど出ないらしい。だからこそ、マークも大丈夫だと思ったのだろう。
「でもね……」
マークの顔が曇る。
「森に入ったら、魔獣がいたの」
「魔獣が?」
カイルが反応する。
「うん。怖くなって逃げたら、どんどん森の奥に行っちゃって……」
そこで迷ったらしい。
そして、俺たちが見つけた。
「……最近、この辺りはおかしいな」
カイルが呟く。
「魔獣が増えている」
「やっぱりそうなのか?」
バルトが聞く。
「ああ。今までこんなことはなかった」
俺は黙って二人の話を聞いていた。魔獣が増えている。
それが何を意味するのかは分からない。
ただ――。
俺がこの世界に来たことと、何か関係があるんだろうか。
そんな考えが頭をよぎった。
⸻
「カイル」
馬車の前で、俺はカイルを見る。
「世話になった、本当にありがとう。カイルがいなかったら、多分俺、すぐに死んでた。」
「ああ」
「身体強化も教えてくれてありがとう」
「まだ完全には使いこなせてないだろ」
「……それはそうだけど」
カイルが少しだけ笑った。
「気をつけろ」
「はい」
俺は馬車へ乗り込む。
カイルは森に残るらしい。
この森で何が起きているのか、調べるためだ。
「じゃあ、行くぞ」
バルトが御者席から声をかける。
馬車がゆっくりと動き出した。
窓からカイルの姿が小さくなっていく。
「……またな」
小さく手を振った。
⸻
「なあ、ダスキン」
荷台から御者席へ声をかける。
「なんだ?」
「昨日の話……」
「ひまりちゃんのことか?」
「うん」
名前を聞いただけで、少し緊張する。
「どんな子なんだ?」
「そうだな……」
ダスキンが少し考える。
「最初に会ったときは、かなり困ってたな。何も分からないって顔してて」
「……俺と同じだ」
「だろうな」
ダスキンが笑う。
「でも、セリューで暮らしてるうちに、だいぶ馴染んだ」
「そうなんだ」
「料理屋で働いてるんだ。ロッカって店だ」
「料理屋……」
俺は少しだけ考える。
異世界に突然放り出されて、料理屋で働いて。
「……強いな」
「ん?」
「俺だったら、そんなすぐ馴染めないと思う」
「お前も大丈夫だろ」
バルトが前から口を挟む。
「もう十分馴染んでるように見えるぞ」
「そうかな」
「少なくとも、魔獣の肉を食ってうまいと言える程度にはな」
「……それはカイルのせいだろ」
二人が笑う。
俺もつられて笑った。
そして再び、あの言葉を思い出す。
シンカンセン。
多分、俺と同じ世界から来た人。
「……会ってみたいな」
しばらくして。
「着いたぞ」
バルトの声が響いた。
馬車の荷台から顔を出す。
見覚えのない街並み。
だけど、ここがセリューなのだと分かった。
「ここが……」
街の中へ入ると、少しずつ人が集まってくる。
どうやらマークが戻ってきたことが、すぐに伝わったらしい。
「マーク!」
「よかった!」
「パパ!」
人混みの向こうから、男性が駆けてくる。
「マーク!」
「パパ……!」
父親が少年を抱きしめる。
その姿を見て、周囲から安堵の声が上がった。
「よかったな」
バルトがほっと呟く。
俯いて、周囲の音に耳を傾けると、ダスキンが一人の女の子と何か話していた。
ひまり。
彼女がきっとそうなのだろう。
数ヶ月前、この世界に現れた転移者。
そして――。
俺と同じ、新幹線に乗っていたかもしれない女の子。
荷台に近づく足音が聞こえて来た。荷台を覗き込んでくる視線を感じる。深呼吸する。
俺は顔を上げて問いかけた。
「あんた、王都に行くんだろ?」




