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第十一歩 願い



数日前――。



「……『転移者保護法』」


「…………え?」


図書館で見つけた分厚い本を、リオネルが机の上に広げていた。


「転移者って、俺たちが探してるあれだよな」

「うん。別の世界とか、遠いところから来た人。多分私も転移者(そう)なんだと思う」

「じゃあ読んでみるか」


リオネルが指で文字を追っていく。


「えーっと……転移者を発見した者は、速やかに王城へ報告すること……だって」

「王城?」

「うん。それから……転移者本人も王城へ来ることが望ましい、だってさ」

「望ましい?」

「……いや、こっちには『努めなければならない』って書いてある」

「全然意味違うじゃん」

「細かいこと気にすんなよ」

「気にするよ!」


思わず笑ってしまう。さっきの涙はもう引っ込んだみたい。

リオネルは気にせず次のページをめくった。


「転移者は王城内に設けられた保護区域にて生活する……」


「保護区域?」


「転移者を守るための場所じゃね?」

「じゃあ、王城に行ったらちゃんと暮らす場所も用意してくれるってこと?」

「たぶんな」


初めてこの世界に来た時、知らない世界で、住む場所も食べるものもなくて、ずっと不安だった。

でも、転移者のための場所があるなら。


「……なんか、思ってたよりちゃんとしてるんだね」


「そりゃ国が作った法律なんだから、ちゃんとしてるだろ」


リオネルがページをめくる。


そこには、大きな文字で何かが書かれていた。


「……帰還魔法」


リオネルが読み上げた言葉を聞いた途端、胸が跳ねた。


「これ、帰れるってこと?」


「えーっと……」


リオネルが文章を読み進める。


「転移者は、条件を満たした場合、帰還魔法によって元の世界へ帰還することができる……だって」


「……帰れるんだ」


声が震えた。

お父さんに会える。


「じゃあ、王都に行こう」


気づけば、そう口にしていた。


「おう。行くか」


リオネルもあっさり頷いた。

その返事が嬉しくて、私は笑う。

だけど、本を閉じようとしたとき、ふと手が止まった。


――王城。


ダスキンさんから聞いた、あの人の話が頭をよぎる。

王城に呼ばれてから、様子がおかしくなったという男の人。

帰還魔法で、何かが起きたという話。


「……」


なんだろう。

ほんの少しだけ、胸の奥がざわついた。

でも、それが何なのかは自分でもわからない。


「ひまり?」


「……ううん。なんでもない」


私は本を閉じた。

帰れる方法がある。

それなら、王都へ行くしかない。


「ダスキンさんに、王都へ行く方法聞いてみようよ」


「そうだな」





「王都に行きたい?」


「はい!」


その日の夕方、ダスキンさんに話すと、少し考えるように顎に手を当てた。


「王都行きならバルトの馬車があるけどな……」

「バルトさん?」

「ああ。いつも王都とこの辺を行き来してる御者だ」

「じゃあ、その人にお願いすればいいんですね!」


「あー……ただ、そういやバルトのやつ、まだ帰ってきてねぇな」


「え?」


「数日前から見かけてねぇんだよ。まぁ、戻ってきたら話しとくか」

「お願いします!」

「おう」


王都への行く方法が見えた。

そう思ったら、急に現実味が湧いてきた。

王都に行く。

帰る方法を探す。


そして――。


「……ロッカを出るんだ」


ぽつりと呟いた。


「ひまり?」


「ううん。なんでもない」


その夜、私は引き出しを開けた。


そこには、ずっとしまっていた制服と、給料袋が入っている。


最初にもらったお給料。日記帳を買うだけではまだまだ余っていた。何に使おうかずっと考えていたけど、決めた。


次の日、リオネルと一緒に街へ出て、糸を買った。


「何に使うんだ?」


「秘密」


「なんだよそれ」


部屋に戻ってから、買ってきた糸を何本も束ねる。

不器用なりに編んでいくと、少しずつ形になっていった。


「……できた」


小さなミサンガ。


リサおばさんとアルバートさん、それぞれにひとつずつ。


夕食のあと、二人に渡す。


「これ、私からです」


「まぁ……!」


リサおばさんが嬉しそうに目を細める。


「ひまり、お前……」


アルバートさんはミサンガを眺めて、それから私の頭をぽんと撫でた。


「願い事を思い浮かべて結んで、このミサンガが切れたら願い事が叶うって言われているんです」


「ありがとう」


「こちらこそ、ありがとうございます」


胸の奥がじんわりあたたかくなる。

帰りたい。

お父さんに会いたい。

それは、今も変わらない。


でも。


「……寂しいな」


その言葉だけは、誰にも聞こえないように小さく呟いた。


「じゃあ、明日からもよろしくな!」


「うん!」


笑って答えた。


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