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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
ポッキン! ぐるぐる白タイツでおそろいコーデ!

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霧の降る尾根道

これはリリアたちがハイディの眠る尾根を発った後のお話……


ブレンハイム。


マーカスは宿の一階で報告書を書いていた。窓の外に湯気が見えている。


フランツが茶を持ってきた。薬草茶。もう慣れた。


「マーカスさん。例の場所、ヨーゼフさんが案内できるそうです」


「蜘蛛の巣の方か」


「いえ。牧草地の方です」


マーカスは茶を置いた。





山道がぬかるんでいた。


昨日の雨だ。冬に珍しく、半日降り続いた。斜面に水の筋が残っている。ヨーゼフは重い横手のついた狩猟槍を杖代わりに、ぬかるみを避けて歩く。足の置き場を知っている。マーカスの靴は二度滑った。


牧草地に着いた。


風が吹いていた。何もない——いや、何も残っていなかった。


焚き火の跡。石で囲んだ丸い輪だけが分かる。灰は流れていた。炭が一つ、二つ、石の隙間に引っかかっている。


「ここでキャンプしてた。数日はいたはずだ」


ヨーゼフが槍の石突きで石の輪を指した。


地面は泥だった。轍があったはずだ。蹄の跡も。全部、泥の下に沈んでいる。


「蜘蛛は」


「猟師仲間が解体した。使える部分は持っていった。殻と毒腺は埋めた」


「埋めた場所は」


「あのへんだが——」


ヨーゼフが斜面の下の方を指した。泥が流れた跡がある。


「掘り返しても出てこんだろうな。雨で動いてる」





岩があった。大きい。割れ目に冬枯れの蔦が這っている。


岩のそばに、盛り土。崩れかけている。石で縁取りしてあったから、かろうじて形が分かる。


「……墓か」


「羊だそうだ」


「羊」


「羊飼いのナタンが言ってた。年を越せない羊がいたと。ヒーラーが治療したが、持たなかったらしい」


マーカスは手帳を開いた。昨日の雨で表紙が湿っている。ペンを取って、余白を探す。


「ヒーラーが治療した」


「小柄な女だそうだ。ローブを着ていた。何色かは聞いてない」


書いた。「小柄。ローブ」。インクが滲んで「ロ」の字が潰れた。


「蜘蛛の殻に、布切れがこびりついてたって聞いた。関節のあたりに。内側に」


「それは」


「雨の前だ。猟師仲間が解体する時に見つけた。布切れと、ほぐれた糸くず」


「今は」


「殻と一緒に埋めた」


マーカスはペンを止めた。


布切れ。蜘蛛の関節の内側。意味が分からない。蜘蛛の脚に布を巻く人間がどこにいる。


「弓手二人が組んでやったって話だ。一人が殻を割って、もう一人が同じ場所を射貫いた。それで脚が折れた」


ヨーゼフが革袋から何かを取り出した。折れた矢。鏃が四角い。杭のような形。


「これは雨の前に拾った。岩のそばに転がってた」


マーカスが受け取った。ボドキンだ。鎧通し。一転を貫くための、細く目立たない矢。

野生動物や盗賊を追い払うのには向いていない。有事に備えてギルドには備蓄があるが、どこも埃をかぶっている。こんなものを使う弓手が護衛にいたのか。


「布を巻いたのはヒーラーじゃないかって話だ。目印だろうと。弓手に狙う場所を教えるために」


目印。


マーカスは手帳に書いた。「関節に布の痕跡(証言のみ。現物なし)」。


「聞き取りは他に」


「ナタンって羊飼いがいたが、もう群れと出発してる。護衛の弓手はニコとヴェルナー。ゲルトの荷車で西に向かった」


全員いない。


「……いつも、こうだ」


ヨーゼフが首を傾げた。


「俺が着く頃には、全員いなくなっている」





帰りの山道で、また雨が降り始めた。


ヨーゼフは帽子の縁を下げて、変わらない足取りで先を行く。マーカスの外套には牧草地で膝をついた時の泥がついている。そこに雨が重なる。手帳を懐に押し込んだ。インクが流れる前に。


宿に着いた時には、靴の中まで水が入っていた。





手帳を開いた。


読めない箇所がある。「小柄。ローブ」は残っていた。「関節に布の痕跡」も。そのあとの字が潰れている。


報告書を書いた。


『冬季牧草地におけるフロストスパイダー出現に関する報告』


被害——羊一頭。老衰により死亡。蜘蛛の攻撃で負傷したが、ヒーラーにより治療済み。死因は老衰。


討伐——護衛二名の杭型鏃による射撃で外骨格を破壊。転倒させた模様。


物証——四角い鏃の矢、一本。他は雨により流失。蜘蛛の殻・布切れ等の現物なし。


証言——猟師ヨーゼフ(間接証言)。直接の目撃者は全員出発済み。


ペンを置いた。


カタリナに見せたら笑うだろう。「また?」と。


フランツが茶を持ってきた。今日二杯目。


「マーカスさん、温泉入りませんか」


冷えていた。指先が白い。外套を脱いだら肌着まで湿っていた。疲れているのではない。芯まで冷えている。


「……ああ」





温泉に浸かった。


段々のプール。石灰華の棚田。湯気が冬の空に上がっている。


体が沈んでいく。冷え切った指先から、少しずつ血が戻る。肩まで浸かると、靴の中の水と泥の感触がようやく遠くなった。


布切れの謎。目印だと言われた。弓手に狙う場所を教えるために。筋は通っている。通っているのに、何かが引っかかる。


湯気を見つめていたら、隣に誰かが浸かっていた。


子供だった。湯浴み着がぶかぶかで、肩まで湯に沈んでいる。顔色が悪い。でも頬にわずかに赤みがある。湯治客だろう。


子供が木のカップと水筒を持っていた。水筒の蓋を開けて、カップに注いだ。


「……飲みますか」


差し出された。断る理由がなかった。受け取った。


一口。


甘い。薬草茶なのに苦くない。フランツの薬草茶とは別物だった。


もう一口飲んだ。甘みが喉の奥から染みていく。冷え切っていた体の芯に、湯とは別の温かさが届いた。


「うまいな、これ」


「猟師の人たちが採ってきたんです。冬でも凍らないシロップがあるんだって。虫から取れるって」


「虫……?」


「蜘蛛だって言ってました。脚の中に入ってるんですって」


マーカスはカップを見た。透明な液が薬草の色に混じっている。


蜘蛛の脚の中にあった液。冬でも凍らないシロップ。猟師が解体して、使える部分は持っていった——ヨーゼフがそう言っていた。使える部分。これか。


「おいしいでしょ」


子供が笑った。弱々しいけれど、笑っていた。


「……ああ」


おいしかった。


蜘蛛だと聞いた時、カップを持つ指が止まった。でもうまい。


——温泉を上がったら蜂蜜酒を頼むだろう。いつもそうだ。ブレンハイムに来たら蜂蜜酒。花の香りが鼻に抜ける、あの甘い酒。


蜂蜜は、蜂の体の中で作られる。


蜘蛛のシロップも同じだ。脚の中に溜まっていた液。


片方は喜んで飲む。もう片方で指が止まる。


……何が違うんだ。


子供はもう目を閉じていた。湯の中で、穏やかな顔をしている。


報告書は今日中に仕上げる。明日の輸送隊で王都に送る。


——上がったら蜂蜜酒だ。


10章「ポッキン◇ぐるぐる白タイツでおそろいコーデ!」完結です!


鉱山のディエゴ親方も、回復魔法では救えませんでしたが

リリアさんここに来て初めて、命を救えませんでした。


リリアさん、1章でエルナさんを若返らせているので

ハイディも回復で若返らせれば良いのですが

今回、胃が無い蜘蛛の体液で消化されてごっそり身体がなくなってますので

そうそう都合よくはいかないぞ、とこうなってしまいました。


リリアさんの能力、チートすぎるのでそうそう乱用できなくなっているのですが

いかがだったでしょうか?


11章ももちろん続きます

「ドッカン◇石になっちゃった!? 古城のふしぎな番人!」お楽しみに


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