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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
ポッキン! ぐるぐる白タイツでおそろいコーデ!

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冬の牧草地

それは——白い鎧であった。



石膏ギプス——


1852年、オランダ軍医アントニウス・マティセンが発明した

戦場の応急固定具。


それ以前、戦場で脚を複雑骨折した兵士には二つの未来しかなかった。

切断か、死か。


折れた骨は動く。動けば肉を裂き、傷口から腐る。

腐れば死ぬ。だから、腐る前に切り落とす。

切断手術の死亡率は四割を超えていた。


マティセンは、石膏を包帯に染み込ませた。

水に浸し、骨折した脚に巻く。数分で硬化する。


折れた部分が動かなくなる。

外からの衝撃にも耐える。


切らなくていい。


骨と肉を守る白い殻——

すなわち、ヒーラーが装備可能な『治療器具』である!!





少女が、布を振った。


使い古しの包帯。先端に、商人の分銅。


白い帯が弧を描いて、脚に巻きついた。


——ぱきん。


乾いた音がした。殻が割れるような。


獲物を捕える者が、自分の脚を、自分の力で折っていた。





——これは、その数日前の話。



朝。野営地を発つ前。


ミラはもう動いていた。巻き布団を丸めて紐で縛る。焚き火に土をかける。グレイとモリーの蹄を一本ずつ持ち上げて、裏を覗く。


ニコがフリッツを連れて、茂みの方へ歩いていった。


ミラの目がそっちを追っている。


「……ミラ」


「わかってる。見てるだけ」


昨日も一昨日も同じだった。ニコが「俺の仕事だ」と言って、ミラが膨れた。





昨日の道中のこと。


フリッツが急に立ち止まった。岩の根元に鼻を押しつけて、しばらく動かない。


ミラがしゃがんで、フリッツの隣で同じ岩を覗き込んでいた。何の匂いかは分からない。でも犬には分かるらしい。


フリッツが嗅ぎ終わると、少しだけ上にかけた。


「上書きした」


ミラが真剣な顔で言った。ニコが吹き出した。


——この子は動物のことになると声が大きくなる。





ヴェルナーが岩の上にいた。東の方を見ている。


「煙が一本。半日くらい先」


ニコが戻ってきた。


「こっちに来るか」


「動いてない。焚き火だと思う」


ヴェルナーの目はニコより遠くを見る。ニコは道の近くを見て、フリッツの耳と鼻で補う。三日一緒に歩いて、自然にそうなっていた。





つづら折りの坂道を、荷車が登っている。


グレイとモリーの蹄が石を踏む。かぽ、かぽ。ゲルトが手綱を引くたびに、荷車が軋んで少しずつ進む。


ブレンハイムを出て三日目。谷底の温泉地から、また山に入っている。


道が狭い。片側が斜面で、反対側が崖になりかけている。荷台の荷が傾くたびに、ヴェルナーが外側から手を添えていた。


「前に来た時よりひどいな」


「封鎖の後だからな」


ミラが荷台の端に座って、足をぶらぶらさせている。鞄の中のヨーゼフの瓶に、時々手を突っ込んでいる。もうとっくに冷たいはずだ。それでも手を入れる。硫黄の匂いだけは、まだ布に残っている。


「ミラ、寒い?」


「……べつに」


鼻の頭が赤い。





分岐を過ぎた。


つづら折りの急坂から、なだらかな尾根筋へ。道が変わる。


視界が開けた。


右も左も斜面が落ちていて、尾根の上だけが道になっている。空が近い。風が通る。雲が低くて、手を伸ばせば届きそうだった。


ミラが立ち上がった。荷台の縁に手をかけて、前を見ている。


「……広い」


温泉の谷にいた時は、いつも壁が近かった。ここには何もない。風と、枯れた草と、空だけ。


——久しぶりに、遠くが見える。


フリッツが先頭を歩いている。鼻を風に向けている。





昼を過ぎた頃。


道の脇に、ロバの糞が落ちていた。乾いて白い。


「十日かそこら」


ゲルトが荷車の上から言った。


もう少し先に、別の糞があった。ロバのより小さい。丸い粒。こっちはまだ新しい。


ニコがしゃがんだ。枝で崩した。小さな種が何粒か混じっている。潰れていない。


ニコがゲルトを見た。ゲルトがうなずいた。


何も言わなかった。


その少し先に、石を積んだ跡。炭が散らばっている。


ゲルトが降りた。炭を拾って匂いを嗅いだ。


「最近だな」


石積みの裏に薪が数本、押し込んであった。雨がかからないように板石が載せてある。


「引き返した隊が置いてった分だ。使わせてもらおう」


その先に木箱が一つ。蓋が開いている。中に干し草が敷いてあって、隅にしなびたかぶが三つ。


ニコが拾い上げた。


「グレイなら食うか。……モリーは嫌がりそうだな」


「……持っていこう」


ゲルトが道の先を見ていた。





尾根が広くなった。


ヴェルナーが朝に見た煙は、ここだった。


道の両側に枯れた草地が広がっていて、その中に灰色と白の点々が動いている。


羊だった。


三十頭ほど。群れが緩やかにまとまって、冬枯れの草を食んでいる。


その端に、人影が一つ。


杖をついた老人。毛皮の帽子。足元に犬が一匹。小さい。足が短い。


フリッツが立ち止まった。尻尾を下げて、鼻を低くする。牧羊犬がこちらを見て、一声だけ吠えた。


羊飼いが振り向いた。


荷車と、ロバと、人間を順番に見て、


「……ゲルトか」


「久しぶりだな、じいさん。封鎖の前に峠で会ったきりか」


「秋口だった。群れがもう少し下にいた頃だ」


羊飼いがうなずいて、杖を突いて、荷車のそばまで来た。


ゲルトがかぶの箱を降ろした。


「道に落ちてた。食うか」


羊飼いがかぶを手に取った。指で表面を擦って、匂いを嗅いで、


「……助かる」


「他にも拾ったか。封鎖の後」


「りんごが少し。引き返す隊から銅貨一枚で籠ごと」


少し間があった。


「ハイディに食わせてたんだが、昨日で最後だった」


羊飼いの目が、群れの端に向いた。


他の羊から離れたところに、一頭だけ動きの違う羊がいた。


毛がくすんでいる。艶がない。歩くのが遅い。前脚を一歩出すたびに、後ろ脚がついてくるまでに間がある。群れは待たない。少しずつ離されていく。


「……あの子」


ミラの声がした。荷台から降りている。いつの間に。


「あの子、寒そう」





「岩塩はあるか」


羊飼いがゲルトに言った。


「ある」


ゲルトが荷台の奥から天秤を引っ張り出した。木の棹。真ん中の支点から吊り下げる。片方に紐のついた分銅、片方に岩塩。


岩塩の塊を載せた。拳ほどの大きさ。灰色がかった白。


分銅が揺れる。棹がゆっくり傾いて、水平に近づいて、止まった。


「銅貨二枚」


羊飼いが懐から銅貨を出した。


岩塩を受け取って、群れの方へ歩いていった。老羊のそばに、岩塩を置いた。草の上に、ごとりと。


老羊が鼻を近づけた。舌が出た。ざらりと舐めた。


ミラがそれを見ていた。


ゲルトが分銅を布で拭いていた。丁寧に。角を一つずつ。拭き終わって、革の袋に入れて、天秤と一緒に荷の奥に仕舞った。





「泊まっていくか」


羊飼いの声。


「焚き火はある。風除けもある」


ニコがリリアを見た。リリアがうなずいた。


岩陰に焚き火の跡があった。石を積んだ風除け。りんごの芯が焚き火の端に転がっていた。焦げている。


ゲルトが拾ってきた薪を足した。よく燃える。


ミラが老羊のそばに行った。


「……触ってもいい?」


羊飼いに聞いている。


羊飼いは何も言わなかった。止めなかった。


ミラがしゃがんで、手を低い位置に出した。指を丸めて、甲を見せる。


老羊がミラを見た。鼻が動いた。


ミラの手に、鼻を寄せた。


「……つめたい」


耳に触った。耳も冷たい。首筋に手を入れた。毛がごわごわして、指に粘りが残る。その下に肋骨が浮いている。


——聞いてないのに、もう触っている。


ミラが立ち上がって、荷台に走った。旅行鞄をごそごそやって、藁の束を持って戻ってきた。


老羊の後ろ脚に巻き始めた。蹄の上の、毛が薄い部分。


羊飼いが遠くからそれを見ていた。


「……春になったら毛を刈る」


誰に言ったのか分からなかった。


「そのつもりで冬を越させてる」





夜。


焚き火が小さく燃えている。


ミラが老羊のそばにいた。体を両手で擦っている。背中から腰。肋骨に沿って、手のひらを押しつけるように。


老羊が最初、身を引いた。


ミラが手を止めた。


待った。


しばらくして、もう一度。首の横から。ゆっくり。


老羊の耳が動いた。嫌がってはいない。


リリアは焚き火の反対側で、旅行鞄を開けていた。


いつもは救急鞄ばかり見ている。でも今日は薬も包帯もミラが補充してくれていた。たまには旅行鞄を見てやらないと。


火起こし用の栗の鬼皮。袋に入れてある。鼻を近づけた。焦げた甘い匂い。あの村の焼き栗屋のおじさんの声が聞こえる気がした。出発の朝、宿のヨハンナさんが焼き栗を袋に詰めてくれた。「皮は火起こしに最高だよ」。ベルちゃんに焼き栗をあげた日。


カミラのメイスに手が触れた。鉄の感触。——油が塗ってある。錆止めの。リリアはやっていない。ミラだ。温泉のギルドで誰かに教わったのだろう。


インゴットを包む布も洗濯してあった。最後の銅インゴット。ディエゴたちの。


鞄の底に、使い古しの包帯が丸めて入っていた。


何度も洗って薄くなっている。もう救急鞄には入れられない。


紅蓮の牙にいた頃、仲間に巻いた余りや、使った後に洗って乾かしたもの。Aランクパーティーだから新品はいくらでも支給された。余りや洗い直しは、普通は捨てる。


捨てなかった。いつか、誰かに必要になるかもしれないから。


ニコが弓の弦を張り直している。ヴェルナーがそれを見て、自分の弓も確認している。ゲルトは荷車の幌を直している。


フリッツが焚き火のそばで伏せている。目を閉じている。でも耳がぴくぴく動いている。


初日の夜、ミラがフリッツのそばに寝ようとした。グレイやモリーにするみたいに。フリッツは身を起こして、少し離れた。


「あいつは夜も仕事だ。くっつかれると動けねえ」とニコが言った。


ミラはそれから、フリッツの隣には行かない。でも時々、あの耳を見ている。ぴく。ぴく。寝ながら音を拾っている。


——ロバとは違うんだ、と思ったんだろう。


牧羊犬は群れの端で伏せている。


温かい夜だった。


尾根の上は風が強いはずなのに、石の風除けと焚き火で、不思議と温かい。


ミラの手が、老羊の背中の上で止まっていた。老羊の呼吸が穏やかになっている。ミラもうつらうつらしている。


リリアは旅行鞄を閉じた。膝に抱えた。


鞄の中で、インゴットがことりと鳴った。


10章「ポッキン! ぐるぐる白タイツでおそろいコーデ!」はじまりました!


章を追うごとに、どんどん動物たちに興味津々になっていくミラさん。

執筆中にひょっこり生まれたキャラなのですが

今では作者自身も「親戚の子」や「近所の子供」の成長を見守るような

どこか親バカ(?)な視点になってしまっています。


気づけば10章、そしてついに90話!

ここまで来られたのは、間違いなく皆様のおかげです。


最近、私生活のリズムが大きく変わったこともあり

更新時間が前後してしまう日が増えています。


「いつもの時間に更新がない……」と

読むペースを乱してしまっている方には本当に申し訳ありません。


そんな中でも、皆さんが送ってくださる応援は本当に励みになっています。


「この周期で読んでくれているんだな」

「ラストレスキューまで貯めてから読んでくれているのかな?」と

皆さんの体温が伝わってくるようで、とても心強いです。


どんなスタイルであれ

最新話まで辿り着いてくださる方は

私と一緒に物語を駆け抜けてくれる

「伴走者」だと思っています。


引き続き、リリアやミラたちの旅に

お付き合いいただければ幸いです!

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