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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
シュワシュワ♨️お肌つるつるピーリング体験!

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新しい肌

翌朝、ヨーゼフが窪地の縁に行った。


匂いを嗅いで、戻ってきた。


「まだだ」


翌々日も行った。


朝日が斜面を照らす頃に一人で出かけて、昼前に戻ってきた。


「鳥が降りてきてない。まだ気が残ってる」


カタリナの精霊がまだ風を送っている。二日目の朝、宿の裏手から谷の方を見た。風が見えるわけではない。でも窪地の上の空気が少しだけ揺れている気がした。


三日目の朝。


ヨーゼフが窪地の縁から戻ってきた時、顔が違っていた。


「散った。降りていい」


判断の根拠を聞く前に、ヨーゼフが付け加えた。


「鳶が降りた。縁の岩に」





窪地に降りたのは五人だった。


カタリナ、ニコ、ヨーゼフ、ヨーゼフの猟師仲間のゲルントという男、それとヴェルナー。


リリアは行かなかった。


「あんたはもう降りなくていいよ」


カタリナが言った。


ニコはカタリナについていった。


ヴェルナーは荷運びだ。





待っている間、ルッツの部屋にいた。


ここ数日、回復魔法を中断していた。


ルッツの手を取って、光を当てる。ルッツが目を閉じる。


「……あったかい」


小さな声。この子はいつもそう言う。


心臓に光を送りながら、脈を診る。弱い。でも安定している。テオブロマの薬効がまだ残っている。


フリーダが隣に座って、ルッツの額の汗を拭いている。


治療が終わって廊下に出ると、ミラが座っていた。


鞄を膝に乗せている。蓋が開いている。中を覗くと——薬瓶が並び直されていた。包帯が巻き直されている。使った分の薬草が、新しいものに入れ替わっている。


「……補充した」


ミラが鞄の蓋を閉じた。


「いつの間に」


「昨日」


「……ありがとう」


ミラは頷いて、立ち上がった。鞄をリリアに渡して、そのまま廊下を歩いていった。


鞄を受け取った。重さが少し変わっている。





昼過ぎに、窪地の組が戻ってきた。


ヴェルナーの背に大きな籠。中に白い卵が並んでいる。殻がしっかりしている。毒は染み込んでいなかった。温泉の湿気で温かい。


ニコが黙って手を洗っていた。沢水で。指の間を丁寧に。


カタリナがブルーノに報告している。


「全部埋めた。尾根を越えた向こう側。源泉には影響ない」


ブルーノが頷いた。


「死骸は沢水で洗ってから運んだ。深く掘った。掘り返されない深さに」


ヨーゼフが横から補足する。


「こいつの肉は食えねえ。毒が染みてる。骨も鱗も同じだ。触るなら手袋をしろ」


「——あいつらだって、ここが良い場所だと思って来ただけだよ」


カタリナが言った。


ブルーノが卵の籠を見た。


「温泉卵にでもするか」





夕方。


カタリナが温泉に行くと言った。


「付き合ってよ、リリア」


断る理由はなかった。体は痛い。関節が軋む。温泉に浸かれば楽になる。


着替えの小屋で湯浴み着に替えた。麻の薄い布。


カタリナの体を見た。


肩から背中にかけて、白っぽい線がある。古い傷跡。何本も。服を着ていれば見えない場所に。


前にも見た。ヒーラーが縫ったものではない。手当をする人がそばにいなかった跡。


湯に入った。


段々のプール。石灰華の棚田を流れ落ちる湯。酸性の湯が肌を刺す。関節の痛みが、じわりと和らいでいく。


しばらく黙って浸かっていた。


「——ねえ」


カタリナが肩を湯面から出した。湯浴み着の布越しに、肩の傷跡が透けている。


「気になる?」


「……少し」


カタリナが肩を回した。


「山で二か月やってると、こうなる。木の枝で切った跡。岩の角でぶつけた跡。リザードマンの爪で——」


指で一本の傷を辿った。肩から鎖骨の下にかけて、斜めに走る白い線。


「これは前のリザードマン。あいつの爪は毒はないけど、汚いんだ。化膿して、自分で膿を出して、布で巻いた。治るまで二週間」


二週間。


ヒーラーなら、一日で塞げる傷だ。


「そばにヒーラーがいたら——」


「いなかったからね」


カタリナの声は軽い。


傷跡を見ていた。湯に浸かった肩。古い傷の盛り上がり。


——縁が、少し浮いている。


「……カタリナさん」


「ん?」


「少し、触っていいですか」


カタリナが首を傾げた。


手を伸ばした。カタリナの肩に触れる。指先で傷跡の縁をなぞる。


やっぱり。浮いている。古い傷の組織が、柔らかくなっている。


温泉の湯が、古い傷の表面を柔らかくしている。固くなった皮膚が、酸で少しずつ緩んでいる。


——古い皮膚を剥がして、新しい肌にしてくれる。


開湯伝説。あの老人が語った言葉。羊の話。


温泉の水を手に含ませた。そこに、回復魔法を込めた。


カタリナの肩を、そっとこすった。


薄い皮が剥がれた。古い傷の表面が、うすく、はがれ落ちた。


下から出てきたのは——きれいな肌だった。


「……え」


カタリナが自分の肩を見た。指で触った。


傷跡があった場所に、新しい肌がある。まだ薄い。赤みがある。でも——傷ではない。


「……何したの」


「温泉の酸で古い傷が柔らかくなってて、そこに回復魔法をかけると、新しい皮膚の再生が——」


言いながら、止まった。


あの黒いのの鱗を酸で溶かした。その下から灰色の肌が出てきた。死んだ。


カタリナの傷跡を酸で柔らかくした。その下からきれいな肌が出てきた。治った。


「……同じだ」


「何が」


「……いえ」


カタリナが自分の肩を触っている。何度も。


「……きれい」


小さな声だった。





しばらく湯に浸かっていた。


カタリナが目を閉じている。湯気の中で顔だけ出している。


「あんたさ」


目を閉じたまま、カタリナが言った。


「あの子がいるから、戦えてるでしょ」


「……」


「あの格好して窪地に降りた時。あの黒いのの前に立った時。面の中で息が止まりそうになった時。——帰ろうって思ったでしょ。あの子のところに」


答えなかった。


「それ自体は悪いことじゃないよ。誰だって理由がなきゃ死地には行けない」


カタリナが目を開けた。湯気の中で、リリアを見ている。


「でもさ——あの子は、あんたが戦うための理由じゃないよ」


「……」


「あの子にはあの子の人生がある。あんたが死んだら、あの子には何も残らない」


水の音がした。湯が段々の石灰華を流れ落ちていく音。


「……この町で、引き取り先を探しました」


声が震えた。


「見つかりませんでした。前にも探しました。前の町でも、その前でも」


カタリナが黙って聞いている。


「どこに行っても見つからなくて——でも——」


「見つからなくて、ホッとしたんじゃないの」


リリアの口が閉じた。


「……はい」


声がかすれていた。


「毎回、見つからなくて、ホッとしてます。この子と一緒にいられる。まだ一緒にいられる。——それが、駄目なのは分かってます」


「駄目とは言ってない」


カタリナの声が少し柔らかくなった。


「ただ——先延ばしにしてもいいけどさ。でもいつか、決めないといけないよ」


リリアは湯の中で自分の手を見ていた。


「あんたはヒーラーだから。あんたの近くにいれば、あの子は守られる。でもそれは——あの子の人生じゃない。あんたの人生に、あの子がぶら下がってるだけだ」


「……」


「私はさ」


カタリナが自分の肩を見た。傷跡が薄くなった肩。


「ヒーラーのいない場所でずっと生きてきたから。傷は自分で塞いで、自分で巻いて、自分で歩く。そうやって生きてきた」


「でも今、あんたに傷を治してもらった。——二か月分の傷が、一回で」


「あの子にも、いつか自分で歩く力がいるんだよ。あんたがそばにいる間は、あの子はずっとあんたの鞄の紐を掴んでる。掴んでるうちは——自分の足で立てない」


湯が流れている。段々の石灰華を、かけ流しの湯が流れ落ちていく。


リリアは何も言えなかった。


カタリナが湯から上がった。湯浴み着の裾を絞りながら。


「——まあ、今すぐじゃなくていいよ。今日は傷を治してくれてありがとう」


振り返って、少しだけ笑った。


「温泉ヒーラーでも始める? 儲かるよ、きっと」


笑えなかった。





部屋に戻った。


ミラが寝ている。枕元にグレタの薬草袋がある。旅の間ずっと持っている小さな布袋。


紐を緩めて、口を開けた。乾燥した草の匂い。甘くて、苦い。


ミラの寝顔を見た。


ミラの手が、シーツをぎゅっと掴んでいる。寝ていても離さない。


薬草袋を枕元に戻した。


窓の外で、風の音がする。


布団に入った。目を閉じた。


眠れなかった。

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