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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
シュワシュワ♨️お肌つるつるピーリング体験!

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85/108

ぴ。


背中の筒から、音がした。


ぴ。ぴ。


丸い窓の針が、左に寄っている。


00:54。


数字の読み方は分からない。だが針が戻っていく先に「0」がある。「0」は知っている。オークに使ったあの矢にも、液体の目盛りの端にこの数字があった。中身が空になった時に、針が指す場所。


全部が「0」になった時、この面の中に風を送ってくれている何かが止まる。


長くない。


目の前で、あの黒いのが地面に這いつくばっている。カタリナの風に押さえつけられたまま、それでも前足で地面を掻いている。鎧が半分以上剥がれている。黒い鎧の下に、灰色の肌があった。その肌が地面に擦れて、赤いものがにじんでいる。


それでも、止まらない。


——もういい。


ぴ。ぴ。ぴぴぴ。


音の間隔が狭まっている。


だがこの布に毒がかかっている。あの黒いのの鱗が溶けた液。あの液から、毒の気が出る。このまま仲間のそばに戻ったら。


振り返った。斜面の上に、みんながいる。


ニコが弓を構えたまま、こちらを見ている。弦に指がかかっている。あの鉄の鱗がある限り、射っても弾かれるだけだと知っている。それでも構えたまま、外さない。


ヨーゼフが隣で同じ構えをしている。猟師の目。獲物を見る目。


ヴェルナーは二人の後ろにいた。弓に矢をつがえている。だがあの黒いのには狙いをつけず、斜面の下を広く見渡していた。


「カタリナさん——風を——私に——!」


面の中から叫んだ。くぐもった声。


カタリナが片膝をついたまま、こちらを見た。一瞬。片手を振った。


風が来た。布の表面を舐めるように。黒い飛沫が剥がされていく。


背後で、地面を掻く音がした。重い。近い。


風をこちらに分けた分、あの黒いのに向けた押さえが弱まった。這ってくる。


弦の音がした。速い。二つ同時。ニコの間合いではない。もっと雑な音。


岩に当たる音。地面に刺さる音。鱗を弾く音はしない。次々と、背後に落ちていく。


這う音が、止まった。


——誰かが、あの黒いのの行く先を塞いでいる。こちらに来させないように。





背後で、這う音も弓の音もしなくなっていた。


走りながら振り返った。


あの黒いのは、もうこちらを見ていなかった。地面に前足を突いて、体を起こそうとしている。後ろ足が震えながら伸びる。


あの黒いのが、二本の足で立ち上がった。


四つん這いで地面を這っていた獣ではない。二本の足で立つ、蜥蜴の民。鎧を半分失った、灰色の体。


あの黒いのの目が、窪地の方を向いた。


リリアは知っている。あの窪地に何があるか。


倒れている仲間。緑色の肌に変わり果てた仲間。腹を上にして、力なく水面に浮かぶ仲間。立っているものは誰もいない。動くものも、いない。


白い卵だけが無防備なまま、さっきと同じ場所に並んでいる。


立ち上がったから——見えてしまった。


声が上がった。


咆哮。


だが——あの時の声ではなかった。


ニコがいた場所の岩を噛み砕いた時の、殺意の声ではなかった。カタリナの風に抗って這い寄った時の、執念の声でもなかった。


低くて、長くて、喉が裂けるような。


リリアの知っている言葉の中に、あの声を受け止められるものがない。


谷に反響した。反響して、反響して——消えた。





——あの黒いのが、まだ生きている。


あの声が、まだ耳にある。仲間を全部失った声。卵の前に立ち尽くして上げた声。


治せない。元に戻せない。私がやったことだから。


布に毒がかかっている。


どうする。どれから。何から。


風の中で——別の音がした。


鋭い。細い。風を裂くように横切った。


音の先を見た。


あの黒いのの首元に、矢が刺さっていた。


もう一本。風を裂く音。脇腹に。


二本、同時に飛んできた。一本があの黒いのの手前の地面に刺さる。もう一本が背中の向こうに消えた。挟んだ。


また二本。一本が岩に当たって砕ける。もう一本が鱗の残った肩を掠めた。


また二本。一本は地面に刺さる。もう一本が、開いたままの口に入った。


あの黒いのの体が大きく跳ねて——窪地の縁で、崩れた。


止められなかった。止める理由もなかった。あの黒いのが町に降りれば、子供たちが食われる。分かっている。


分かっていて——最後まで、目を逸らせなかった。





あの黒いのの目が、濡れていた。


透明な雫が、灰色の頬を伝っている。


窪地で死んだ仲間のためか。守れなかった卵のためか。この地の湯で得た鎧が毒に変わった——自分自身に向けた涙か。


分からない。分からないまま——涙が止まる。目が乾く。


あの声だけが、耳の奥に残っている。





静かだった。


窪地から音がしない。あの黒いのも動かない。風だけが吹いている。


面の中で、長く息を吐いた。吐き切って——また吸った。まだ吸える。面の中にはまだ風が来ている。



ぴぴぴぴ——


丸い窓を見た。00:09。あとわずかで全ての数字が「0」になる。


ぴーーーーー


00:00。


風が止まった。面の中に来ていた風が。


面の中の空気が、急に重くなった。吸える。まだ吸える。だが新しい空気はもう来ない。この中に残った分だけ。


急げ。


回し柄のついた筒を地面に置いた。傾いて、汲んだ湯がこぼれる。もうほとんど残っていなかった。


布を脱ぐ。腕を抜く。足を抜く。後ろに落とす。


背中の筒を肩から外して、後ろに落とす。


面はまだ外せない。ここはまだ、あの気の中だ。


斜面を上る。一歩ごとに面の中の空気が薄くなる。視界がにじんだ。丸い窓が曇ったのだと思った。


ニコが駆け寄ろうとした。首を振る。手を突き出す。


面に手をかけた。頬と額に食い込んでいた縁を掴んで、引き剥がす。なるべく遠くへ投げた。


手袋を外す。片方の手首をもう片方の指先でつまみ、裏返すように引き下ろす。握ったまま、素手の指を残りの手袋の内側に入れて包み込む。後ろに落とした。


振り返らない。背後で、淡い光が灯るのが分かった。面から。手袋から。布から。筒から。壺から。道に沿って点々と光が立ち上って——消えていく。


鞄を背負った少女だけが残った。


肺が燃えている。目の前が暗くなる。


あの声が、まだ耳の奥にある。あの黒いのが仲間を見て上げた、あの声。


——私がやったことだ。


でも。


ミラが待っている。あの子のところに帰らないと。


口を開けた。


「ぷはーっ……!」


空気が流れ込んでくる。視界はまだ暗い。膝が笑って、その場にしゃがみ込んだ。


頬が濡れている。面の跡が痛いのだと思った。





匂いがした。


硫黄ではない。毒でもない。


温泉の匂い。湯気の匂い。谷を抜ける風の匂い。


何度も吸って、何度も吐いた。呼吸のたびに、指先が温かくなっていく。


ヴェルナーが目の前にいた。座り込んでいたはずなのに、いつの間に。右手が震えている。水筒を差し出している。左手は腰のナイフにかかったままだった。


受け取った。蓋を外す指がうまく動かない。口をつけて、一瞬で飲み干す。


咳き込んだ。何度も。水が気管に入ったのか、体が受け付けなかったのか。


ヴェルナーの矢筒が空だった。


ニコはカタリナのそばにいた。弓はもう背に負っている。矢筒の矢が一本だけ減っている。一本しか射っていない。肩で息をしているカタリナに、水筒を手渡している。


ヴェルナーの方を一度だけ見た。それから前を向いた。


ヨーゼフがいない。さっきまで立っていた場所に。


背負い鞄に紐で結わえていた木のカップを手に、斜面を駆け下りていく背中が見えた。源泉の方へ。


しばらくして戻ってきた。カタリナのそばに膝をつき、カップから何かを飲ませている。カタリナが顔をしかめた。


それからヨーゼフはもう一度、源泉に走った。


戻ってきて、リリアの前にしゃがんだ。木のカップを差し出す。湯気が立っている。温泉の匂い。


「一口だけ含め。そのあと水で流し込め」


短い声。猟師が初めて喋った。


口に含む。濃い。舌がびりびりする。飲み込む前にヴェルナーの水筒を——空だった。ヨーゼフが自分の水筒を差し出す。水で流し込んだ。


喉の奥が熱い。胃の底に、何かが落ちていく感覚。


「源泉は薄めて飲むもんだ。だが今は効く」


ヨーゼフはそれだけ言って、立ち上がった。





地面に手をついていた。いつからか分からない。


「……治療した……だけ……」


誰にも聞こえない声だった。


古い皮膚を剥がして、新しい肌に。開湯伝説と同じことをした。


ただ——新しい肌が来る前に、死んだ。


黒から灰色に戻った蜥蜴の頬を伝っていた雫と、自分の頬を伝っている雫が、同じものかどうか分からなかった。


この作品は「次からずっとそれだけ使えば勝てるじゃん」になるものを簡単に出すわけにいかないので

今回は最終救護のせいで発生した

硫化水素の後始末に尺を割く、ここまでなかった構成になりました。


とどめを刺すのが仲間たちの通常武器、というのもここに来て初めてな気もします。

厳密に言うとスライムの殺し合いで身近な道具や石とか使ってはいるはずなのですが…


バトルも終わり、この章も締めに向かいます。お楽しみに!


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