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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
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湯けむりの食卓

食堂の戸を開けた。温かい空気が、頬と鼻を撫でた。


煮込みの匂いがした。


食堂に入ると、鍋の前に親父とゲルトが並んでいた。親父が匙で味見して、ゲルトが横から覗き込んでいる。二人とも蜂蜜酒の器を持っている。煮込みを作りながら飲んでいたらしい。


ミラを背中から降ろした。温泉でぐっすり眠っていたのに、煮込みの匂いで目を覚ましている。鼻が先に起きた顔をしている。


「……おなか、すいた」


カタリナが笑った。



親父がルッツの器に、一番先によそった。匙で鍋の底を探って、とろとろに煮崩れた肉を掬い上げている。


「鹿だよ。猟師が今朝仕留めてきた。朝からずっと煮てたから、柔らかくなってるはずだ」


ルッツの前に器を置いた。それからミラの前にも。同じように柔らかい肉を選んで。


大人たちの器には、しっかり歯ごたえの残った肉が入っている。誰も何も言わない。


ルッツが匙を持った。フリーダが隣で見ている。


一口。ルッツの目が少し開いた。


「……おいしい」


フリーダの手が膝の上で握られた。ルッツがヴェグシャイトで食べられたのは白湯とパンの欠片くらいだった。煮込みを美味しいと言えるだけの力が、戻ってきている。


リリアも自分の器に口をつけた。鹿肉が柔らかい。本来は硬い肉だ。じっくり煮たのだろう、噛むと繊維がほどけて、脂の甘みがじわりと広がる。蕪が煮崩れる寸前で、舌の上でほろりと崩れる。人参が甘い。温泉で抜けた体の力が、腹の底から戻ってくる。


……美味しい。


親父の煮込みを、カタリナが三杯食べた。


「うまい」


三回言った。一杯目で言い、二杯目のおかわりを受け取りながら言い、三杯目は器に口をつけたまま呟いた。


ニコが自分の器に煮込みを足しながら言った。


「親父の煮込みは昔からうまいんだ」


「猟師が持ってくる肉で作るから手を抜けないのさ」


親父がぶっきらぼうに言った。


カタリナはパンも二個食べた。一個目をちぎった時、手が止まった。


「……柔らかい」


それだけ呟いて、口に入れた。目を閉じて、ゆっくり咀嚼している。ちぎった断面から湯気が立っている。


「山だと堅パンしかないからさ。歯が欠けるかと思った」


ニコが蜂蜜酒の器を差し出した。カタリナの器にこつんと当てる。


カタリナが器を受けて笑った。


「二か月ぶりだからね。勘弁して」


「何の仕事だ、二か月も山に籠もるって」とニコが聞いた。


「んー、まあ、掃除みたいなもん」


カタリナが曖昧に笑った。ニコも深追いしなかった。


ルッツが器を半分ほど空けて、匙を置いた。目が閉じかけている。


「すみません、先に……」


フリーダが立ち上がった。ディーターがルッツを抱え上げる。ルッツの手から匙がこぼれそうになって、ミラがそっと受け取った。


「おやすみ」


ミラが小さく言った。ルッツはもう眠っている。


三人が食堂を出ていった。ミラがリリアの隣に戻って、また煮込みの続きを食べ始める。スプーンを持つ手が止まらない。この子もよく食べるようになった。


ミラがカタリナの方を見ていた。それからリリアの袖を引いて、小声で聞く。


「おねえちゃんも冒険者なの?」


リリアに聞いている。カタリナには直接聞けない。まだそこまでは近くない。


「……どうだろう。風の魔法使いって言ってたけど」


カタリナが聞こえたらしい。ミラの方を向いた。


「冒険者っていうか、便利屋かな。風が使えると色々頼まれるんだよね。あっちの山のあれ片付けてとか、こっちの谷の何とかしてとか」


「……大変」


カタリナの蜂蜜酒を持つ手が止まった。一瞬だけ。すぐに口に運んで飲んだ。


「大変だよ。だから休みの日はこうやって飲むの」


蜂蜜酒を掲げて見せた。ミラが小さく頷いた。


ミラが自分の器から、匙でとろとろの肉をすくった。カタリナの器にそっと入れる。


カタリナが手を止めた。ミラを見ている。


ミラはもう自分の煮込みに戻っている。何でもない顔をしている。


カタリナが卓の隅から小皿を引き寄せた。蜂蜜酒のつまみらしい。蜂蜜をかけたチーズが薄く切って並んでいる。一切れ取って、ミラの前に置いた。


ミラが顔を上げた。


「……いいの?」


「お返し」


ミラがチーズを口に入れた。蜂蜜の甘さに、少し目を丸くしている。


穏やかだった。


蜂蜜酒と煮込みの匂いが食堂に満ちている。ストーブの薪がぱちぱちと鳴っている。カタリナが四杯目に手を伸ばしている。ニコが自分のも注ぎ足している。親父が鍋を片付けながら、二人の話を聞いている。


こういう夕食は、いつぶりだろう。


ミラの頭が、リリアの肩に寄りかかってきた。また眠りかけている。温泉で眠って、食べて、また眠い。子供の体は正直だ。


この子は、手を握っていないと眠れなかった。


服の裾を掴んで離さなかった。眠る時も、歩く時も。離したら一人になってしまうみたいに。


今は、肩に寄りかかるだけで眠れる。手を握らなくても。誰がそばにいるか確かめなくても。


ここまで来るのに、どれだけかかっただろう。


ミラの寝息が聞こえている。重くはない。軽くて、温かい。





お話のペース的には最終救護を使う方に進めたいところなのですが

そうすると、ルッツとミラを置いてけぼりで大人だけで話が進んでしまうのと

温泉でまったりしているパートがふだんのバトル展開より反応が良いので

もう少しだけほっこりパートを続けさせてもらいました。


そろそろ、あからさまに怪しかった何かがジワジワ迫ります。


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