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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
キュンキュン◇本命チョコの食べすぎ注意!

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救援要請

村の門が見えた。


足が重い。体も重い。誰も何も言わない。剣を引きずる音だけが、夜道に響いていた。





門番が駆け寄ってきた。


「戻ったか……! 怪我人は」


「軽傷が数人。命に別状はない」


コンラートが答えた。声に力がない。


門番の顔が曇る。聞きたいことがあるのだろう。でも、聞けない。答えは顔に書いてある。





「リリア!」


小さな影が走ってきた。


ミラだった。息を切らして、リリアの前で止まる。上から下まで見て、傷がないか確かめている。


「……無事」


「うん。無事だよ」


ミラの肩から力が抜けた。





ギルドに入る。


イルマが待っていた。冒険者たちの顔を見て、何も聞かずに椅子を出す。


「……みんな、座って。報告は座ってからでいいから」


コンラートが腰を下ろした。他の冒険者たちも続く。


リリアは壁際に立った。ミラが隣にいる。





「風車と倉庫は」


イルマが聞いた。


「食糧は、ほぼ全滅だ」


コンラートの声が、ギルドに重く落ちた。


「運び込んだ分は?」


「備蓄庫にある分だけが残った」


イルマが目を閉じた。


「……何日持つの」


「一週間。切り詰めても、十日が限界だ」





誰も何も言わなかった。


一週間。たった一週間。


その間に、どうにかしなければ——全員が飢える。





翌朝から、村が動き出した。


配給制が始まった。一人あたりの食糧が決められて、朝と夕に分けて配られる。


列ができていた。老人も、子供も、黙って並んでいる。


誰も文句を言わない。言っても仕方がないと分かっている。





人手が足りなかった。


大人は防衛の準備がある。柵の補強、武器の手入れ、見張りの交代。やることは山ほどあった。


子供たちが駆り出された。


水汲み、薪運び、配給の手伝い。小さな手が、あちこちで動いていた。





ミラもその中にいた。


井戸から水を汲んで、桶を運んでいる。両手で抱えて、少し前かがみになって。


——重いだろうに。


でも、ミラは止まらない。一歩ずつ、ゆっくり、でも確実に歩いている。


「……手伝おうか」


声をかけた。


ミラが首を振った。


「リリアは怪我人を」


それだけ言って、また歩き出した。


その背中が、少しだけ大きく見えた。





リリアはギルドに戻った。


軽傷の冒険者たちがいた。昨夜の戦闘で負った傷。回復魔法で治したが、まだ体力が戻っていない者もいる。


「休んでいてください。無理に動くと、傷が開きます」


「……すまねえな」


若い冒険者が苦笑した。





昼過ぎ。


イルマがギルドの奥に入っていった。


リリアは知らなかったが、そこに緊急用の魔法通信具があるらしい。普段は使わない。使う事態が、今まで起きなかったからだ。





しばらくして、イルマが戻ってきた。


顔色が悪い。


「……どうだった」


コンラートが聞く。


「南の村。ゴーレムの被害で復旧中だって。人を出す余裕がないって」


「他は」


「東の駐屯地。人は出せるが、到着まで五日かかる。間に合わない」


コンラートが舌打ちした。


「フェンリルがいる。並の増援では——」


「分かってるわ」


イルマが首を振った。


「だから、上に繋いだの」





「上?」


コンラートが聞き返した。


「私の出身の魔法学校に連絡を取ったの。そこからグランドマスターに繋いでもらった」


リリアは息を呑んだ。


グランドマスター。魔法学校の最高位。大陸に五人しかいない、最強の魔法使いたち。


「……来てくれるの?」


「一人だけ、近くにいたわ。カタリナ・ヴェスター。風のグランドマスター」


イルマが地図を広げた。


「今、高速馬車で向かってるって。到着まで——三日」


「三日……」


「それまで持ちこたえて、って言われたわ」





三日。


食糧は一週間分ある。三日なら、持つ。


でも——狼たちが、三日も待ってくれるだろうか。





夕方。


コンラートが冒険者を集めた。


「籠城する」


短く言った。


「備蓄庫は石造りだ。窓がない。扉は一つ。守りやすい」


「村人は全員、備蓄庫に入れる。冒険者は交代で見張り。それ以外は休め」


誰も異論はなかった。





ニコがミラを呼んだ。


「お前、厩舎の見張りをやれるか」


ミラが頷いた。


ニコが口笛を吹いた。短く、二回。


グレイとモリーが耳を立てた。ニコの方を見る。


「こいつの言うことを聞くんだぞ」


ニコがミラの肩に手を置いた。グレイが鼻を鳴らした。分かった、とでも言うように。


「グレイとモリーの近くにいろ。何かあったら、縄を解いてやれ。あいつらは賢い。自分で逃げられる」


「……うん」


「お前は備蓄庫に走れ。いいな」


「……うん」


「夜は冷える。ギルドから野営用の布団を借りてやる。テントもだ」


ニコがミラの頭をぽんと叩いた。


「頼んだぞ」





リリアはその様子を見ていた。


ミラが仕事を任されている。大人に頼りにされている。


——いつの間に、こんなに。


嬉しい。嬉しいはずなのに、胸の奥がきゅっとなる。





日が暮れた。


村人たちが備蓄庫に移動していく。毛布を抱えた老人。子供を抱いた母親。みんな、黙って歩いている。





ルッツの姿が見えた。


顔色が悪い。唇に血の気がない。父親に手を引かれて、ゆっくり歩いている。


「ルッツくん」


声をかけた。


ルッツが顔を上げた。笑おうとして、うまく笑えていない。


「……リリアさん」


「体調、どう?」


「……だいじょうぶ」


嘘だ、と思った。でも、今ここで問い詰めても仕方がない。


「何かあったら、すぐ呼んでね」


ルッツが小さく頷いた。





信者の男がいる。


列の最後尾。配給を受け取らずに、ただ立っている。


「……食べないんですか」


聞いてみる。


男は答えない。目が、どこか遠くを見ている。


「これは神の裁きだ」


ぽつりと言った。


「抗っても無駄だ。受け入れるしかない」


リリアは何も言えなかった。





夜が来た。


備蓄庫の中は、人でいっぱいだった。毛布にくるまった村人たちが、壁際に並んでいる。子供の泣き声が聞こえる。誰かが咳をしている。


暖炉に火が入っていた。石造りの建物は冷えるが、これだけ人がいれば、体温で少しは暖かくなる。





リリアは隅に座っていた。


ミラは厩舎にいる。一人で。


——一緒に寝ようか、と言おうとした。


でも、ミラは首を振るだろう。


「リリアは暖房のあるところで休んで」


そう言うだろう。


だから、言わなかった。





遠くで、遠吠えが聞こえた。


一つ。二つ。三つ。


重なり合って、夜空に響いていく。


狼たちは、待っている。





備蓄庫の中が、しんと静まり返った。


子供の泣き声も止んだ。


誰もが、息を潜めて、その声を聞いていた。





三日。


あと三日、持ちこたえればいい。


リリアは目を閉じた。


——大丈夫。


——きっと、大丈夫。


そう言い聞かせながら、眠りに落ちていった。

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