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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
キュンキュン◇本命チョコの食べすぎ注意!

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遠吠えの夜

街道は北へ続いている。


木々が増えてきた。道幅が狭くなり、轍の跡も薄い。この先に行く者は少ないのだろう。


コンラートは口を開かない。黙って歩いている。足取りは確かだが、時おり右足を引きずっている。さっきの回復魔法で傷は塞いだはずだが、筋を痛めていたのかもしれない。


「足、まだ痛みますか」


「歩ける」


それきり黙った。


リリアもそれ以上は聞かない。





一時間ほど歩いて、コンラートが足を止める。


「……ここだ」


街道の脇に、大きな岩が二つ並んでいる。人の背丈の倍ほど。その間を抜けると、急な斜面が下に落ちている。


岩肌にこすれた跡がある。何かを引きずったような。血の跡。


「崖下の岩陰に入れた。狼に見つからないように」


コンラートが斜面を見下ろす。


「崖は狼が降りられない。岩陰なら匂いも風で散る。……そう願って置いてきた」


「どのくらい経っていますか」


「置いてきたのは昨日の朝だ」


丸一日以上。


斜面を降りた。コンラートが先に行こうとしたが、足が滑った。リリアが腕を掴んだ。


「……すまん」


「いいから」





岩陰に、二人がいる。


動かない。


——この距離なら届く。


リリアは斜面の途中で両手をかざしていた。走りながら、もう光が溢れている。


二人を包む。


——指が動いた。壁にもたれている方の男。生きている。


斜面を駆け下りる。足場が崩れる。構わない。


コンラートが後ろから降りてくる。


「ユルゲン。ハインツ。——迎えに来た」


ユルゲンの目が、薄く開く。


唇がひび割れている。声がかすれて、ほとんど息だった。


「……来た、のか……」


「ああ。来た」


ユルゲンの目がリリアに移る。


「……誰だ……」


「ヒーラーだ。連れてきた」


ユルゲンの唇が動く。声にならない。目の端が光っている。


リリアはもう膝をついていた。聖水をかけ、手をかざし、光を注ぎ込んでいく。さっきの範囲回復で魔力はほとんど残っていない。それでも手が止まらなかった。出血が止まる。傷が塞がっていく。だが骨はまだだ。内臓の傷もまだ治りきっていない。光がちらつき始めている。もっと。もう少しだけ——


「やめろ」


コンラートの手がリリアの手首を掴んでいた。


「……まだ、です」


「続けないとこいつらは死ぬのか」


「……死にません」


「なら止めろ。お前が倒れたら四人で帰ることになる」


離してほしかった。あと少しで骨が繋がる。ハインツの脚はまだ折れたままだ。このまま動かしたら——


でもコンラートの手は離れない。強い力ではない。ただ、離さない。


リリアはハインツの脚を見た。


歩けない。でも、死なない。


「……分かりました」


手を下ろすと、視界が傾いた。





日が傾いていた。


コンラートが空を見上げる。


「今から登って、村まで歩くと夜になる」


「……はい」


「夜の街道で狼に会いたいか」


リリアは首を振る。


「ここで朝を待つ。崖は狼が降りられない」


コンラートが岩陰を見回す。


「火を焚ける。岩が風を防ぐ。悪くない」


ユルゲンが壁にもたれたまま口を開く。


「……昨日の夜も……ここで火を焚いた。狼は……降りてこなかった」


コンラートが頷いて、斜面を登っていく。薪を集めに行くのだろう。リリアも立ち上がろうとしたが、膝から崩れた。


「お前はそこにいろ」


斜面の途中から、コンラートの声が降ってきた。





火が燃えている。


コンラートが崖の上から集めてきた枯れ枝に、リリアが火の魔法で炎を点けた。手のひらの中で小さな火を作って、枝に移す。それくらいの魔力ならまだ残っている。


岩壁が熱を返して、狭い岩陰がゆっくり温まっていく。ハインツはまだ目を覚まさない。呼吸だけが規則正しく続いている。ユルゲンは火を見つめたまま、しばらく黙っていた。


「……あんたたちが来なかったら、もう一晩は持たなかったと思う」


火の向こうでユルゲンの目が揺れている。


「ハインツは昨日の夕方から意識がなくなって……俺も、今朝から腕の感覚がなくなりかけてた」


リリアは何と答えればいいか分からなかった。間に合ったのだ。間に合ったけれど、骨は繋げなかった。もう少し魔力が残っていたら。あと少しだけ、コンラートが待ってくれていたら。


「村に戻ったら、全部治します。骨も、内臓も」


自分に言い聞かせるような声になった。ユルゲンが小さく頷いて、目を閉じた。


火の爆ぜる音だけが続いている。


「……子狼の声が聞こえたんだ」


目を閉じたまま、ユルゲンが言った。


「昨日の夜。あの岩の向こうから」


リリアは岩陰の奥に目をやった。灰色の毛が散らばっている。子犬くらいの大きさの毛玉が、いくつも。


「巣が近いんだ」とコンラートが言った。「だから群れがここにいた。餌場を守ってたんじゃない。巣を守ってたんだ」


子狼がいるから、親が狩りをする。親が狩りをするから、人が襲われる。


——誰が悪いわけでもなかった。


火が爆ぜて、小さな火の粉が岩壁に散った。





夜が深くなっていく。


コンラートが火の番をしている。ユルゲンは眠った。ハインツの呼吸は穏やかだ。


リリアは眠れなかった。目を閉じると、ハインツの脚の感触が手のひらに残っている。途中まで繋がりかけた骨。あと少しだった。


遠くから、遠吠えが聞こえてきた。


低く、長い声が山に響いて、消えないうちに別の声が重なる。何頭もの声が呼び合っている。


崖の上だ。この崖の、すぐ上。


降りては来ない。ユルゲンが言ったとおりだ。でも——いる。火の明かりが岩壁に揺れるたびに、自分たちの影が大きくなったり小さくなったりしている。その影の向こうに、あの声の主たちがいる。


親が子を呼んでいるのだろうか。それとも仲間を失った群れが、悼んでいるのだろうか。


遠吠えは止まなかった。リリアも目を閉じなかった。





朝。


空が白んできた。いつの間にか遠吠えは止んでいる。


ハインツの意識が戻っていた。岩壁を見上げて、それからリリアの顔を見た。


「……ここは」


「崖の下です。もう大丈夫ですよ」


ハインツは何も言わなかった。目を閉じて、また開けた。自分が生きていることを確かめるように。


コンラートがハインツを背負い上げて、リリアがユルゲンに肩を貸した。斜面を登る。昨日降りた時より、ずっと長く感じた。


街道に出ると、朝の光が白い道を照らしていた。





村の北門が見えた時、ユルゲンが膝から崩れた。


「——もう少しです」


「……分かってる」


歯を食いしばって立ち上がる。最後の坂を登りきると、門の内側にイルマがいた。その後ろに村人が何人か。一晩中ここで待っていたのだろうか。


「——生きてる」


イルマの声が裏返った。


ユルゲンとハインツが宿に運ばれていくのを見届けて、リリアはその場にしゃがみ込んだ。膝が笑っている。


少し眠れば魔力は戻る。戻ったら一人ずつ治す。ハインツの脚の骨を繋ぐ。ユルゲンの内臓を治す。やることは分かっている。


宿の一室を借りて横になった。目を閉じたら、すぐに落ちた。


目が覚めると、窓から差し込む日が高かった。昼を過ぎている。


魔力が戻っている。


ハインツの脚から始めた。昨夜、崖下で途中まで繋げた骨の続きだ。あの時はここで止められた。今度は最後まで繋ぐ。


折れた骨を合わせ、裂けた筋を一本ずつ修復していく。時間がかかった。


途中でハインツが目を開けた。天井を見て、それからリリアの手元を見た。何も言わなかった。


ユルゲンの腹に移る。内臓の傷は深かったが、聖水で洗っておいたおかげで化膿していない。


二人の治療を終える頃には、日が西に傾き始めていた。





宿の部屋の扉を開けると、ミラが部屋の隅に座っていた。膝を抱えて、ドアの方を見ている。


ミラがリリアの顔を見た瞬間、立ち上がって走ってきた。何も言わずに腰にしがみつく。


「……ただいま」


ミラが頷いた。顔を上げない。


テーブルの上の銀貨は、昨日の朝置いた時のまま一枚も減っていなかった。


もともとは、討伐隊の2人が殺されて戻ってこられないくらい

ハード展開にするつもりが、過剰回復オーバーキュアがある以上

リリアさんは、生きている可能性が0でなければ見捨てる人ではなかったな…と

モンスター襲撃までの話数が増えてしまいました。


実際に大けがすると「なおりかけ」って状態があるものなので

リリアさんの魔法も「骨がまだくっついてない」って状態を描いたりしたのですが

普通は、回復魔法の表現でこんな事に話数割かないですよね。

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