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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
キュンキュン◇本命チョコの食べすぎ注意!

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初めてのお駄賃

翌朝。


宿を出ると、通りの先に荷車が見えた。ゲルトが出発の準備をしている。グレイとモリーに荷をつけ直して、綱を確認している。


「おはよう」


ニコが声をかけてきた。弓の弦を張り直している。


「……おはようございます」


「見送りか?」


「はい」


ミラがリリアの隣にいる。グレイとモリーを見ている。





ミラが一歩前に出た。


「……あの」


ゲルトが手を止めた。


「何かお手伝い、できますか」


ゲルトがミラを見た。何も言わない。


「……昨日の、お礼です。乗せてもらったから」


ゲルトが桶を指さした。


「水。汲んできてくれるか」





ミラが桶を持って、井戸に走っていった。


「……しっかりしてるな、あの子」


ニコが言った。


リリアは黙って見ていた。





ミラが水を運んできた。重そうに、両手で桶を抱えている。


リリアが手を出そうとした。


「大丈夫」


ミラが言った。


桶をグレイの前に置いた。冬の朝、水は冷たい。


リリアは黙って近づいて、手を水に入れた。


——火の魔法。


ほんの少し。


水が温まる。


グレイが顔を近づけて、飲み始めた。


ミラがモリーの方にも水を運ぶ。もう一度温める。モリーも飲んだ。


ゲルトが二人を見ていた。





出発の支度が終わった。


ゲルトが懐から何かを取り出した。


銅貨が二枚。


ミラの手に、そっと乗せた。


「……え」


「手間賃だ」


「でも——」


「もらっとけ」


ニコが笑った。


「ロバの世話、助かったからな」


ミラが銅貨を見つめている。小さな手のひらの上の、二枚の銅貨。


「……ありがとう、ございます」


ミラが両手で銅貨を包んだ。





「じゃあな」


ニコが手を振った。


ゲルトが綱を引く。グレイとモリーが歩き出す。荷車が軋んで、石畳の上を進んでいく。


二人と二頭が、南の街道に消えていった。


「……行っちゃった」


ミラが呟いた。


「うん」


「……また会えるかな」


「会えるよ。この道を行ったり来たりしてる人たちだから」


ミラが銅貨をぎゅっと握りしめた。





昼前。


ギルドに行ってみた。状況は変わっていなかった。ソロで受けられるクエストはない。


受付のイルマが言った。


「討伐隊がまだ戻らないの。二日前に出たのに」


「……二日前」


「六人で出たんだけど」


声が小さくなった。


「最悪の場合も考えないと……って、ギルド長が」


リリアは掲示板を見た。街道警備の依頼が一枚増えていた。報酬が上がっている。





ギルドを出ようとしたとき、外が騒がしくなった。


「おい——誰か!」


「担架! 担架持ってこい!」


通りに飛び出した。


北の門の方から、人が運ばれてくる。


血まみれだった。





討伐隊だった。


六人で出て、戻ってきたのは四人。先頭の一人が、もう一人の肩を担いでいる。後ろから、担架が二つ。


ギルドの前に担架が並ぶ。血の匂い。うめき声。


先頭の男が、肩の仲間を地面に降ろして、膝をついた。顔に深い切り傷がある。


リリアは走った。


「——ヒーラーです。治療させてください」


男がこちらを見た。


「……頼む」


それだけ言って、倒れた。





四人。全員が深い傷を負っている。


腕に裂傷。胸に爪跡。足首が折れている。顔が裂けている。


一人ずつやっていたら、間に合わない。


リリアは両手を広げた。


——範囲回復。


光が広がる。四人の身体を包んでいく。


傷口が塞がっていく。折れた骨が繋がっていく。出血が止まる。


全員の目に、光が戻った。


呼吸が安定する。


「……っ」


最初に倒れた男——コンラートが、身を起こした。自分の手を見ている。


「動ける……?」


「はい。傷は塞ぎました。でもまだ完全じゃないので、無理はしないでください」


コンラートが立ち上がった。他の三人も、ゆっくりと身体を起こしている。


さっきまで担架で運ばれてきた人間が、立っている。


ギルドの前に集まっていた村人たちが、息を呑んだ。





コンラートが、懐から何かを取り出した。


干した草を束ねて、紐でくくったもの。ハーブのお守りだ。荷車にぶら下げる、狼除けの。


血で赤黒く汚れている。


「……ユルゲンのだ」


リリアがそれを受け取った。


「置いてきた二人——ユルゲンとハインツ。街道から外れた崖下に隠した。岩陰に」


コンラートの声が掠れている。


「運ぼうとしたが、ユルゲンは背中をやられて動かせなかった。ハインツは足が——」


「場所は分かりますか」


「北の街道を半日。大きな岩が二つ並んでる場所がある。そこから崖を降りた先だ」


リリアはお守りを救急鞄に入れた。


「行きます」


コンラートが顔を上げた。


「……一人でか」


「はい」


「無茶だ。あの数の狼に——」


「二人とも、まだ生きてますか」


コンラートが黙った。


「……昨日の朝までは、生きてた」


「なら、まだ間に合います」





ギルドに戻った。


イルマが立ち上がっている。さっきまで担架で運ばれていた四人が、立っている。


「え——治ったの?」


「応急処置です。あとで一人ずつ、ちゃんと治します。その前に」


リリアは受付のカウンターに手をついた。


「北の街道に、置き去りにされた二人がいます。助けに行きたいんですが」


イルマが言った。


「一人で? 護衛をつけないと」


「時間がないんです」


コンラートが後ろから言った。


「……俺が案内する」


「駄目です。まだ身体が——」


「場所が分からなきゃ、探し回ることになる。それこそ時間の無駄だ」


リリアはコンラートを見た。顔の傷は塞がっているが、まだ赤い線が残っている。


「……分かりました」





宿に戻った。


ミラが待っていた。


「リリア。服が——血」


「大丈夫。私の血じゃないから」


救急鞄の中身を確認した。包帯は使い切った。消毒用のお酒も空。足りない。でも、待っていられない。


「ミラ。ここで待っててほしい」


ミラが固まった。


「……どこか行くの」


「北の街道に、怪我人がいるの。助けに行ってくる」


「ミラも——」


「だめ。狼が出るから」


ミラの顔から血の気が引いた。


リリアは旅の荷物を開けた。財布の中身を確認して、銀貨を何枚かテーブルに置いた。


「これで何かあったら、食べ物とか買って」


「リリア——」


旅の荷物の底から、布に包まれたものを取り出した。


布を解いた。銀色の柄。重い頭部。使い込まれた傷がいくつもある。


メイス。カミラから預かった、何代ものヒーラーの手を渡ってきた武器。


今まで一度も、クエストで使ったことはなかった。


腰に差した。


ミラが見ている。見たことのないものを見る目だった。


膝をついて、ミラと目線を合わせた。


「宿から出ないで。ギルドの人たちに何かあったら頼って。いい?」


「……」


ミラが頷いた。唇を噛んでいる。


リリアはミラの頭に手を置いた。


「待っててね」


ミラの手が、一瞬だけリリアの袖に触れた。すぐに離した。


立ち上がった。


振り返らずに、部屋を出た。





北の門。


門の手前に、井戸がある。


水筒の水を捨てて、汲み直した。

旅用の革の水入れにも水を満たす。

両手で革の水入れを包み、回復魔法をかける。


水が淡く光って、消えた。


聖水。ヒーラーが回復魔法を込めた水。

本来なら時間をかけて丁寧に作るものだが、今はそんな余裕はない。


それでも、ただの水よりはましだ。消毒用のお酒は使い切った。


水筒の水だけでは傷口を洗うには足りない。


門の外でコンラートが待っていた。

剣を腰に差している。


「……行けるんですか」


「お前こそ」


門の外に

白い道が続いている。


空は曇り。

風が冷たい。


二人で歩き出した。


「さっきの回復魔法。

 あれがなかったら、全員死んでた」


「……」


「ギルドの回復師に診てもらったことはある。あんなのは見たことがない」


リリアは答えなかった。


コンラートも、それ以上は聞かなかった。


しばらく歩いてまた口を開いた。


「……あの嬢ちゃんは。お前の」


「一緒に旅をしてる子です」


「……そうか」


それきり、コンラートは黙った。


風が強くなってきた。雲が低い。街道の両側に、木々が暗く並んでいる。


ミラの手が袖に触れた、あの温度を、まだ覚えていた。


——待っててね。


ユルゲンのお守りが、鞄の中で揺れている。


血の匂いが、まだ消えない。



【あとがき】

討伐隊が帰ってきた。

六人のうち、四人。

残りの二人を迎えに——。

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