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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
ガツン!◇触れずに届く友情パワー!

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手の中の棒が、光り始めた。


淡い光だった。蛍のように、ゆっくりと。金属の感触が薄れていく。形が崩れていく。粒子になって、空気に溶けていく。


役目を終えた道具が、消えていく。


——ありがとう。


心の中で呟いた。誰に向けてか分からない。ただ、そう思った。


最後の光が消えた時、エステルの声が聞こえた。


「——母さん」



エステルの目が開いている。でも、焦点が合っていない。こちらを見ているようで、見ていない。どこか遠くの、見えない誰かを見ている。


「エステル」


呼びかけても、返事がない。


膝で這うようにして、エステルに近づいた。立ち上がれない。


ゴーレムの攻撃を受け止めるなんて、重装備の騎士ですら支援や強化魔法を幾重にもかけてやっとだ。受け流したのが精一杯とはいえ、あの重い打撃を——攻撃を受けることを想定した訓練も鍛錬も積まないヒーラーの身体に、見えないダメージが積み上がっていた。


腕が重い。指先の感覚が鈍い。


頬に触れた。冷たい。血の気が引いている。


「エステル。聞こえる?」


瞳が、ゆっくりとこちらを向いた。


「……リリア」


声が掠れていた。唇が震えている。


「大丈夫。終わったよ」



エステルが、自分の手を見た。泥がこびりついている。爪の間にも、手首にも。ゴーレムの背中に押し当てていた手だ。


「……終わった」


呟くように言った。自分で言った言葉を、確かめるように。


「うん。終わった」


エステルが、崩れ落ちたゴーレムを見る。泥の山になっている。さっきまで動いていたものが、もう動かない。


「……私が、封じたの?」


「うん」


「……一人で?」


「二人で」


エステルが、こちらを見た。


「二人で、勝ったんだよ」



遠くで、まだ火が燃えている。誰かが水を運ぶ声が聞こえる。子供の泣き声も。でも、ここだけが静かだった。泥の山と、二人と、夜の空気だけ。


エステルが、口を開いた。


「……声が、聞こえた」


「……」


「母さんの声」


——胸が詰まった。


さっき見た女性の姿が、頭に浮かぶ。銀色の髪。閉じた瞼。静かに佇んでいた人。あの人が——エステルの母親だったのか。


「……何て」


「『大きくなったね』って」


エステルの声が、震えた。


十三歳で別れた娘が、十八歳になっていた。母の目に、今の娘はどう映ったのだろう。


「……それから」


エステルが、こちらを見た。目が濡れている。


「『もう、一人じゃないね』って」



一人じゃない。


母は、私を見たのだろうか。エステルの隣にいる私を。


——最後に、あの人がこちらを見た気がした。


あれは、確認だったのかもしれない。この人になら、娘を任せられる。そう思ってくれたのかもしれない。


でも——私は、あの人の後ろにあった石を砕いた。


解放したのか。終わらせたのか。分からない。どちらだとしても、それを言葉にする資格がなかった。


言えない。今は、言えない。



エステルが、両手で顔を覆った。


肩が震えている。声を殺している。でも、止まらない。


五年間、一人で耐えてきたのだろう。村の子に「おばけ呼び」と言われても。誰にも触れてもらえなくても。暗い家で一人で眠っても。


泣かなかったのかもしれない。泣いたら負けだと、どこかで思っていたのかもしれない。


でも、今——母の声を聞いて。「大きくなったね」と言われて。「一人じゃない」と言われて。


堰が切れた。


嗚咽が漏れる。声を殺そうとして、殺しきれない。肩が震えて、体が震えて、涙が止まらない。



——何もできなかった。


気の利いた言葉も出てこない。抱きしめる力も残っていない。腕が重くて、体が動かない。


だから、ただ隣にいた。


這うようにして、エステルのそばに座る。肩が触れる距離。それだけしかできない。


エステルが泣いている。今まで流せなかった涙を、全部流している。


何も言わずに、ただ隣にいた。



どのくらい経っただろう。


エステルの肩の震えが、少しずつ収まっていく。


「……ごめん」


掠れた声だった。


「謝らないで」


「……変なこと、言った」


「変じゃないよ」


エステルが顔を上げた。目が赤い。頬が濡れている。


「……母さんの声、五年ぶりに聞いた」


「……」


「忘れかけてた。どんな声だったか」


エステルが、空を見上げた。


「でも、聞いた瞬間に分かった。この声だって。ずっと聞きたかった声だって」



あの女性のことを、言葉にできなかった。


代わりに、エステルの手を握った。冷たい手だった。泥で汚れている。ずっと一人で戦ってきた手だ。


エステルが、握り返してきた。強く。


その力に、少しだけ安心した。



体が限界だった。


エステルの手を握ったまま、そのまま後ろに倒れ込んだ。背中が地面に着く。冷たい土の感触。頭が空を向いている。


隣で、エステルも倒れる音がした。


体が動かない。指先がかすかに震えている。腕も、足も、もう言うことを聞かない。ゴーレムとの戦いで、全部使い果たしてしまった。



目の前に、夜空が広がっている。


雲が切れていた。月が出ている。星も、いくつか見える。さっきまであんなに暗かったのに。戦っている間は、空を見上げる余裕なんてなかったのに。


白い光が降り注いでいる。泥の山になったゴーレムを照らしている。倒れている二人を照らしている。


首を少しだけ動かした。隣を見る。


エステルの横顔が、月明かりに浮かんでいた。泥で汚れた頬。まだ赤い目。いつもの隈が、この光では見えない。


穏やかな表情だった。


エステルも、空を見ている。同じ月を、同じ星を見ている。


何も言わなかった。言葉はいらなかった。


冷たい地面に寝転がったまま、手を繋いだまま、二人で夜空を見ていた。

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