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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
ガツン!◇触れずに届く友情パワー!

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泥の巨人

走る。




村外れから宿まで、歩けば数分の距離。今は永遠に感じる。




——まだ何も言ってない。




答えを出すのに、あと何日かかるつもりだったのか。4日、5日、もっと先かも。




そんな時間は、なかった。







村の中を駆け抜ける。




家が燃えている。壁が崩れている。泣き叫ぶ声が聞こえる。




——助けを呼んでる。




なのに、足は止まらない。止められない。




——ミラ。







宿が見えた。




壁に何かが突き刺さっている。




松だ。太い松の幹が、壁を貫いている。




三本松。なんだか少ない気がする——暗くて見間違えたのかもしれない。




見間違いじゃなかった。







「ミラ!」




宿に飛び込む。誰もいない。




ストーブの前で足が止まった。




鍋がひっくり返っている。中身が床に広がって、蕪と豆の匂いが漂っている。マルタさんの煮込みだ。




毎晩、この匂いで「ただいま」と思った。ミラと並んで食べた。温かかった。




「ミラ! どこ!」




返事がない。




三本松が少ないと思った。確認しなかった。畑の柵が壊れていた。風のせいだと思った。煙が上がっていた。夕飯の支度だと思った。




全部、見逃した。




心が解けていた。温かくて、緩んでいて。




この日常を——守れなかった。




明日死ぬかもしれない。いや、今日死ぬかもしれない。いつもそう思って生きてきた。その感覚が、一気に戻ってくる。







裏口から外に出ると、広場の方から地響きが聞こえた。




走る。角を曲がる。息が切れる。




広場に出た瞬間、足が止まった。




泥の巨人がいた。




家より大きい。目がない。でも、何かを探すように首を動かしている。




広場の奥——建物の壁際に、リーザがいた。パッチを抱きしめて、座り込んでいる。動けないでいる。




ゴーレムが、リーザに向かって歩き出した。




一歩。また一歩。あの足に踏まれたら——




カンカンカン、と音がした。




金属を叩く音。ゴーレムの足が止まる。首が動く。音のした方へ。




路地の入り口に、小さな影が立っていた。鍋を持って。




淡い青緑色が、薄闇に浮かんでいる。




あのローブは——




——ミラ。




生きてた。無事だった。でも——何をしてるの。




鍋を叩きながら、足を踏み鳴らしている。一歩、二歩。ゴーレムに近づいていく。




——この子は、囮になっている。リーザを逃がすために。




心臓が握り潰されるような気持ちになった。あんな小さな体で。あんな大きなものの前で。




ゴーレムが向きを変えた。リーザから、ミラへ。




その隙に、マルタがリーザを抱えて走り出すのが見えた。




でも——ミラが近すぎる。逃げられない距離まで、自分から近づいてしまっている。







両手が振り上がる。




左右の手の指を、互い違いに組み合わせる。拳を一つにする。




振りかぶる。胸ががら空きになる。




あれが振り下ろされたら——ミラは形も残らない。







——誰も、犠牲者を出したくない……!!




最終救護ラスト・レスキュー——




光が集まる。鋼の守護神ガトリング砲が舞い降りる。




ハンドルを回す。




ガコン!




歯車がかみ合い、六本の筒が咆哮を上げる。




"ズドドドドドドドッ!!!"




左側面から、胸を抉っていく。




泥が弾け飛ぶ。最初は細かい粒になって、砂のように、霧のように。次に、拳大の塊が剥がれ落ちる。ぼろぼろと、崩れるように。




胸の真ん中に、穴が開いた。向こう側が見える。




ゴーレムの動きが、止まる。




組み合わせた両手が——ほどける。力なく、だらりと垂れ下がる。




ハンドルから手を離した。







——心臓だ。




生き物には心臓がある。そこを壊せば、止まる。




考える前に、体が動いていた。




ヒーラーは人の体を知っている。どこに何があるか。どこを守れば生きられるか。どこを壊せば——死ぬか。







——間に合った。




ミラが、その場にへたり込むのが見える。




生きてる。




息を吐く。膝が震える。ハンドルを握っていた手が、汗でぬるぬるする。自分の顔が緩むのが分かる。




よかった。




まだ何も言えてない。答えも出せてない。でも——この子が生きてる。それだけで——







ミラがこちらを見ない。




座り込んだまま、顔が強張っている。安心した顔じゃない。何かを見ている。




視線を追った。




泥の巨人が、動いている。




胸に大穴を開けたまま。両腕をだらりと垂らしたまま。首だけが、ゆっくりとこちらを向く。




——止まってない。




心臓じゃなかった。







ハンドルを回す。




"ズドドドドドド——"




ゴーレムが自分の腕を掴む。




引きちぎる。




その腕が、こちらに向かって飛んでくる。







轟音。世界が揺れた。




体が浮いて、地面に叩きつけられる。耳が聞こえない。頭の中で鐘が鳴っている。




目を開ける。視界がぼやける。土埃で何も見えない。




手は——ある。足は——動く。




おかしい。あの質量だ。鋼の守護神ガトリング砲ごと、腕の一本や二本は持っていかれてもおかしくない——




土埃が晴れていく。




誰かが、前に立っていた。




黒い髪。細い背中。両手を広げて、何かの構えを取っている。




「——遅かったら死んでた」




聞こえない。でも、唇の動きで分かる。




エステルが振り向いた。額から血が流れている。




「……エステル、さん……?」




声が出たかどうかも分からない。耳がまだ鳴っている。




エステルの手が伸びてきて、額に触れた。




温かい光が広がる。耳鳴りが引いていく。体の痛みが和らいでいく。




「回復魔法、使えるって言ったでしょ」







ヒーラーは、自分自身を癒せない。




だが——




ここにヒーラーが二人いる。

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