表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
ガツン!◇触れずに届く友情パワー!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/108

白い山羊

二日目の朝。


窓の外は白く曇っている。冬の空だ。


久しぶりに、朝までぐっすり眠れた気がする。温かい食事と、柔らかいベッドのおかげだろうか。


ミラはまだ眠っている。毛布を顎まで引き上げて、小さく丸まっている。


起こさないように、静かに部屋を出る。



食堂に降りると、マルタがパンを切っている。


「早いね」


「おはようございます。あの、ギルドで仕事を探そうと思って」


「そうかい。朝飯は?」


「帰ってきてから、ミラと一緒に」


マルタが頷く。



ギルドに入ると、昨日の受付の男がいる。


「おはよう。仕事かい」


「はい。簡単なものがあれば」


「そうだな……」


男が棚から紙を取り出す。


「薬草採取。村の北の丘に生えてる冬イラクサを摘んできてくれ。籠一杯で銅貨五枚」


「受けます」


「籠は貸し出しだ。あと、これも」


男が棚から革のミトンを取り出す。


「イラクサは素手で触ると酷い目に遭うからな。返却は籠と一緒でいい」



宿に戻ると、ミラが起きていた。


食堂の椅子に座って、足をぶらぶらさせている。パッチが足元にいる。


「おはよう」


「……おはよう」


「仕事取ってきた。薬草採取。一緒に行く?」


ミラが頷く。



マルタが朝食を出してくれる。


固いパンと、昨日の煮込みの残り。温め直してある。朝でも美味しい。


「北の丘かい。気をつけな。あの辺は風が強いから」


「ありがとうございます」


「昼までには戻っておいで。午後から雪になるかもしれない」



村を出た。


北に向かって歩く。畑はもう冬枯れで、茶色い土が広がっている。霜が降りて、白く光っている。


ミラが服の裾を掴んでいる。いつもの癖だ。


「寒い?」


「……大丈夫」


吐く息が白い。



丘の斜面に着く。


枯れ草の間に、緑の葉が見える。冬イラクサだ。寒さに強い薬草で、傷薬の材料になる。


「ここで採るね。ミラは……」


見回す。風を避けられる場所。


「あの岩の陰にいて。風が当たらないから」


ミラが首を振る。


「……手伝う」


「ダメ。イラクサは棘に毒があるの」


ミラが首を傾げる。


「蕁麻疹って知ってる? あの『蕁麻』は、イラクサのこと」


「刺さると赤く腫れて、痒くて痛くて、ひどいとしばらく動けなくなる」


ミラの顔が少し強張る。


「……リリアさんは、平気なの」


「平気じゃないよ。でも、採り方があるの」


ギルドで借りたミトンをはめ直す。


「棘は下向きに生えてるから、根元から先に向かって撫でるように摘めば刺さらない」


「あと、手袋は厚手じゃないとダメなの」


ミラが頷く。


「……見てる」


結局、ミラは近くにしゃがんだ。膝を抱えて手元を見ている。



黙々と採る。籠が半分ほど埋まった頃、ミラが立ち上がる。


「……リリアさん」


「ん?」


「あれ」


指差す先を見る。


丘の向こう側。少し離れた場所に、白いものが見える。



近づいてみる。


山羊だ。


真っ白な毛並み。冬毛がふわふわに膨らんでいる。枯れ草の根元を、鼻先でつついている。


首に紐がついている。飼い山羊だ。でも、持ち主の姿は見えない。


「……かわいい」


ミラが小さく言う。


服から手を離して、山羊に近づいていく。珍しい。この子が自分から何かに近づくのを初めて見る。


山羊が顔を上げた。ミラを見て、一度だけ鳴く。メェ、と短く。


逃げない。


ミラがしゃがんで、手を伸ばす。山羊の頭をそっと撫でる。


「……ふわふわ」


山羊が目を細める。気持ちよさそうに。


ミラの顔が、少しだけ緩んだ。砦を出てから初めて見る、柔らかい表情。



「触っても怖くないの」


声がする。


振り返る。


丘の上に、人影が立っていた。


少女だ。私より少し年上くらいで、黒い髪を一つに編んでいる。地味な色の服は裾が擦り切れている。


顔は綺麗なのに、どこか陰がある。目の下には薄い隈。


「その子、人見知りなの。村の人には絶対近づかないのに」


抑揚のない声。驚いているのか、いないのか。分からない。


「……この子のご主人ですか」


「この子、ペルラっていうの」


少女が丘を降りてくる。


ミラが山羊から手を離して、後ろに隠れた。また服の裾を掴む。


「……怖がらせた?」


「いえ、この子は人見知りで……」


少女がペルラの紐を取る。山羊は大人しく従う。


「そう」


それだけ言って、少女は歩き出す。


「あの」


呼び止めようとした。でも、何を言えばいいか分からない。


少女は振り返らない。白い山羊を連れて、丘の向こうに消えていく。



宿に戻る。


籠いっぱいの冬イラクサ。ギルドに届けると、受付の男が言う。


「ああ、これはグレタばあさんの分だ。隣の薬屋に持っていってくれ」



薬屋は小さな家だ。扉を叩くと、腰の曲がった老婆が出てくる。


「冬イラクサかい。ありがとうね」


籠を受け取って、中身を確認している。


「上等だ。これで煎じ薬が作れる」


銅貨五枚を手渡される。


「他に仕事はあるのかい」


「いえ、今日はこれで」


「そうかい。じゃあ、せっかくだ。ちょっと飲んでいきな」


老婆が奥に引っ込んで、湯気の立つカップを二つ持ってくる。緑がかった色。草の匂いがする。


「摘みたてのイラクサだよ。体にいいんだ」


一口飲む。

……苦い。青臭い。薬だ、これは。ミラも一口飲んで、顔をしかめた。


老婆が笑う。


「まあ、そうなるね。慣れないと飲めたもんじゃない」


カップを下げて、別の茶葉で淹れ直してくれる。今度はカモミールの甘い香り。


「……こっちの方がいい」


ミラが小さく言う。


「だろうね」


老婆がミラを見る。じっと、顔を覗き込むように。


「……この子は」


老婆がミラを見る。じっと、顔を覗き込むように。


「東の村の子かい」


「……ご存知なんですか」


「噂は早いからね。オークに攫われて、ヒーラーさんに助けられたって」


老婆がしゃがんで、ミラの顔を覗き込む。


「……待ちな。その顔……カールの娘さんかい」


ミラが、びくっと肩を震わせる。


「ああ。うちの薬草のお得意さんでね。村に家具を納めに来るたび、買っていってくれたんだよ。腕のいい木工職人でさ、薬箱も作ってもらった」


老婆が棚を指差す。小さな木の箱が並んでいる。蓋に細かい彫刻が施されている。


ミラが、棚に近づく。乾燥した薬草の束を、じっと見ている。


手を伸ばしかけて、止める。


「……触っていいよ」


老婆が言う。ミラが薬草の束を手に取る。鼻に近づけて、匂いを嗅ぐ。


「……お父さんの部屋の匂い」


小さな声。ほとんど独り言。


老婆が、少しだけ目を細める。


「器用な人だったよ。奥さんを早くに亡くして、男手一つで娘を育てて——」


言葉が途切れる。


「……そうかい。あんたが、ミラちゃんかい」


ミラが俯く。何も言わない。


老婆が奥に引っ込んで、何かを持ってくる。


小さな帽子。毛糸で編んだ、青い帽子。


「うちの孫娘が小さかった頃のだよ。もう使わないから、あんたに」


老婆がミラの頭に帽子を乗せる。少し大きいけど、耳まで隠れる。


「カールがね、よく言ってたんだよ。『うちの娘は寒がりでね』って」


ミラの肩が、小さく震えた。


「冬は寒いからね。風邪ひかないようにね」


ミラが帽子の縁を触る。


「……ありがとう、ございます」


小さな声。震えている。


老婆が目を細めて笑う。


「いい子だね。お父さんに似て」


食堂でマルタが昼食を用意してくれていた。


「お帰り。雪の前に戻れてよかったね」


「ただいまです」


席に着く。温かいスープ。今日は豆じゃなくて、蕪が入っている。


「……あの、北の丘で女の子に会いました」


マルタの手が止まる。


「黒い髪の。白い山羊を連れてて」


「……ああ。エステルに会ったのかい」


昨日聞いた名前だ。ゴーレムを封じる家の子。


「少しだけ話しました。この子が山羊を撫でてて」


ミラを見る。ミラはスープを見つめている。


「……そう」


マルタの声が少し低くなる。


「あの子の山羊、村の人には絶対近づかないんだけどね」


「……はい。エステルさんもそう言ってました」


マルタが窓の外を見る。空が暗くなってきている。雪が降り出したらしい。白いものがちらちら舞っている。


「……五年前にね」


マルタが静かに言う。


「あの子の両親が死んだんだ。ゴーレムを封じようとして、失敗して」


「……」


「それ以来、あの子は一人で暮らしてる。十三の時から、ずっと」


十三。今は十八くらいだろうか。五年間、一人で。


窓の外で、雪が強くなってきた。


スープを見つめる。


湯気が立っている。温かい。


でも、あの子は——一人で、この冬を過ごしているのか。


「……可哀想だとは思うよ。でも、みんな怖いんだ」


ミラが袖を引っ張る。


見ると、ミラがこちらを見上げている。


何か言いたそうな顔。でも、言葉にならない。


「……ミラ?」


「……あの子」


小さな声。


「……お友達、いないの?」


答えられなかった。



窓の外は、もう真っ白だ。


雪が降り積もっていく。静かに、音もなく。


ペルラを撫でていた時のミラの顔を思い出す。


あの山羊は、村の人には近づかないと言っていた。


でも、ミラには近づいた。


——触っても怖くないの。


あれは、山羊のことだけじゃなかったのかもしれない。



その夜、ミラは夢を見て泣いた。


何も言わない。ただ、服を掴んで、ぎゅっと目を閉じている。


ミラの背中をさすりながら、あの黒髪の少女のことを考えていた。


一人で暮らしている。


村の誰も関わらない。


五年間。


私もいつか、ああなるのだろうか。


一人で生きて、一人で死んでいくのだろうか。


……いや。


ヒーラーの5年後生存率は、全ジョブ中最も低いという。


5年も続けられるかどうか。


考えないようにした。

早いと2話目でモンスターが襲ってくるこの作品ですが

「10歳児とのスローライフ」なこの章の2話目は

ファンタジーものでよくある「薬草採取クエ」でした。


そのへんに生えてる草をとってくるだけですが、こうしてみると

バイト代程度は出してくれる理由が何となくわかった気がします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ