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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
ワイワイ♡みんなで生き残り大作戦!

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C₁₀H₁₅NO。(エフェドリン)

オークが足元を見下ろしている。自分で壊した壁の破片が通路のあちこちに積み上がり、巨体には邪魔な足場になっている。

「……だから何だ。足場が悪いくらいで——」

一歩踏み出した瞬間、瓦礫を踏み砕いた足がわずかに滑る。舌打ちしてすぐ体勢を立て直すが、さっきより動きが鈍い。

「……あの柱」

ミラの小さな指が通路の奥を指している。天井を支える太い石柱。ひびが入って傾いている。

「あれを倒せば——天井が落ちる」

フリントが壁に手をついて起き上がり、ふらつきながら言う。

「俺が囮になる。あいつを柱の前まで誘い込んで、殴らせる」

「待ってくれ、さっき殴り飛ばされたばかりじゃないですか——」

トマが叫ぶ。フリントがトマを見た。

「だから行くんだよ。お前が気絶した時、ミラが盾になってくれたんだってな」

トマの顔から血の気が引き、ミラが俯く。

「こんな小さい子にできて、俺にできないわけがないだろ。それに——逃げるのは得意なんだ」

縄を手に取るフリントに、壁にもたれて立ち上がったダリオが声をかける。

「……死ぬなよ」

「死ぬかよ。柱を倒して、崩れる前に戻る。俺の足なら余裕だ」

そう言い残して、フリントが走り出した。

「おい、デカブツ!」

フリントの声にオークが振り返る。

「まだ動けるのか。しぶとい奴だ」

「褒め言葉として受け取っとくよ」

フリントが柱に向かって走り、オークが瓦礫を踏み越えながら追う。足を取られながらも、それでも追ってくる。

フリントが柱に縄を一周、二周と巻きつけ、端をこちらに投げた。ダリオが受け取る。

「合図したら引け!」

フリントが柱の向こう側に回り込み、オークが柱の前で立ち止まった。

「ここに誘い込んだつもりか。柱を壊して天井を落とす——単純な罠だな」

「単純で悪かったな。でもお前、壊さずにいられないだろ?」

「……何だと」

「退路を断つのも、床を抜くのも、全部『壊す』ことで解決してきた。目の前に柱があったら——我慢できないんじゃないのか」

オークの顔から笑みが消えた。

「……小僧」

「図星か」

「黙れ」

オークが拳を振り上げて柱を殴る。轟音とともにひびが広がり、柱が傾く。——まだ倒れない。

「もう一発だ」

腕を振り上げ——止まった。腕がぐにゃりと曲がっている。

「……は?」

オークが自分の腕を見ている。力が入らない。だらりと垂れ下がっている。

「なん……だ……これは……」

——エフェドリン。

C₁₀H₁₅NO。

交感神経を刺激し、骨格筋の収縮力を極限まで高める薬である。

だが副作用がある。

筋肉が収縮するたびに、薬効は増幅される。

殴れば殴るほど。

壊せば壊すほど。

筋繊維は自らの力に耐えかねて、内側から断裂していく。

「壊す力」が、自分を壊していたのだ。

フリントが息を呑んだ。

「……腕が、止まった?」

理由は分からない。でも——チャンスだ。

「——引け! 今だ、全員で引け!」

フリントが叫ぶ。ダリオが縄を握りしめ、トマとミラも掴む。全員で引いた。

柱が倒れ、天井が崩れ始める。

「——余裕とか言ったの誰だよ、間に合わねえ……!」

フリントの声が聞こえた。戻ってくる姿が見えない。

瓦礫がオークの上に、フリントがいた場所に降り注ぐ。轟音と土煙で何も見えなくなり、やがて煙が晴れていく。瓦礫の山ができていた。オークの姿は埋まって見えない。動く気配もない。

鉄檻殺し(ケージ・ブレイカー)】は——もう何も壊すことはなかった。

「……フリント」

ダリオが瓦礫の山を見つめながら呟く。フリントがいた場所は完全に埋まっていた。駆け寄って石をどかそうとするが、両手で押してもびくともしない。

「くそ……!」

拳で瓦礫を叩くダリオ。トマが膝から崩れ落ちる。

「俺のせいだ……俺が足手まといだから……フリントさんが俺たちの代わりに……」

「違う」

ダリオが首を振った。

「あいつは——俺たちを守ったんだ」

ミラが声を出さずに泣いている。涙だけが流れて、両手を胸の前で握りしめている。

「……そこまで言われると、照れるな」

瓦礫の向こうから声がした。全員が振り返ると、フリントが立っていた。埃だらけで額から血が流れているが、笑っている。

「逃げるのは得意なんだ。言っただろ?」

「お前……! 生きてたのか!」

ダリオが駆け寄る。

「3年働いてたって言っただろ。どこが崩れてどこが残るか、分かってんだよ」

フリントが肩をすくめると、トマが泣きながら駆け寄ってくる。

「フリントさん……! よかった……本当に……!」

「おう。まあ、鎧は駄目になったけどな」

ひび割れた革鎧を見せて笑う。ミラも駆け寄ってきて、何も言わずにフリントの腕にしがみついている。離さないように。

ダリオが深く息を吐いた。

「……お前な」

「なんだよ」

「いや——」

言葉を探して、見つからないようだ。

「——ありがとう」

フリントが目を丸くして、それから照れくさそうに頭を掻いた。

「……おう」

フリントが壁にもたれたまま、大きく息を吐いた。

「追跡者は3匹だったはずだ。息継ぎ無し(ノー・ブレス)と、鼻鳴らし(スノウト・グロウラー)と、今の鉄檻殺し(ケージ・ブレイカー)

指を折りながら数えて、それから天井を見上げる。

「全部倒した。もう来ねえ」

ダリオが頷く。

「この先を抜ければ、街道に出る。あとは歩くだけだ」

ダリオが先に歩き出した。トマとミラがついていく。

フリントが立ち上がりかけて、足を止めた。リリアの隣に来て、小声で言う。

「……なあ」

「?」

「さっきの話、みんなには言うなよ」

「……何の話?」

「俺が構造を分かってたとか、逃げ場を知ってたとか。——全部嘘だ」

フリントは前を向いたまま、歩き出したダリオたちの背中を見ている。

「本当は間に合わなかった。崩れる前に戻るなんて無理だった」

「死ぬ気で走って、どこでもいいから隙間に飛び込んで、運良く生きてた。それだけだ」

「……」

「でもな、あいつの腕が止まった瞬間——あれで少し時間ができた。お前の矢だろ。あの緑のやつ」

「……多分」

「多分かよ」

フリントが笑った。さっきまでの照れ隠しとは違う、静かな笑い方だった。

「まあいい。——助かった」

それだけ言って、フリントは歩き出した。ダリオたちを追いかけていく。

砦の出口が見えている。崩れかけた門の向こうに、夕暮れの光が差し込んでいる。

ダリオが先頭に立ち、フリントがミラの手を引き、トマがその後ろを歩く。

あと少し。

もう追ってくるものはいない。戦いは終わった。

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