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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
ワイワイ♡みんなで生き残り大作戦!

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(NH₄)₂CO₃。(嗅ぎ塩)

走った。オークが追ってくる。さっきまでの余裕はない。本気だ。

「こっちだ!」

フリントが叫ぶ。砦の構造を知っている。抜け道があるはずだ。角を曲がる。通路を抜ける——

瓦礫の山が、行く手を塞いでいた。

「くそ——塞がれてる」

フリントの舌打ちが響く。背後で、足音が止まった。振り返るまでもない。通路の入り口を、巨大な影が埋め尽くしている。

ダリオが剣を構える。

「お前たちは下がってろ」

「傭兵か。いい度胸だ」

オークが笑いながら一歩踏み込んでくる。ダリオが斬りかかった。全力の一撃——オークが片手で受け止める。素手で。

「弱い」

殴り飛ばされたダリオが壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。

「ダリオ!」

フリントが手槍を構えて突く。オークの脇腹に刺さる。浅い。

「痛くもない」

フリントも殴り飛ばされ、床に転がったまま起き上がれない。

3人だけになった。トマが震えている。息が荒い。過呼吸だ。

「落ち着いて——」

声をかけようとした時、トマの目が白くなった。そのまま崩れ落ちる。

「トマ!」

ミラが駆け寄って揺すっている。反応がない。ポケットから嗅ぎ塩を取り出し、蓋を開けてトマの鼻の下に当てる。反応がない。気絶が深すぎる。普通の嗅ぎ塩じゃ起きない。

回復魔法を込めないと——

オークの足音が止まった。トマを見下ろしている。

「こいつか」

低い声。笑いが消えている。

「俺に恥をかかせたのは」

服の囮。あれでオークを騙した。トマの汗を吸った服で。

オークの手がトマに伸びる。その瞬間——ミラが立ち上がった。両手を広げて、トマの前に立ちはだかる。

声が出ない。でも、体が震えていても、そこを動かない。

「どけ」

ミラは動かない。

「——どけと言っている」

丸太のような腕が薙ぎ払われた。ミラの小さな体が宙を舞い、壁に叩きつけられる。

「ミラ!」

駆け寄ろうとして——影が落ちた。見上げると、オークがこちらを見下ろしている。手の中の瓶に目を落とす。

「何だこれは」

嗅ぎ塩。回復魔法を込めている途中だった。瓶が青白く輝いている。

「……いい匂いだ」

オークの鼻がひくつく。興味深そうに瓶を眺めている。

「吸うな!」

フリントが叫ぶ。床に倒れたまま、手を伸ばしている。オークが振り返った。

「……お前が止めるなら、余計に吸いたくなる」

笑みが深くなる。瓶を鼻に近づけ、深く——吸い込んだ。

一瞬、恍惚の表情が浮かぶ。次の瞬間——痙攣が始まった。

瓶が床に落ちる。オークが頭を抱えている。

「なん……だ……これ……」

鼻から血が流れ出した。

——炭酸アンモニウム。

(NH₄)₂CO₃。

嗅ぎ塩の主成分である。

分解して発生するアンモニアガスが鼻腔を刺激し、強制的に覚醒させる。

かつてボクサーやアメフト選手が使用していた。

殴られても意識を保つための——興奮剤である。

競技での使用は、現在禁止されている。

本来なら気を失うべき危険な状態でも、脳が「まだ戦える」と錯覚してしまうからだ。

人間ですら、そうなる。

オークの過敏な嗅覚には——回復魔法で強化された刺激が、神経を焼いていた。

オークが壁に頭を打ちつけている。

「止まれ……止まれ……!」

止まらない。脳に直接流れ込む情報が、処理能力を超えている。世界を誰よりも鮮明に嗅ぎ取れた鼻が——世界を誰よりも激しく焼いている。

オークが崩れ落ちた。痙攣が続いている。でも——もう立ち上がれない。

ダリオが起き上がる。壁に手をついて、ふらつきながら。

「……何が起きた」

「嗅ぎ塩です。回復魔法を込めた——」

「そうか」

フリントが手槍を差し出す。

「……こっちのほうが苦しまねえ」

ダリオが受け取り、オークに近づく。痙攣は止まっている。でも、まだ息がある。

「……殺せ。早く……殺せ……」

オークの声はかすれていた。目は開いているが、何も見えていない。

ダリオは何も言わなかった。オークの胸の上に立ち、穂先を左胸に当てる。体重をかける。

鼻鳴らし(スノウト・グロウラー)】は——もう何の匂いも嗅ぎ取ることはなかった。

ダリオが手槍を返す。フリントは黙って受け取った。

トマを起こさないと。嗅ぎ塩はもうない。ミラが壁際からゆっくりと這い寄り、トマの手を握っている。腕に擦り傷、額から血が滲んでいる。それでもトマのそばを離れない。

「トマさん……起きて……」

反応がない。フリントが横から割り込んできた。

「そんなんじゃ起きねえよ」

トマの頬を平手で叩く。思い切り。

「——っ!」

トマが目を開ける。頬を押さえている。

「……ミラちゃん?」

「いや俺だが」

トマの顔が赤くなる。ミラがまだ手を握っていた。

伝声管から声が響く。

「……ほう。2匹目も倒したか」

それから——笑い声。

「……いいな」

声の調子が変わっている。楽しそうだ。興奮している。

息継ぎ無し(ノー・ブレス)鼻鳴らし(スノウト・グロウラー)を殺した奴ら……俺が直々に狩ってやる。【鉄檻殺し(ケージ・ブレイカー)】——俺が最後だ」

それきり、声は聞こえなくなった。

トマが呟いた。

「最後……こいつから逃げ切れば……帰れる」

震えている。でも自分に言い聞かせるように繰り返していた。

フリントが肩をすくめた。

「さっきより機嫌よさそうだな、あいつ」

がしゃん、と音がした。重い金属音。何かを持ち上げた音。巨大な武器を手に取ったのだと、直感で分かった。

地響きのような足音が聞こえ始めた。

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