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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
ワイワイ♡みんなで生き残り大作戦!

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C₂₅₇H₃₈₃N₆₅O₇₇S₆。(インスリン)

走った。曲がった。

後ろから声がした。振り返った——誰もいない。

「そっちじゃない」

横から声。振り返った——もういない。

「遅いな」

また別の方向。どこにいる。どこから来る。分からない。

逃げた。声のしない方へ。

壁だった。行き止まり。

遊ばれていた。追い込まれていた。気づいた時には手遅れだった。

「捕まえた」

振り返った。オークが立っていた。笑っている。

「その道具、面白いな」

一歩、近づいてくる。

「俺にくれよ」

横に逃げようとした。体が動いた瞬間——もう目の前にいた。

首を掴まれた。持ち上げられた。壁に叩きつけられた。

「逃げられると思ったか?」

笑っている。息がかかる。熱くて、生臭い。

逃げられない。もう逃げられない。

——逃げられない。

その時、初めて気づいた。手の中にまだ発射台がある。矢が残っている。

追い詰められた。でも——それは相手も近いということ。

この距離なら外さない。でも動いたら気づかれる。この速さなら避けられる。

ポケットの中を手探りした。矢に触れた。どっちの色か分からない。見る余裕がない。

オークに見えないよう、ゆっくり溝に乗せた。

オークが顔を近づけてきた。笑っている。獲物をいたぶるつもりだ。

——今。

発射台の先端を、オークの腹に押し当てた。突起を押した。

刺さった。深く刺さった。

青い矢だった。

オークの動きが止まった。

——やった。

そう思った瞬間、オークが見下ろした。刺さった矢を見て——笑った。

「刺さっただけか」

片手で引き抜いた。指でへし折った。床に投げ捨てた。

「こんな細い棒で俺が死ぬと思ったか?」

首を絞める力が強くなった。

「——ゆっくり楽しませてもらう」

息ができない。喉が潰れる。

オークの顔が目の前にある。笑っている。

「いい顔だ」

声が出ない。助けを呼べない。もがいても、腕が届かない。

足が宙を蹴った。何にも届かない。

「もっと苦しめ」

視界の端が暗くなっていく。オークの顔だけが見える。笑っている。ずっと笑っている。

肺が燃えるように熱い。空気が欲しい。吸えない。

指先が痺れてきた。冷たい。感覚がなくなっていく。

耳が遠くなる。オークの声が水の底から聞こえるみたいだ。

目の前が白くなってきた。何も考えられない。

——死ぬ。

意識が遠くなる。

……。

……光が見えた。

白い。ぼんやりしている。

……天井?

視界が少しずつ戻ってくる。輪郭がはっきりしてくる。

息ができる。喉が痛い。空気が入ってくる。

——生きてる?

首に何も触れていない。力が消えている。

落ちていた。床に倒れていた。いつ落ちたのか分からない。

咳き込んだ。何度も咳き込んだ。喉が焼けるように痛い。

顔を上げた。オークを睨みつけた。

目が合わない。

さっきまでこちらを見ていたあの目が、別の方を向いている。虚ろだ。焦点が合っていない。

口が動いている。何か言っている? 聞こえない——違う。声が出ていない。

あの青い矢が——効いた?





——インスリン。

C₂₅₇H₃₈₃N₆₅O₇₇S₆。

1921年、カナダのバンティングとベストが発見した。

血糖値を下げるホルモン。

糖尿病患者を救う薬。

だが、健康な者に過剰投与すれば——脳が飢える。



オークの体は、人間より強い。

筋肉も、神経も、遥かに発達している。

だからこそ——薬に過敏だ。

人間なら耐えられる量でも、オークの体は過剰に反応する。

オークの足がもつれた。壁にぶつかった。膝から崩れ落ちた。

起き上がろうとしている。起き上がれない。床を掻いている。



息継ぎ無し(ノー・ブレス)】——速く走れる体が、仇になった。エネルギーを使い果たすのも、速かったのだ。

足音が聞こえた。駆けてくる音。


「おい!」


さっきの傭兵だった。少女を連れている。倒れた音を聞いて、来てくれたのだ。


「大丈夫か!」


傭兵がこちらに駆け寄ってきた。しゃがみ込んで、顔を覗き込んでくる。


「……なんとか」


声がかすれた。喉がまだ痛い。

「首に痣ができてる。絞められたのか」

頷いた。声を出すのがつらかった。

傭兵が立ち上がって、倒れたオークを見た。


「……何をした?」


痙攣している。白目を剥いている。口からだらしなく舌が垂れて、泡を吹いている。さっきまで笑っていた顔の、見る影もなかった。



「……治療器具を……矢を使ったら……」

「治療器具?」

「まだ動いてる。とどめを刺す」



傭兵が落ちていた瓦礫を拾って、オークの頭に振り下ろした。

鈍い音が響いた。もう一度。もう一度。

三度目の音のあと、【息継ぎ無し(ノー・ブレス)】は——その名の通り、二度と息継ぎをすることはなくなった。



「俺はダリオ。傭兵だ。護衛の仕事中に襲われた」


「リリアです。……ヒーラーです」


「ヒーラー?」


ダリオがこちらを見て、それから床に落ちた発射台を見た。


「……俺の知ってるヒーラーと違うな」


少女は、名前をミラと言った。

父親と旅の途中で襲われたらしい。父親は——目の前で殺された。

声が小さかった。ほとんど聞こえないくらい。ショックで、うまく喋れないようだった。胸が痛んだ。何歳も年下なのに、こんな目に遭って。

二人の怪我を診て、回復魔法で傷を塞いだ。


「……本当にヒーラーなんだな」

ダリオが呟いた。


「……あの声、信じていいんですか。橋を渡れば自由、って」



ダリオが少し考えた。

「オークとは文化が違いすぎる。対話で説得なんて無理だ。でも——約束だけは守る。奴らにとって、約束を破るのは恥なんだ」


「じゃあ……」


「ああ。橋を渡れば出られる。それは本当だろう。だから——生き残るしかない」


「なんで……効いたの……?」


さっきから、それが分からない。


「知らん」

ダリオが答えた。

「だが助かった。それでいい」


ダリオが広間を見回して、使えそうなものを探し始めた。壁に刺さった赤い矢も引き抜いて、ポケットに入れている。

伝声管から、声が響いた。


「……ほう」

笑いを含んだ声。

「1匹目を倒したか」



間があった。

「……面白い」


また笑い声。

囚人服の裾を、誰かが強くつかんだ。ミラだった。震えている。



伝声管から鼻歌のような音が聞こえる、仲間を殺されたはずなのに、それすらも楽しんでいる。


「……趣味が悪い」

返り血のついた顔で、ダリオが吐き捨てた。

「次を放つ」

「【鼻鳴らし(スノウト・グロウラー)】」

「——隠れても無駄だぞ」

また二つ名。数多くの獲物を屠ってついた名だ。

足音が近づいてくる。ゆっくり、ゆっくり。

——次のゲームの幕が上がる音だった。

この作品、プロローグのバグドさん、1章のエルナさんの頃から

モンスターの暴力が、容赦なくゲストキャラを襲っていたのですが

前章の蝶と、この章のオークはリリアさんに襲い掛かりました。


リリアさん、異世界無双といっても「パラメータは変わってない」ので

一瞬で詰みますね。


リリアさん、こういうデスゲーム的なアレで一番最初に殺されそうな役回りですが

どうなるのでしょうか?


きっと、主人公なので死なないでしょう。

私があとがきでフリを書くと大体嘘になる気がしますがきっと大丈夫です!


たぶん

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