きまじめ調査員はまだまだ【バカンス】したいっ!
クッパーフェルト鉱山。
ギルド支部の前に、早馬が止まった。
馬具に紋章が刻まれている。
王冠と杖。
王室の——いや、国家機関のエンブレムだ。
「ギルド調査員マーカス殿に、火急の報告!」
騎手が叫んだ。
◇
マーカスは、書類を受け取った。
封蝋を切る。
中身を広げる。
『東の村ノイエンブルクにて緊急事態発生』
『スナッチスライム大量発生事件』
『被害:村の住人ほぼ全員が成り代わり』
『撃退:通りすがりのヒーラー2名』
『手段:スライムの同士討ちと極めて高レベルの氷属性魔法。禁呪の古代冰結魔法と推測』
『救出:地下牢獄に監禁されていた本物の住人の生き残り3名』
「3名」の文字を思わず二度見する。
ノイエンブルグの人口…
最近紹介された冒険者も両手では数え切れない…
ギルドの報告書なら出鱈目すぎて突き返すところだ。
だが、国家機関は、そんないい加減な事はしない。
ページをめくる。
『特徴:成り代わられた者の首元に黒いイボ』
『イボはスライムの芽。次の宿主候補にも植え付けられる』
『潜伏期間:推定2週間〜1ヶ月』
『感染経路:スライム本体との接触、または既感染者からの芽の移植』
詳細な図解まで添えられていた。
イボの成長段階。
侵食の進行度。
除去可能なタイミング。
最後のページに、報告者の署名があった。
『王立魔導研究所 主任研究員 バルドリック』
マーカスは、息を吐いた。
「……さすがだ」
事件発生から、まだ数日しか経っていない。
にもかかわらず、この情報量。
この正確さ。
しかも、国家機関の早馬を使って、関係各所に同時配布。
ギルドの正式ルートより、はるかに速い。
「……こんなに人を尊敬した事は、ないかもしれんな」
マーカスは、報告書を丁寧に畳んだ。
王立魔導研究所。
得体の知れない組織だと、噂する者もいる。
何を研究しているのか分からない、と。
だが、マーカスは知っていた。
この国の「見えない盾」は、ああいう人間が支えているのだと。
◇
マーカスは、報告書の内容を頭に入れながら、ギルドの受付に向かった。
ロベルトが、カウンターの向こうで書類を整理している。
「おや、マーカスさん。何か御用ですか」
にこやかな笑顔。
いつもと変わらない。
「東の街、ノイエンブルクで大変なことが起きました」
ロベルトの表情が、一瞬曇った。
すぐに、笑顔に戻る。
「……残念です」
マーカスは、ロベルトの首元を見た。
襟を高く立てている。
首元を隠すように。
「ロベルトさん」
「はい」
「初めてここに来た時、あなたはこう言いましたよね」
「『マーカスさん、お待ちしていました』と」
ロベルトの手が、一瞬止まった。
「ええ、言いましたね。支部長から連絡がありましたので」
「そして、『例のヒーラーですが』と」
「……ええ」
「面白いですな」
マーカスの声が急に高くなる。
身振りつきで芝居がかった大仰な話し方に変わる。
「あんたとは初対面だった」
「……」
「俺の顔を、どうやって知った?」
ロベルトの笑顔が、わずかに固まった。
「そして、俺は『例のヒーラー』になど用はない」
マーカスが、一歩近づいた。
「追っていたのは、俺の支部で4ヶ月前から行方不明のマヌエルだ」
ロベルトの目が、泳いだ。
「いやあ、夏に咲く花が大好きな奴でしてね」
マーカスが、窓の外の花壇を指さした。
「ちょうどそこの花壇と同じ、黄色い花が」
視線を戻す。
「マヌエルなら、あの花壇を見て何か言ったはずだ」
「でも、あんたは何も言わなかった」
「……」
「俺が来た日、あんたはずっと窓の外を見ていたのにな」
ポケットから、小さな針を取り出した。
「ロベルトさん、ちょっとお願いがあるんですが……」
「この針を……指先に……ちょっと刺してもらえませんか?」
ロベルトの笑顔が、消えた。
「血が出れば、それでいい。人間の証明だ」
「……」
「出なければ——まあ、分かりますよな」
その時、ギルドの扉が開いた。
調査員たちが入ってくる。
10人以上。
全員、武装している。
「マーカスさんの要請で来ました」
「ありがとう」
マーカスは、ロベルトを見た。
「いや……」
「お前は……ロベルトじゃないな」
ロベルトの顔から、表情が消えた。
◇
マーカスは、窓の外を見た。
黄色い花が、風に揺れている。
「……マヌエル」
小さく、呟いた。
「お前は、どこにいる」
答えは、返ってこなかった。
今回から「きまじめ調査員は【〇〇】したい! シリーズの始まりです!
※お詫び 「始まりです!」と言ったそばから、マーカスさんがバカンス終らせためため、今回でシリーズ終了です。
という茶番はおいといて…
いつも応援ありがとうございます、4章完結です!
今回、ガトリング砲が出てこないどころか、リリアさんが1体もモンスター倒していません。
話がこなれた頃に来る「ロボが合体しない回」「ウルトラマンでなく人間が怪獣を倒す回」「ジョジョでスタンドバトルが無い回」みたいなお約束外し回、いいですよね…と私もやってみました。
期待外れだったらごめんなさい。鉱山編から「やられた!」となった方はありがとうございます、「最初から読めてたよ」という方、さすがです。あなた、もしかして腕時計から眠り針を発射できたりしますか? ...zzz
次回から5章「キュン死注意!♡特製ヒーリングミスト」がはじまります!
また、キュンキュンする溺愛イケメンたちが現れてしまうのか!?(もう、やりませんっ!)




