表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
カッチン◇スライムだって転生したいっ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/108

残響

残響


リリアは、膝をついたまま動けなかった。足元に散らばった遺品を、ただ見つめていた。


赤い羽根のついた帽子。アッシュのもの。

スエード皮のグローブ。レイドのもの。

錬金術師ギルドのモノクル。ゼクスのもの。


いつから、スライムだったんだろう。最初から? それとも、この村に来てから?


分からない。もう、誰にも分からない。


隣で、カミラが座り込んでいる。顔は蒼白。でも、息はある。


 ◇


「おい」


背後から、声がした。聞き慣れた、力強い声。


「リリア。大丈夫か」


リュウだ。リリアは、息を吐いた。


よかった。リュウさんは無事だった。


かちゃ。かちゃり。


歩くたびに、金属音がする。プレートメイルの音。


リュウが助けてくれた時、いつもこの音がしていた。一番安心する音だった。


涙を拭って、振り返った。


 ◇


プレートメイルが、立っていた。


「……え……?」


鎧だけが、立っている。銀色の胸当て。鷲と剣の紋章。首元のスカーフの下に、グリフォンの家紋がちらりと見える。由緒ある名家の——


中にリュウがいない。まるでトルソーに掛けられたように、鎧だけが直立している。


リリアは、小さく笑った。こんな時に、いたずらなんて。張り詰めた空気を和らげようとしてくれたのだ。リュウさんらしいな。


「リュウさん、どこに隠れてるんですか?」


机の下を覗く。いない。扉の陰を見る。いない。


「もう出てきてください。隠れなくていいですよ」


「隠れてなんかいない」


声は、プレートメイルの方から聞こえた。


リリアは、ゆっくりと鎧に目を向けた。兜の奥。顔があるはずの場所。透明な、ゼリー状の塊が蠢いていた。


「俺はここにいる」


リュウの声で、スライムが喋っていた。


「……ひっ……」


リリアが、後ずさった。


「なんだ、その目は」


リュウの声が、低くなった。


「俺を見る目じゃないな」


「リュウ、さん……」


「お前だな」


鎧が一歩踏み出した。かちゃりと音が鳴る。


「お前がやったんだな、リリア」


「ち、違う……」


「違わない!」


スライムが、周囲を指差した。


「見ろ! この惨状を! アッシュは! レイドは! ゼクスは!」


「お前が殺したんだろうが!」


「違う……! 私は治療を……」


「あはは」


スライムが、笑い始めた。最初は小さく。やがて、狂ったように。


「あははははは! 治療だって!」


「お前の変な霧吹きを使った奴は、みんな死んだじゃないか!」


「これが治療か! あははははは!」


「やめて……」


「カミラの言う通りだった!」


リュウの声が、甲高く響いた。


「お前は使えないヒーラーなんかじゃない! 人殺しだ!」


「あははははは!」


笑いながら、スライムは続けた。


「最初から気に入らなかったんだよ、お前」


「どこの馬の骨とも知れない流れ者のくせに」


「アッシュに気に入られて、レイドに気に入られて、ゼクスに気に入られて」


「俺たちの輪に、するりと入り込んできやがって」


「あははは! 何様のつもりだ!」


リリアの目から、涙が溢れた。


「お前みたいな奴、最初から来なければよかったんだ」


「お前が来たから、みんな死んだ」


「お前のせいだ」


「お前のせいで、全部終わったんだ!」


「あはははははは!」


 ◇


狂ったように笑いながら、スライムが足元に落ちていた『極寒の息吹(クライオプローブ)』を拾った。


「証拠を見せてやる!」


「俺は人間だ! これをかけても何も起きない!」


「そうすれば、お前が殺人鬼だと証明できる!」


篭手を外し、左腕に吹き付ける。


しゅうううう。


白い煙が、腕を包んだ。


ぱきり。


男の腕——いや、骨組織も無い、腕のように見えた部位は、凍りついてぽっきりと落ちた。


鎧の中から、スライムが零れ落ちる。


「あはははは、なんだよこれ」


「俺はスライムじゃない! 人間だ!」


左足にも、液体窒素をかける。そして右足にも。


ブーツの上、ふくらはぎの途中で脚がぽっきり折れる。


地面に転がり倒れるリュウ。


もはや頭部と胴体と右腕だけしか残っていない。


 ◇


笑い声が、止まった。


傍らに散らばった剣。その刀身に、自分の姿が映っていた。


兜の奥で蠢くスライム。もう人の形をしていない何か。


「……あはは……」


「……俺も、だったのか……」


声が震えていた。笑っているのか、泣いているのか、もう分からなかった。


「……俺も、スライムだったのか……あはははは……」


目の付く場所に落ちていたナイフを、残った右腕で拾い上げた。


ついさっき、村人がカミラの太ももに刺した血まみれのナイフ。その後、スライム同士の壮絶な殺し合いにも使われたが、人間であるカミラの血だけは、しっかりと残っていた。


「スライムは、殺さなきゃな!」


「リュウさん……!」


「お前のせいだ、リリア!」


スライムが叫んだ。


「お前が来なければ、俺は幸せだった!」


「お前が来なければ、俺は人間のまま死ねた!」


「あはははははは!」


ナイフが、兜の奥に突き立てられた。


「なんだよ、ナイフは血まみれなのに」


「血の一滴も出やしねぇ……」


それが最後の言葉だった。


プレートメイルが、崩れ落ちた。


がしゃん、と大きな音を立てて。


 ◇


静寂。


リリアは、立ち尽くしていた。


リュウの言葉が、頭の中で響いていた。


私のせい。私が来たから。みんな死んだ。


全てが、終わった。


そう思った、その時。


リュウだったもの。地面に広がるゲル状の塊。


その中で、何かが蠢いた。


スライムのコアだった。


拳ほどの大きさの、脈打つ核。


コアが、激しく震えた。うねうねと、塊の中から這い出してくる。


リリアに向かって、跳ねた。


速い。避けられない。


リリアは、動けなかった。


 ◇


ざしゅっ。


ナイフが、コアを貫いた。


コアが、地面にべちゃりと落ちた。ぴくぴくと痙攣して、動かなくなった。


リリアは、振り返った。


カミラが、立っていた。


血まみれ。顔は蒼白。足を引きずっている。それでも、立っていた。ナイフを握りしめて。


「この村で一つ大事な事を学んだわ」


カミラが、地面に転がるコアを見下ろした。


「スライムは殺さなきゃね。そうでしょ、リュウ?」


言葉が、途切れた。


「いえ……本当のリュウは……」


カミラの唇が、震えた。眉が歪む。何かを堪えるように、ぎゅっと目を閉じた。


本当のリュウは、いつからいなかったのだろう。


あの笑顔は、あの声は、あの優しさは。どこまでがリュウで、どこからがスライムだったのか。


もう、誰にも分からない。


カミラは、目を開けた。濡れた睫毛が、光を反射していた。


 ◇


窓の外。


空が、白み始めていた。


夜明け。


長い夜が、終わろうとしていた。

メリークリスマス!!! (※公開日は12/26の20時ごろです)

いつも読んでいただき、ありがとうございます!



クリスマスイブ、聖夜の晩のリリアさんとリュウの甘~い一夜。

いかがだったでしょうか?


この回、最初はクリスマス前に公開だったので

何とかクリスマスの2日に地獄絵図が来るよう

前半の「あまあま追放聖女溺愛パート」をボリュームアップしました。


その結果、最初は設定が無かった「アッシュ、ゼクス、レイドの遺品」や

鎧の家紋の描写、モノクルを外すと表情が変わるお話が増えて、絶望が増した気がします。


あまりに唐突すぎる、謎の甘々パートをやりすぎて、新章突入時に困惑する感想もいただいてしまったのは、本当に申し訳ないです。


リリアさんからのクリスマスプレゼント、いかがでしたか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ