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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
カッチン◇スライムだって転生したいっ!

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捨てられ聖女はなぜか【守られ】ています……?

冒険者ギルドは、朝からごったがえしていた。


依頼票が貼られた掲示板の前に、人だかりができている。リリアはその後ろからのぞき込んで、なんとか依頼を探していた。


(ソロで受けられて、ヒーラーでもできるもの……)


薬草採取。でも場所が遠い。

魔物討伐。戦闘向けのジョブ限定。

護衛任務。パーティー必須。


(どうしよう)


宿代もある。食費もある。いつまでも借りを作っているわけにはいかない。


「あら、リリア」


声がして、振り返った。


赤い髪が揺れた。カミラだった。


体がこわばる。


「依頼、探してるの?」


「……はい」


「大変そうね。ヒーラーのソロって、選択肢少ないもの」


昨日、食堂で追い出された時とは全然違う。


「ねえ、これはどう?」


カミラが一枚の依頼票を取り出した。


「森の薬草採取。場所も近いし、危険度も低いわ。私が受けようと思ってたんだけど、別の依頼が入っちゃって」


依頼票を見る。


東の森。薬草採取。報酬は銀貨5枚。危険度は低。ソロ可。


「昔のよしみ、ってことで」


カミラがにこっと微笑んだ。


「昨日はごめんなさいね。少し、意地を張りすぎたわ」


「……」


信じていいのか、分からなかった。


でも、他に選択肢がなかった。


「……ありがとうございます」


依頼票を受け取った。


「気をつけてね」


カミラは手をひらひら振って、去っていった。


 ◇


東の森は、街から歩いて半刻ほどの場所にあった。


木漏れ日がさらさら差している。鳥の声がする。


依頼票に書かれた薬草を探す。青い葉に、白い斑点。見つけたら籠に入れていく。


(カミラ、本当に和解するつもりだったのかな)


奥に進む。薬草は森の深部に多いと書いてあった。


木々がだんだん密集してきた。日差しが届きにくくなる。


足元に、何かがあった。


赤い。ぷるぷると震えている。


スライムだ。


ただのスライムじゃない。赤い色。硬そうな表面。


ハードスライム。


打撃に強いやつだ。ヒーラーの木の棍棒では、ダメージが通りにくい種類。


(一匹だけなら、避ければ……)


そう思った時、周囲の茂みががさがさ揺れた。


赤い塊が、次々と現れる。


一匹、二匹、三匹——


十を超えた。


(多すぎる)


こんな浅い場所に、こんな数のハードスライムがいるはずがない。


囲まれていた。


逃げ道がない。


棍棒を構えた。ヒーラーだって、最低限の戦闘訓練は受けている。


振り下ろす。


ぼよん、と弾かれた。


効いていない。表面が硬すぎて、木の棍棒じゃダメージが通らない。


もう一度振る。また弾かれる。


スライムがじりじり近づいてくる。少しずつ、少しずつ、距離を詰めてくる。


(まずい)


背中が木にぶつかった。これ以上、下がれない。


スライムが飛びかかってきた。


 ◇


かちゃり。


金属の音がした。


聞き覚えのある音だった。


体から、ふっと力が抜けた。


大丈夫だ。


なぜかそう思った。


銀色の影が、視界を横切った。


剣がきらりと閃く。スライムが真っ二つに裂けた。


「——遅くなった」


低い声が降ってきた。


リュウだった。


銀色の鎧。金色の髪。青い目。


「リュウさん……」


「怪我は」


「……ないです」


「そうか」


それだけ言って、リュウは剣を振るった。


スライムが次々と斬り裂かれていく。


「おーい、こっちも片付いたぞー!」


アッシュの声が聞こえた。斧を担いで、茂みからひょっこり出てくる。


「ボクも終わったよー」


レイドが杖をくるくる回しながら歩いてくる。魔法で焼いたのか、焦げたスライムの残骸がぼろぼろ転がっていた。


「……」


ゼクスが、いつの間にか隣にいた。リリアの腕を、そっと掴んでいる。


「どうしてここに……」


「近くで依頼を受けてた」


リュウが剣を鞘にしゃりんと収めながら言った。


「嫌な予感がしたから、様子を見に来た」


「嫌な予感……」


「あの女が絡んでるなら、何かあると思った」


青い目が、まっすぐこっちを見ている。


「……正解だったな」


 ◇


ギルドに戻った。


リュウがカウンターで何か話している。しばらくして、職員がカミラを呼び出した。


「何の用?」


カミラが不機嫌そうに現れた。


「この依頼、あなたが譲ったものですね」


職員が依頼票を見せる。


「ええ、それが何?」


「現場にハードスライムが大量発生していました。危険度『低』の依頼としては、不自然な状況です」


「知らないわよ、そんなの」


カミラが眉をひそめた。


「私が受けようとした時は、普通の採取依頼だったもの。たまたまスライムが集まってただけでしょう」


「調査したところ、スライムを誘引する餌が撒かれていた形跡があります」


職員の声が、すっと冷たくなった。


「あなた、昨日この依頼を下見に行っていますね。受付記録に残っています」


カミラの顔色が変わった。


「それは……」


「下見の時点では、ハードスライムの報告はありませんでした。つまり、下見の後から今朝までの間に、誰かが餌を撒いた可能性があります」


「私じゃないわ」


「他にこの依頼の場所を知っていた人は?」


「……」


カミラが黙った。


「軽いいたずらのつもりだったんです」


しばらくして、小さな声で言った。


「スライムの巣窟になってるなんて知らなかった。ちょっと驚かせてやろうと思っただけで……」


「驚かせる?」


リュウの声が低く響いた。


「ハードスライムに囲まれて、驚かせる?」


「だから、あんなに増えてるとは思わなかったのよ」


「餌を撒けば増えるのは当然だろう」


「そこまで考えてなかったの!」


カミラが声を荒げた。


「本当よ。殺すつもりなんてなかった。ただ、少し……少し困らせてやりたかっただけ」


リリアは、何も言えなかった。


「……私は、無事でした」


口を開いた。


「怪我もしていません。だから、もう……」


「許すのか」


リュウが振り返った。


「殺されかけたんだぞ」


「でも、殺すつもりはなかったって……」


「つもりがなければ許されるのか」


青い目が、冷たく光っていた。


——一瞬、リュウの視線がリリアに向いた。すぐに、カミラに戻る。


「結果的に、お前は死にかけた。それは事実だ」


「……」


「お待ちください」


職員が、冷たい声で言った。


「これで終わりではありません」


カミラが振り返る。


「モンスターの異常発生を確認しながら、ギルドに報告しなかった。これは重大な規約違反です」


「報告って……私はただ餌を撒いただけで——」


「餌を撒いた時点で、モンスターが集まる可能性は認識していたはずです。にもかかわらず報告を怠り、他の冒険者を危険に晒した」


職員が書類を取り出した。


「さらに、意図的に危険な依頼を他者に譲渡した。これにより、リリアさんが命の危険に晒されました」


「だから、殺すつもりは——」


「つもりの問題ではありません」


職員の声が、さらに冷たくなった。


「結果として、死者が出ていた可能性があります。ギルドとしては、これを看過できません」


カミラの顔から、みるみる血の気が引いていく。


「処分を言い渡します」


職員が書類を読み上げた。


「カミラ・ヴェルデ。冒険者ランク剥奪。今後50年間、Gランクに固定。Fランク以上の依頼を受けることは禁止されます」


「50年……?」


カミラが呆然と呟いた。


「ご、Gランクって……最低ランクの下じゃない。仕事なんて、ほとんど……」


「規則ですので」


職員は淡々と言った。


「この規則は、長寿種であるエルフの委員が制定したものです。人間にとっては厳しく感じるかもしれませんが、命に関わる違反には相応の罰則が必要です」


50年。


人間の寿命を考えれば、それは「一生」を意味していた。


「そんな……そんなの、ここで冒険者を続けられないってこと……?」


「ご自身の行動の結果です」


職員が書類をぱたんと閉じた。


「なお、他国のギルドにも通達が行きます。まともな国では、同様の扱いになるでしょう」


「まともな国って……じゃあ、どこに行けば……」


カミラの声が震えていた。


「国交のない場所であれば、ギルドの管轄外です。例えば……」


職員が少し考えて、言った。


「暗黒大陸のエンクレイヴ帝国などでしょうか。皇帝グラーフカイザー・バレシウス4世の独裁政権下で、自由はほぼないと聞きますが」


カミラの顔が、真っ白になった。


「エンクレイヴ……あの、蛮族の国……?」


「他に選択肢があるかどうかは、ご自身でお探しください」


職員は、もう興味を失ったように視線を外した。


アッシュが、小さくぴゅーっと口笛を吹いた。


「エンクレイヴか……あそこ、紅茶の文化ないんだよな。苦い薬草を煮出した汁しか飲まないって聞いた」


「アフタヌーンティーとか、絶対無理だね」


レイドがやれやれと肩をすくめた。


「……」


ゼクスが、小さく首を振った。哀れむような仕草だった。


「待ってください!」


リリアが声を上げた。


全員の視線が集まる。


「私は無事でした。怪我ひとつしていません」


職員の方を向いた。


「カミラさんは……軽率だっただけで、本当に殺すつもりはなかったんだと思います」


「しかし、規則では——」


「私が被害者です」


声が震えていた。でも、言わなければいけなかった。


「その私が、許すと言っています。お願いします……今回だけは、見逃してもらえませんか」


職員が、リュウを見た。リュウが、少し間を置いて、小さく頷いた。


「……分かりました。被害者の方がそこまでおっしゃるなら、今回は厳重注意に留めます」


職員が書類を閉じた。


カミラは、俯いたまま動かなかった。


自分を追放した相手に、助けられた。


それがどういう意味か、分かっているはずだった。


「……覚えてなさいよ」


絞り出すような声だった。


顔を上げないまま、カミラは背を向けた。


その時、リリアの目に映った。


カミラが首元を押さえている。襟を引き上げるように。スカーフを巻き直すように。


不自然な仕草だった。


(……?)


何かを隠している。


でも、カミラはそのまま去っていった。


 ◇


カミラの姿が見えなくなった瞬間——


「ぷっ」


リュウが、吹き出した。


「え?」


リリアが振り返ると、リュウが肩をぷるぷる震わせていた。


笑っている。


「リュウさん……?」


「いや、悪い」


リュウが口元を押さえた。目がきらきら笑っている。


「Gランク固定50年は実在する規則だが…」



「叛乱クラスの危機や事務方の汚職防止用だ」



「……え?」


「冒険者に適用されることなんてないさ」



「とっさに合わせるの、大変だったんですよ」



職員が苦笑いを浮かべた。

「いきなりリュウさんが目配せしてくるから。エンクレイヴとか、よく出てきましたね自分でも」



「ボクだったらとっさに言えないよ。『皇帝グラーフなんとか3世』なんて、長すぎるもん」


「そこは4世だ、大事なところだぞ」


「………」

ゼクスが静かに深く頷く。


「まあ…、アフタヌーンティー飲めないのは本当だけどな」


アッシュがにやにや笑っている。


「え、じゃあ、全部……」


「脅しだ。あの手の人間には、一度痛い目を見せておいた方がいい」


リュウが肩をすくめた。


「まあ、お前が許すって言うなら、それでいい。次があったら、本当に調査班を呼ぶ」


「ボクたち、結構息ぴったりだよね」


レイドが楽しそうに言った。


「……」


ゼクスが、小さく頷いた。口元が、ほんの少しだけ緩んでいた。


リリアは、呆然と立ち尽くしていた。


「……ありがとう、ございます」


声が掠れた。


「礼を言われることじゃない」


リュウが、そっけなく言った。


でも、目は優しかった。


 ◇


ギルドを出た。


「リリア」


リュウが声をかけてきた。


「やはり、俺たちと一緒にパーティーを組まないか」


真剣な目だった。


「一人でいると、またああいうことが起きる。俺たちと一緒なら——」


「……ありがとうございます」


リリアは首を横に振った。


「でも、まだ……」


まだ、怖かった。


パーティーを組んで、また追い出されるのが。仲間だと思って、また裏切られるのが。


「……そうか」


リュウは、それ以上言わなかった。


「でも」


リリアは続けた。


「お茶なら、ご一緒します」


「お茶?」


「今日のお礼に。おごらせてください」


リュウの目が、少し丸くなった。


後ろで、アッシュが吹き出した。


「お、いいじゃん! リュウ、お茶に誘われてんぞ」


「うるさい」


「ボクも行くー」


レイドが手を挙げた。


「……」


ゼクスも小さくこくりと頷いた。


 ◇


街の広場に面した喫茶店に入った。


テラス席。午後の日差しがぽかぽか心地いい。


「すみません、ハーブティーを5つ」


リリアが注文した。


「おごりって言っても、無理すんなよ」


アッシュが心配そうに言った。


「今日の依頼、報酬もらえてないだろ」


「大丈夫です。これくらいは」


「でも——」


「お礼、させてください」


リリアは、少しだけ笑った。


「助けてもらったので」


アッシュが黙った。それから、頭をがしがし掻いて笑った。


「……分かった。ごちになります」


ハーブティーが運ばれてきた。温かい湯気がふわふわ立っている。


カップを手に取る。一口飲む。


「……美味しい」


レイドがにっこり目を細めた。


「ここ、ボク好きなんだよね。ハーブの配合が絶妙で」


「お前、こういう店詳しいよな」


「乙女だからね」


「男だろ」


「心は乙女なの」


「……」


ゼクスがカップを持ったまま、小さくこくりと頷いた。


「ゼクス、お前も乙女なのか」


「……」


首を横に振る。


「だよな」


リュウが、黙ってお茶を飲んでいた。


さっきの冷たい目が、嘘みたいだ。


「……リュウさん」


「ん」


「ありがとうございました。助けてくれて。それと……怒ってくれて」


「……当然のことをしただけだ」


「でも、嬉しかったです」


リュウが、少しだけ目を逸らした。


「……そうか」


「また、ご一緒してもいいですか」


気づいたら、そう言っていた。


「お茶、ですけど」


アッシュが笑った。


「いつでも歓迎だぜ」


「ボクも賛成」


「……」


ゼクスがこくりと頷いた。


リュウは、黙ってカップを傾けた。


でも、口元が少しだけ緩んでいるのが見えた。


午後の日差しの中で、ハーブティーの湯気がゆらゆら揺れていた。


 ◇


この時の私は、まだ知らなかった。


私の知っているカミラは、首元を隠すようにスカーフを巻いてはいなかった。


そして——彼女の、本当の姿を。


章の仕事に高い誇りを持ったおじさんとの交流から一転して唐突にはじまった

この「捨てられ聖女」路線。


この作品、流れ着く先で人々の民度や文化観がガラッと変わる、ファンタジー・ロードムービーをちょっぴり意識しているのですが、今回のノイエンブルク編は暖房の効いた部屋で執筆しているのに、ぞわぞわしてきます。


よくある「嫌なやつが出てきて即ざまあ、その後スパダリがやりすぎる」

超王道展開なのに、主人公のリリアさんが真っ先に耐えられませんでした!


リリアさんは性格的に、こういうありがちな復讐劇に根本的に向いてませんね。

カミラさん普通にかわいそうです。


今回、そういうジャンルを一生懸命勉強したんですが、本当に主人公が何もしないで周りが勝手にエグいことやらかすんですね。


リリアさんたちと、なろう地平ではなく完全にベリーズカフェ脳のファンクラブ会員のボンクラ4人が優雅にお茶を楽しめる時間が、あとどれくらい続くのか……


もう少々、この背筋も凍る世界にお付き合いください!


あ、「リリアさんがカフェを気に入ったので財力で買収する」みたいな溺愛富豪テンプレ展開は、リリアさんこの境遇でしっかり自立できてる女性なので、さすがに思いとどまりました。

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