たどり着いた思い
見える。
目を閉じているのに、見える。
石の奥に揺らぎがある。ここのものじゃない。修道会でずっと気の流れを読んできた。これはこの石が持っているものじゃない。
異物だ。
魔法学校でも修道会でも、誰もこれを教えてくれなかった。
もっと前から、ずっとあった感覚だ。
身体が言っている。触れれば通る。
◇
ファイアーボールが当たらない。
ずっとそうだった。修道会でも、転向してからも。火は出る。でも、真っ直ぐ飛ばない。どれだけ訓練しても、呪文を変えても、どうやっても外れる。
ずっと恥ずかしかった。失格だと思っていた。
気づいたのは去年だった。
掌が熱くなる時がある。外に火を放とうとした時じゃない。気を通している時に。
——外に出せないのではない。
内側にしか、通せない。
ようやく分かった。
欠陥じゃない。ずっとこういう火だったんだ。
◇
石の中の揺らぎが、近づくにつれ強くなる。
右手を当てる。
冷たい。粉が手のひらに乗る。どこにでもある石だ。
ちがう。
触れた途端に、波紋が近くなった。呼吸と同じだ。意識すると変わる。意識するから分かる。
川に手を沈めると、流れが掌に当たってくる。押しているのではなく、来ている。
来ている。
ここに何かある。ここで何かが起きようとしている。
川の流れと同じだ。石を置けば流れが変わる。上流で何かが落ちれば伝わってくる。
——火を送るんじゃない。
熱の起こり方を伝えるだけ。
◇
「テアさん!」
リリアが叫んだ。
ガーゴイルの胸の奥で何かが変わった。
表面が細かく震えている。白い粉が舞った。亀裂は走っていない。でも石の内側で何かが動いている。
リリアには分からなかった。
ゲルトが後退した。ヴェルナーが矢をつがえたまま、動けない。
ガーゴイルが動いた。
膝が、崩れるように折れた。両腕を胸の前で交差させた。頭が下がった。
主に捧げるように。
◇◇◇
ニトログリセリン——
単体では触れただけで爆発する。
振動でも。熱でも。衝撃でも。
1864年、ノーベル火薬工場が吹き飛んだ。
弟エミールが死んだ。
1867年、アルフレッド・ノーベルは答えを見つけた。
珪藻土——太古の藻類が海底に積もり、化石となった土。
無数の微細な穴を持つ。
その穴にニトログリセリンを吸わせる。
液体は穴の中に閉じ込められ、安定する。
運べる。貯蔵できる。制御できる。
これがダイナマイトの原理である。
風化した古城の石。
何百年も雨風に晒され、表面に無数の穴が開いた多孔質の石。
珪藻土と同じ構造。
心臓の痙攣を解くもの——
岩を砕くもの——
守り続けた時間が最後の番人の命取りとなった。
狭心症の発作を鎮める血管拡張薬——
その同じ分子がダイナマイトの主成分でもある——
すなわち——ヒーラーが装備可能な『治療器具』である!!




