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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
ドッカン◇石になっちゃった!? 古城のふしぎな番人!

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三硝酸グリセリン(ニトログリセリン)

テアが動かない。


一撃を入れた姿勢のまま。右腕が前に伸びている。足が踏み込んだまま。


肩に触れる。


筋肉が硬い。皮膚の下が全部詰まっている。指が沈まない。


唇が青い。指先も。血が流れていない。





「視線を合わせるな。石化だ」


ゲルトが荷棒を構えながら言う。視線をガーゴイルの胸に落としたまま、間合いを測っている。


ヴェルナーが矢筒の底から一本引き抜く。形が違う。四角い穂先——鎧を貫くための矢だ。


石に当たって、穂先が砕けた。床に落ちる。「目を狙っても駄目だ」


ゲルトが踏み込んで荷棒を振り込む。鈍い音がして手に衝撃が戻ってくる。退かない。もう一撃。また同じ音がする。「石だ。歯が立たない」


ゲルトが荷棒を下げる。リリアに目を向ける。「何かあるか」





「テアさん、聞こえますか」


まつ毛が一度だけ動いた。


手をかざす。緑の光。回復魔法。


吸い込まれない。傷がない。出血がない。骨が折れているわけでもない。どこを治せばいいのか分からない。光が散る。


石化。


魔法学校で名前だけ習った。身体が石になるわけじゃない。視線を受けた瞬間、身体の自由を奪われる。鳥が天敵の前でぽとりと落ちる——あれに近い、と教わった。


実際に見るのは初めてだ。


もう一度。また散る。もう一度。また散る。


テアの胸が動いている。浅く、速い。


このまま続けば——心臓が——


荷袋に手が入っている。





——誰も、犠牲者を出したくない……!!


最終救護ラストレスキュー——



ニトログリセリン——


1847年、イタリアの化学者ソブレロが合成した。


試みになめてみると、甘い。かすかな香りがある。

そして——激しい頭痛。


頭の血管が、広がりすぎた。


1853年、アメリカの医師ヘリングが

狭心症への応用を発案した。


飲み込んではいけない。

胃に落ちれば、肝臓が分解してしまう。

舌の下に含む——粘膜から直接、血の中へ。

一分で心臓に届く。


狭心症の発作——心臓に血を送る冠動脈が痙攣し、

血流が途絶える。心筋が酸素不足で悲鳴を上げる。


ニトログリセリンは痙攣した血管を広げ、

血流を取り戻す。


痙攣し、収縮した冠動脈に、再び血を通すもの——

すなわち、ヒーラーが装備可能な『治療器具』である!!





光が収束する。


底が丸いガラスの容器。細い管。氷の入った浅い箱。厚い手袋。


手袋をはめながら、ゲルトの動きが見える。視線を下げたまま間合いを詰めて、荷棒を振り込む。弾かれる。退かない。また踏み込む。ヴェルナーが角度を変えて矢を射る。弾ける。


ローブの襟元を引き上げる。容器を氷の箱に沈める。


救急鞄を開く。


硫黄の匂いがする小瓶——ブレンハイムの温泉から汲んだものだ。もう一本——フロストスパイダーの体液。壁から削った白い粉。


細い管で一滴ずつ、慎重に混ぜる。


石の爪が床を削る音が響く。「持ちこたえろ」


指が震えている。


しばらくして——透明な液体が、表面に浮く。


甘い香りがする。


小さな瓶に全部移して、細い管で一滴だけ吸い上げる。





「口を開けてください」


顎が固い。指で押して、わずかに開く。舌の下に、一滴。


一秒。十秒。


肩から力が抜けた。崩れるところを支えた。胸が大きく動く。次の息が来た。


「……っ」


床に手をついたまま、立てない。


テアの傍に膝をついた。小瓶がまだ手の中にある。


ゲルトとヴェルナーが声を上げた。


ガーゴイルの腕が来た。


テアを庇う間もなかった。腕がリリアごとテアを薙いだ。


二人とも吹き飛んだ。


小瓶が手から離れた。


宙で弧を描いて——ガーゴイルの胸に液体が降りかかった。


長い年月、雨風に打たれ続けた石の表面。風化して白く、粉を吹いたように荒れている。指で触れれば崩れそうなほど、表面は細かな穴だらけだった。その穴が、音もなく液体を吸い込んでいく。





ガーゴイルは動かない。


矢の跡もない。荷棒で叩き続けた跡もない。壁を背にして、ただ立っている。


ゲルトが壁に手をつきながら立ち上がる。何も言わない。荷棒を拾う。


ヴェルナーが矢筒を確かめた。「残りが少ない」


手詰まりだ。


ゲルトの荷棒は石には通らない。ヴェルナーの矢も同じだ。回復魔法は傷のないものには届かない。荷袋の底にメイスがある——でも、ヒーラーのリリアは戦士や騎士のようにガーゴイルと渡り合うことなどできるはずもない。


手を伸ばした。


テアが顔を上げた。





「私がやります」


壁に手をついて、立っている。足が震えている。腰が入っていない。それでも、ガーゴイルから目を離さない。


「何をするんですか」


テアは答えなかった。


目を閉じる。深く息を吸う。鼻からゆっくり、長く吐く。また吸う。ヒーラーの呼吸でもキャスターのものでもない。これはきっと修道会のモンクのものだ——呼吸法。魔法学校でその名だけ聞いたことがある。


もう一度。また一度。


右手が前に出る。


目はまだ閉じている。それなのに、右手がガーゴイルの方を向く。


「何かが、見えます」

最近、毎日更新できない日がつづいてごめんなさい!

とうとうニトログリセリン回です!


爆薬としてでなく医薬品として使ってしまうのが

この作品らしさと感じていただけると幸いです!

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