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追放ヒーラーですが【発明者が医師】なのでガトリング砲を使います!  作者: とらいぽっど
ドッカン◇石になっちゃった!? 古城のふしぎな番人!

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羊の脂と見習い少女

町に着いて二日目の朝、ニコが仕事を見つけてきた。


「織物ギルドで羊毛の洗浄を手伝ってほしいそうだ。日当は出る」


ミラの方を見ながら言った。


ミラは何も言わなかった。翌朝ついていった。





案内してくれたのはイルゼという見習いだった。


ミラより二、三歳年上に見える。歩きながらよく喋った。


「刈り取ったばかりの毛って、重いんですよ。汚れと脂と汗の塩が全部ついてるから。うちで扱ってる羊だと、洗い終わったら半分近くになることもある。最初見た時びっくりしました」


広い作業場だった。桶がいくつも並んでいる。


壁際の棚に道具が並んでいる。その端に、小さなものがある。フェルトで作った何か。動物のような、そうでないような。歪な形をしている。


「それ、私が初めて作ったやつです」


イルゼが言った。


「恥ずかしいから捨てたいって言ったら、親方が駄目だって。姉弟子と兄弟子のも全員分あって。お前のも置くって言われて」


少し照れた顔で桶の前に立った。


「まあでも、初めてだから仕方ないんですけど。では手袋してください」





リリアとミラが手袋をはめた。


リリアが二人の手に防御魔法をかけた。


イルゼが止まった。


「……なんですかそれ」


「灰汁で手が荒れにくくなります。少しだけ」


「え、そんなことできるんですか」イルゼが自分の手袋をしげしげと見た。「ヒーラーさんって、こういう仕事場に来ることないんで。知らなかった」


ニコが桶の端に腰を下ろした。矢の手入れを始めた。





「洗浄剤は灰汁を使います。木灰を水に溶かしたやつです。アルカリで脂が落ちる」


「石鹸じゃないんですか」


「石鹸は高いんで。灰汁で十分です。ただ温度に気をつけてください。熱すぎると縮む。ぬるいくらいが正解で——私も最初やらかしました。洗い終わったら毛がごっそり縮んでて、親方に怒られて」


イルゼが桶に毛を入れた。ゆっくりと押す。こすらない。


「こうやって押す感じで。絡まらせないように」


ミラが真似した。


「そう。その感じです」


しばらくして、毛から黄ばんだ水が滲んだ。


「これがスイント。羊の汗が乾いた塩です。一緒に脂も出てきます。この脂、後で回収します。革の手入れとか薬に使えるんで、問屋に卸してます」


桶の表面に白っぽいものが浮いてきた。


ミラが指先でそっと触れた。


それから手を止めた。


イルゼが見ていたが、次の桶の方に目を移した。





昼になった。


「この後、脂を回収して、廃液は畑に持っていきます。肥料になるんで。捨てるところないから全部使う。あ、ニコさん手伝ってもらっていいですか、これ重くて」


ニコが無言で立った。


「助かります。あの、ニコさんって弓使いですよね。さっきの矢、見えちゃって。いい鏃でした」


「……ああ」


「うちの兄弟子が弓好きで。いつか話せたら嬉しいんですけど」


「いや」


「よかった」


二人で桶を持ち出ていった。


リリアも後から続いた。





作業場に、ミラとフリッツだけ残った。


イルゼが持ってきた弁当袋が棚の下に置いてある。


ミラが袋を開けた。黒パンと、布に包んだ何か。干し肉の切れ端。小さな水筒。


黒パンをちぎった。


フリッツが鼻先を寄せてきた。


ミラがパンの端を差し出した。


フリッツが食べた。


もう一度、鼻先を寄せてきた。


「……だめ」


フリッツが床に伏せた。顎を前足に乗せて、ミラを見ている。


ミラがもう一口食べた。


フリッツがじっと見ている。


「……だめって言った」


フリッツの耳が少し動いた。


ミラがため息をついた。小さいかけらを指でちぎって、置いた。


フリッツが勢いよく食べた。


ミラが水筒を傾けた。乾いた音がした。あまり入っていなかったらしい。





「ただいまー」


イルゼが戻ってきた。


作業場を見渡して、止まった。


フリッツがミラの膝に頭を乗せている。ミラが耳の後ろを掻いてやっている。フリッツが目を細めている。


「……さっきの犬ですよね」


「うん」


「さっきと全然違くないですか」


「……いつもこう」


「えっ」


イルゼがリリアの方を見た。リリアが頷いた。


「なんか」イルゼが言った。「すごい」


弁当袋を持ってきて、ミラの隣に座った。自分の分を広げた。黒パンと、チーズと、干しぶどうが少し。


「ミラさんって動物好きなんですか」


「……好き」


「いいなあ。私、猫しか触れなくて。犬ってどう近づけばいいのか分からない」


「ゆっくり手を出す。目を見ない」


「目を見ない?」


「怖がらせないように」


「へえ」イルゼが遠巻きにフリッツを見た。「やってみていいですか」


「……どうぞ」


イルゼがゆっくり手を伸ばした。フリッツが顔を上げた。イルゼが固まった。


フリッツがまたミラの膝に顎を戻した。


「……無視された」


「慣れてないから」


「そうですよね」イルゼがチーズをかじった。「でもなんか悔しい」





リリアとニコが戻ってきた頃、イルゼとミラは干し肉の固さについて話していた。


「これくらいが一番持つんですよ。柔らかいのはすぐ傷む」


「……旅だと固い方がいい」


「旅してるんですか。いいな。私、この町から出たことなくて」


「……遠くに行っても、帰る場所あった方がいい」


イルゼが少し黙った。


「そうかも」


リリアは入り口で止まった。


中に入らなかった。





夕方、ゲルトが荷車でやってきた。


荷台に、麻袋がいくつかある。


「ハイディの分だ」


それだけ言って、袋を下ろした。ヴェルナーが手伝った。


イルゼが袋を開けた。量を見た。持ち上げた。鼻を近づけた。


「洗浄だけなら三日。フェルトにできる状態まで持っていくならもう二日。毛糸にして織るまでとなると、一か月はかかります」


「一か月」


「原毛から糸を紡いで、織りまで覚えるとそうなります。住み込みになりますね」


誰も何も言わなかった。


「フェルトなら五日で仕上げられます」


ゲルトが頷いた。


それで滞在日数が決まった。





夕方になった。


「今日はここまでです。お疲れ様でした」


イルゼが桶を片付け始めた。


ミラがイルゼの方を向いた。


「……ありがとうございました。グレイとモリーのご飯の時間なので」


きちんとお辞儀をして、小走りで出ていった。


イルゼが少し遅れて「お疲れ様でした」と言った。ミラはもういなかった。


少し遅れて、フリッツが追いかけた。


ニコがイルゼに言った。「うちのロバだ」


「ああ、だからロバの世話が」イルゼが頷いた。「毎日来てるんですか」


「来てる」


ニコも出ていった。



リリアは残っていた。


桶を重ねるのを手伝った。イルゼが水を流した。道具を棚に戻した。


「親方が言ってたんですけど」


イルゼが棚の整理をしながら言った。


「もしミラさんが長くいられるなら、見習いとして引き取ってもいいって。手当も出ます」


リリアは桶を持ったままだった。


「……そうですか」


「うちのギルド、ちゃんと教えますよ。私も教わったし」イルゼが棚の端の歪な塊をちらりと見た。「最初は誰でもあんな感じなので」


道具を並べ直した。


「妹弟子、できたことないんで」


独り言のような声だった。


「ちょっと楽しみだなって思っちゃいました」


照れているのか、背中を向けたまま言った。


リリアは何も言わなかった。


作業場の外で、ミラがグレイに話しかけている声が聞こえた。言葉ではなく、低い声の音として。グレイが鼻を鳴らした。





宿に戻った。


夕飯の前、ミラが鞄を開けた。ハイディの毛の束を出した。指で触った。しばらくそのままでいた。


「……ハイディと同じ匂い」


誰に言うでもなかった。


鞄に戻した。


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