魔王城
あれから一ヶ月、私はベッドの上で過ごしていた。あの日折れた足が使いものにならず、まともに歩けないからだ。しかし、歩くのにも苦労している私をみて、あの男は人間は恐ろしく脆いものだと認識したらしい。絵本の中のお姫様が寝ているような天蓋についている可愛いベッドに、三食出てくる美味しい食事。無理やり魔術の訓練をさせられると思っていたのに、想像していたよりもずっと高待遇で、正直混乱している。
「おはようございます。セラ様」
「…おはよう。じい」
そして私にはヴァルという老執事が付けられた。「じいとお呼びください」とこんな小娘に敬語を使ってくれる穏やかな魔族で、見た目は上品なお爺さんに見えるけど、私じゃまず勝てないと思う。私は逃げないように見張っているのかもしれない。
「本日もお医者様がいらっしゃいます。その後は、動かずできる範囲での魔術の練習をしていただきます」
「ふぁい」
口に甘いフレンチトーストを含みながら返事をする。ここでの生活は快適そのものだ。なんだったら街での生活よりも贅沢だろう……あの男さえこなければ。
「生きているか?」
なんの断りもなく、デズモンドが転移で部屋に現れる。相変わらず嗜虐的な笑みを浮かべ、偉そうな男だ。
(デズモンド…)
父さんと母さんの、仇。殺してしまいたいほど憎いし、あの時の光景が頭から離れなくて、この姿を見るたびに恐怖で身がすくむ。でも、私はこの男に逆らえない。
「おい、返事をしろ」
「…足以外に体の不調はございません」
私が逆らえば、きっとアレクは殺されてしまう。どうしてあの場で危害をくわえないことを誓わせなかったのか。あまりにも浅かった自分の考えに、過去の私を叩きたくなった。この男が私を見る目はまるで玩具を見るそれだ。機嫌を損ねたら殺されてしまう。でも、それではだめだ。この男を殺すまでは死ねないし、私が殺されると言うことはアレクだって殺されてしまう。それだけは避けなければ。
(いつか、絶対に殺してやる)
私は静かに復讐を誓った。
☆☆☆
さらに3ヶ月後、足も治り、本格的に魔術の訓練が始まった。正直、魔術の習得にそこまで苦労はしなかった。どんな魔術でも、教えられたことを何回か練習すればできてしまう。面白いなんてことはなく、ただただ練習を繰り返す、事務的な訓練だ。挫折もなければ達成感はない。魔力がなくなり、倒れるまで訓練を続ける。魔力が枯渇するたびに、魔力量は増えるらしい。人間である私は今のままではまず魔族には魔力量では叶わない。だから余計にだ。
(…こんな力、あったって仕方がないのに)
毎日そう考える。私からしたら、この力は父さんと母さんが死んでしまった原因みたいなもので、誇るべき力ではない。魔術が使えなかったら、あのままアレクと結婚して、両親も生きていた生活もあったのかもしれない。それは、もう絶対に叶わない、夢物語だ。
「ここにいろ」
「はい」
そして、デズモンドは私を飾り立ててそばに置くことを好んだ。年齢的に対象外だったようで、慰み者にされることこそなかったけれど、その代わり綺麗なドレスを着せられて、謁見や会議の時に後ろに立つように言われる。お気に入りの人形を見せびらかすような感じだ。
「おはようございます。セラ様」
「…おはよう」
今日も私は、同じように朝を迎える。ただあの男の言いなりになるだけの、人形みたいな日々に。




