だいすきだよ
「はっ!愉快だなぁ。滑稽だなぁ。いいぞ、そのまま足掻け。どのみち助からんがな」
「っ!!!!!」
心底楽しそうに笑いながら言ったその言葉に、私の中の何かが切れた。
「黙れ!!!!!!」
多分私の人生の中で一番大きな声。それと同時に、パリンっというガラスが割れたような音がして、父さんと母さんを包む炎が消えていた。
「ほぉ」
どうやらデズモンドの方にも何かあったらしい。彼は、額にできた傷を触り。感心したような声を上げた。
「何が…」
アレクの呆然としたような声が聞こえる。その声を無視して、私は両親の元へ駆け寄った。
「父さん!母さん!」
「セ、ラ」
「わた、したちは、きに、せず、に、げな、さい」
「いや!」
服も焦げて、肌も真っ黒で、見た目では二人が誰だか判断できない。もう助からない。頭のどこかで悟ったけれど、受け入れたくなかった。目から涙が溢れる。
「おじさん、おばさん」
「もう、おれたち、は、無理、だ。アレ、ク、セラをつ、れて、にげ、ろ」
「でも」
「は、やく」
「父さん!!」
私は真っ黒な彼らに震える手を伸ばす。いやだ。死なないで。そんな言葉が頭を埋め尽くす。涙で、視界がぼやけてよく見えない。
「セ、ラ。あい、して、る、わ」
「母さん!!」
「ア、レク」
「〜っ!セラ、いくぞ!」
体が浮く。アレクが私を抱き抱えた。
「いや!父さん!母さん!」
「クソ!」
私の呼びかけに、二人は何も言わなかった。
「いやぁ!!!!!!」
「逃さんぞ」
走り出したアレクの前に、男二人が立ち塞がる。両親を抑えていた、あの二人だ。
「どけ!」
アレクが一人に蹴りを入れる。けれど、私を抱えているから大きくは蹴れないのだろう。一歩後ろに下がられ、掠っただけだった。
「っ」
「いっ!」
私たちは二人とも地面に押さえつけられる。無理やり押し付けられたせいで、足が変なふうについた。絶対に骨は折れた。強い力で圧迫され、あまりの痛みに声が漏れた。
「なんの訓練もなしに、魔術を発動したか。さすがは、ルーデンスの血筋というべきか」
目の前にあの男がたった。こちらを見下ろす、傷がついてもなお美しいその顔が、ひどく憎くて忌まわしかった。人が二人死んだというのに、何も感じていないこの男は、今までどれほどの人の命を奪ったのか。恐怖で身がすくむ。
「なにが、したいの」
「いいっただろう。余はお前が欲しい。ルーデンスの末裔で、魔術師としての素質があるお前が」
「欲しいって、人をものみたいな…!」
「アレク!っい」
私は大声でアレクの言葉を遮った。無理やり動いたから足が悲鳴をあげる。だめだ。下手に刺激したら、アレクも父さんや母さんみたいになってしまう。それだけは、避けなければ。もう二度と、あんな光景見たくない。
「まぁ、ここまで人間が脆いのは想定外だがな…そんな拘束如きで足が使い物にならなくなるのか」
デズモンドは心底不思議そうに言った。まるで初めてまともに人間に興味を示したみたいだ。実際、そうなのかもしれない。この男だったら、人間を殺すなんて、赤子の手を捻るようなものなんだろう。それほどまでの力を持ち合わせている。
(っ)
その時ふと、デズモンドの後ろに、真っ黒になった両親が目に入った。その姿を見て、私は覚悟を決めた。心を落ち着かせるために、深く息を吸う。
「……いいわ。ついていく」
「セラっ!?」
「小娘、良い決断だ。もう少し遅かったら、このまま転移するつもりだったからな」
「その代わり!!!」
デズモンドの言葉に被せ気味に言う。これだけは譲れない。
「いますぐにアレクを逃しなさい」
「おい、セラ!何を勝手に…!」
「アレク、少し黙っていて」
私はしっかりとデズモンドの瞳を見つめる。誓うまで絶対に逸らさない。私がどうなっても、いいから、アレクだけは…
「…まぁいい。そいつを離してやれ」
「は」
アレクが解放されるのをしっかりと確認し、私はついていくために立ちあがろうとした。でも、折れた左足が痛くて、しゃがみ込んでしまう。
「アレク」
アレクが男の手から解放される。その姿に安心して笑みを浮かべると、私は別れの言葉を告げた。
「っセラ」
手を伸ばして、愛しい恋人の頬に触れる。
「笑って」
絶望に染まった、今にも崩れそうな顔じゃなくて、私の大好きな太陽みたいな笑顔が見たい。次の瞬間、私の足元が光りはじめた。さっき言っていた転移だろう。きっともう二度と会えない。だから、最後にこれだけは伝えたかった。
「ずっとずっと、大好きよ」
笑っていたいのに、この人の記憶に残るなら、一番綺麗な私でありたかったのに、全然涙が止まらない。視界がぼやけていたはずなのに、最後になぜかアレクの表情だけは、はっきりと見えた。
「セラぁぁ!!!!」
目の前の景色が変わる直前、私の名前を呼ぶアレクの絶叫が聞こえた気がした。




