人造神
━━南大陸。
魔導師の塔崩落踪……。
━━地下研究所。
三体の怪物。『黒竜』(ブラックドラゴン)『女神』(メガミ)『道化』(クラウン)を前に。
男は異形だった。蜥蜴のような外皮。焼けただれたような赤黒い皮膚、実に醜く。悪臭を放った異形の人物は、高位のモンスターから剥ぎ取ったのか、ただ毛皮を鞣した物を。無造作に袈裟懸けに着ただけの蛮族のような粗野な姿ながら、立ち姿には一定の知性が見受けられた。また普通の人間族とは違い。背に翼があった。
この男こそ中央大陸より現世に降り立った、魔人の一人━━。
名をマローダと、呼ばれていた。元は赤の民、高位の序列である七神官が一人、
━━その昔、魔導師の塔を建設した時代の責任者であった者。
魔人となりしマローダは、何らかの魔獣の骨を。呪術か何かで呪印で作られたのか。杖の台座に禍々しい闇色の魔石が付けられていたを構えると、三体の怪物に順番に、新たな命令を付与した。
「これで良い……。今一度━━━。
邪魔な人間の国を焼き払え。人造神共よ」
道化は観客を、前にした演者のように、右手を胸に一礼して見せた、
黒竜は、血に餓えた眼をして、嬉しそうにしたなめずりし、味わった血を思い出して、金眼を細めた。
女神はただ。苦悩に顔を歪め……。自信の不甲斐なさに心が痛み。苦痛に身を悶えさせた。
━━三体の怪物を。魔人は人造神と呼んだ、
それはそうであろう。何せ三体は、元人間だったのだから……。
━━━今から600年前。
魔導師の塔が建てられるよりも遥か昔━━。
地下にはただ、マローダの研究施設があったのだ。
マローダは千年前まで、真面目な研究員だった。
━━━最初は、世界の発展の為と、赤の民による理想に燃えていた、妻を愛し、部下に好かれ、周りからも評判の優れた人物だった。
━━マローダがおかしくなったのは……、
魔導師の塔を、研究施設の上に建設した頃からだ……、
実験体を集めるのに都合がよい方法を論じ。容易く人間を集めるために、魔法を教えると広め。若い男女を集めた。
その中でも優秀な人間を、マローダの人体実験に使っていた………、
━━最初は……、病を治す為や、人間の能力を増させる実験の為であった。
マローダは、アビスに落ちてからも。魔物を狩り集め素材を手にしては実験を続けて、魔物の様々な新種を作り続けいた。
━━やがて……。
何もない世界にも。力ある魔獣の骨。毛皮を使って造ったら、マジックアイテムと同じ効果のある。力ある個体が発見された。
マローダは考えた……、もしも神の骨を使い。新たな道具が作れたら……。
そう考えるだけで、身震いするほどの興奮を覚えていた。
マローダは不変の死者の神アレビスの死体が、闇の神殿に安置されていた。
神殿に忍び込んで、死者の神アレビスの肉体から、8組の骨の武器を作り出した。
━━そして……、マローダは願う、闇の女神カーレルに、自分が作った、闇の武器を捧げた。
……すると女神は穏やかに微笑んだ、変わらぬ美しい少女の姿で、マローダのしたことを赦した、
さらには……魔人の王レイアスに命じた、
7神官を呼び出して。こう信託したのだ。
『死と闇の遺物を与えよう……』
恍惚として、闇の女神カーレルは笑うのだ。マローダは純粋に喜び。喜悦混じりの顔で笑った。
『あははははははは、あははははははは、女神は許されたのだ?!、私のしたことを肯定してくださった』
狂ったように笑っていた。
『そうだ……、私は、神を作りたかったのだ、あははははははは、あははははははは』
狂った妄想を垂れ流して、マローダは下半身を固くした。
━━━ファレイナ公国。王座の間。
「女王陛下。世界連合議長ギル・エバーソン殿より。至急の連絡が入りました」
遠距離の通信を可能とする。魔法通信は、軍国ローレンの軍師である。デーア・オルトスが一手に引き受けていた。
新しく設置された機関である通信機関。父に一生消えぬ後遺症を与えた憎き男だが、今は個の感情を圧し殺して、表面上は、平素を装っていた。
「ご苦労。先方はなんと?」
足の悪いデーア・オルトスは、立ったまま。一つ頷き。
「早ければ明日の夜。聖アレイク王国から、オーラル准将、オーダイ将軍他部下二名、ラトワニア神国から緑眼の騎士ギラム、ギル・ジータ王国からはサミュ・リジル宰相。パルストア帝国から……、魔王ピアンザ陛下が、到着すると……」
ガタリ驚きのあまり立ち上がり掛けたミザイナ女王を、意外そうな顔をして、デーアは見ていた。
ミザイナは知らず知らず涙が溢れていた。
「そうか……あの二人がな」
嬉しそうに涙すら浮かべる姿に、デーアはあの噂話を思い出す。
『確か……魔王ピアンザ、オーラル准将、北のレオール宰相レイナ・フォルト、ミザイナ女王陛下は、アレイ学園の同じ部隊の所属であったな……、彼等は友であり、仲間であったとか……』
「魔王ピアンザ……、一度話したい人物だ」
それにしても、魔王ピアンザは、あの狂気の双子を配下にしていた、その理由が知りたいと思った……、
「あの双子は、何処に行ったのやら……」
最後にバローナ将軍と話したのは軍国ローレンの王都が、はぐれワームの群に襲われた後。
行方や生死も分かっていない。あれから参謀アルマン・ソゲルは、毒気を抜かれてしまい、商会を失ってからか、憔悴していた。
あまりに多くの人々が死んだのを見たこと。心血を注いだ商会を失ったからだとデーアは考えた……。
……三体の怪物━━。
デーアは、魔導師の塔の書庫で、借りたままの古書を手にする。
「あれが……本当に存在してたとは……」
古書の題名は、『人造神』とある。
デーアはこの本に書いてあった理論を用いて、新しい儀式呪文をゴーレムに施すことで、製作しやすさを実現していた。もしもバローナ将軍と出会わなければ……、
暗い闇が心臓に触れる。肝が冷えた。
「デーア……、調べは、進んでいるのか?」
フラリ王座の間を訪れたバローナ将軍に、皆が驚くなか、ミザイナ女王だけは目を細めていた。何故街を離れて来たのだ?、訝し気な顔をしていた重鎮もいたほどだ。
今は最前線である国境の街ローンに詰めていたはずだからだ。わざわざファレイナ公国まで来る理由が分からない……、
しかしミザイナは違う、内々に。エドワルド公と会談をしてることを知っていた。
何やら策があるとか、デーアがいるのはその打ち合わせと聞いている。
「閣下」
一つ頭を下げ。笑みを深めたデーアに。小さく頷いて見せた。
「世界連合の面々に、意見を求めますが、あまり時間は無いかと考えます」
「その意見には賛成だ、その為に俺はエドワルド公と共同作戦を張るのだからな、だからミザイナ女王陛下に。その許しを貰いに来たんだ」
やはりこの方は……、信頼の眼差しを主バローナに向ける。
「バローナよ……、エドワルド叔父上からも聞いているが、何故叔父上なのだ?」
困惑の色を表情から読み取り、敢えて不敵に笑いながら、口を開いたバローナから、ミザイナ女王は驚くべき内容を伴って情報を受けとる。
「大国ダナイが……、滅んだのは知っているか?」
「なっ、なんだと?!、バローナそれは本当か」
━━ざわり、動揺が広がった。
「ああ、三日前だ。ダナイの生き残りが街に着いた」
それは初耳だったのか、目を見張る、続けるよう頷いた。
「土竜騎士団が、三体の怪物の報告を行った後なのだが、オーラルの命に逆らって、数人がパーティーを組んで、ダナイ各地を巡ってたのは知ってるな?」
それは土竜騎士団長ボルド・ホウリーより聞いていた。
「昨夜。ボルドからエドワルド公に連絡があってな、セドの対岸の街セドールに。国境の街以外の生き残りを連れて、逃げ延びたそうだぜ」
朗報だが……、それがエドワルド叔父上と言う意味が繋がらない。
訝しむミザイナに、またもや一つ頷く。
「デーアの調べでな、噂の三体の怪物を同時には無理でも。竜には弱点を見付けた。それにはうちの秘密兵器である。魔導兵が必要らしい、それとなエドワルド公は竜殺しと知られてる。公の知識と。槍の技術が、必要になっていてね」
意味ありげな眼差しを受けて、逆にデーアは目を見開き、驚いた顔をしていた。
「まさか!バローナ将軍。魔導兵とのリンク使うことを考えてるのでは━━」
正解だと大きく頷く。慌てたのはデーアである。
「あれはまだ試作段階ですぞ!、それに使えるのは、数人だけです」
話が見えないミザイナ女王は、問うような気難しい顔を二人に向けた。
「デーア、説明しろ」
「しかしバローナ様……、仕方ありません、バローナ様が、そう願うのなら……」
軍国ローレンが、ファレイナ公国を一度とは言え、退ける事が出来たのは、魔導兵の技術があってのことだと、ミザイナは考えていた。
実際ゴーレムの力は、ファレイナ公国にとっても脅威であった。
そもそも普通のゴーレムは、強大な力と、鈍重、硬い、重いが有名であろう。
しかし軍国ローレンの使う。ゴーレムはそんなゴーレムの常識を覆す存在であった。
外見こそ重々しいが、外見とは違い、驚異的なスピードと攻撃力を誇っていた。ファレイナ公国はゴーレムと侮っての敗戦である。
さらに脅威なのが僅と言え。学習能力を持っていたことだ。厄介この上無いゴーレムだった……、
ミザイナの父アルタイト、夫のジンベイそれぞれが苦戦の末。一体づつ倒すに至った。
━━しかし……魔導兵は、次々に戦場に現れた。
「ミザイナ女王陛下、実は……あれ、まだ未完成なのです……」
驚愕の内容から語られた。本来の魔導兵とは、手足が不自由になった魔法使いの為。介護目的で造っられた技術と言われていた。
━━魔導兵と呼ばれる。主な基本三種、アイアンゴーレム、ストーンゴーレム、ウッドゴーレムなどがある。
これ等は基本的に札やオーブを媒体にして、魂を模した。擬似的生命体の総称である。
そもそも魔導兵の技術が生まれたのが、神代の時代まで遡るから。数百年前と言われていた。
その間にも技術は発展していて、魔導師、魔法使いが軍事目的に転用していた経緯がある。
理由としては、疲れ知らずな兵として、安価な壁として、戦場にての利用価値を見出だしたからだ。
……一見無敵のような。魔導兵だが、簡単な命令以外は。実行出来ない低能なことが知られて行き。徐々に衰退していった。
その一番の理由が、動きが遅く。歴戦の戦士ならば、時間を掛ければ一人でも倒せてしまうこと。
魔力コストが高く。コアが壊れると代えが効かないこと。ならばまだ人間の兵士を育てた方が、有用せいがあったから。
今では宮廷魔導師が、モンスター討伐に。用いられる程度であった。
それ故に歴戦の勇者が住まう。ファレイナ公国の剣士達は、侮っていた。魔導兵等と……、
「魔導兵は通常。簡単な命令しかこなせまんが、私は、優秀な戦士の一部。髪の毛、血を媒体に使うことで、通常では考えられない。学習能力を持った、特別なゴーレムの生成に成功しました」
━━構想は、以前からあったが、行き詰まってたデーアを救ったのは……、
なんと狂気の双子だった……、
突如現れた双子は、デーアを散々からかった後で唆す。
「魔王は、前に言ってたよ」
「魔王は前に言ってたんだ」
二人同時に、喋り出して。デーアを惑わせる。
「「優秀な兵の血を媒体に使うことで、面白い魔導兵が、出来る」よ」
クスクス笑いながら、現れた時と同じように、双子は消えていた。デーアは狐に摘ままれたような気持ちを抱く、
例えば酒場で酒を一口飲んだ時は、冷たいエールだったのに、二口目飲んだら。酢にすり替えられたような気分だったと言えば分かりやすいか。
あの双子を信じた訳ではないが……、確かに魔法生物の核に力を与えれる。可能性を見出だした。
一つは双子の語った方法。
「もう一つが……、遠隔からの操作……」
魔法の理論を深く知ってるミザイナだけに、ハッと息を飲んだ。
「まさか……術者が直接。ゴーレムとリンクして操る?……」
(そんなことが可能なのか……、)
口にしようとして、ミザイナは思いとどまる。
先程デーアは何と言ってたか……、
「俺は扱えるぜ。試しに。エドワルド公、ボルドの奴も試したら扱えたぜ」
流石に。呆れた顔のデーアに、バローナは不敵な笑みをして、ミザイナむけて片目を瞑る。
「デーア、俺は考えてたんだ。遠隔式魔導兵はよ。ある程度の魔法知識と、それなりの武力があること、ある一定の魔力が必要だってな、俺の他に上手く、動かせることが出来た奴はな」
「それは確かに……」
デーアも考えた条件だったからだ。
「それから考えたんだ、今訓練して動かせるようになった兵はよ、なぁデーア?」
「それは……」
気が付いてはいたか……、
しかし……、
外交的には、不安を覚えたのだ。カードを切りすぎなのではと、バローナや国のことを考えるデーアにとっては。苦笑を滲ませた。
「政治を考えるのはよ~デーア、平和な時で構わんだろ?。それにその為の連合なんだろ。出し惜しみなんてしてしてる場合かよ、良いとこ見せなきゃ、逆に侮られるぜ?」
ハッと虚を突かれたのは、デーアだけではない。ミザイナまで、意表を突かれた形であった。
「まあ聞けや、お前達も。オーラルが動く以上。そのくらいはやっとかないと、あいつ等と対等に。渡り合えなくなるぜ?」
「はっ!、閣下、調整はお任せを」
信頼を込めた眼差しで、デーアは深く一礼していた。
「当たり前だ。お前がいなくちゃ、何も始まらないぜ?。てな訳で、ミザイナよ。承認頼むわ」
空気がガラリと変った……、
先ほどまで、不安に押し潰されそうな皆の顔に。光が差したように、明るく笑みすらあったのだ。
まるでバローナの豪胆な雰囲気に、感化されたかのごとく。
(先ほどまでの殺伐とした空気が、嘘のようではないか……)
ミザイナは胸中は複雑であった。小さく嘆息していた。
「良かろうバローナ、この件については貴様に任せる」
女王の顔から一転、学生時代いつもバローナが見てた。あの不敵な笑みを浮かべていた。




