閑話 バカですが何か?
プロローグ
━━数年前……、
━━聖アレイク王国
俺の名前はバローナ・エトワール。王家に繋がる名門貴族の次男で、ガキの頃までは、確かに名門貴族だと自慢気にしていた男だ。
俺には俺と同じ。いや俺以上に、バカでどうしょうもない兄貴がいた。兄貴は女好きで、短慮で短気。直ぐに手が出る性格で、下半身はどうしょもなく軽い男だった。
よく相手のいる女に手を出しては、相手の男共々半殺しにするどうしょうもない男だったな………。
最後はいつも親父に泣き付いて、後始末してもらっていたもんだ。そんな兄貴だったが……、
━━ある日。殺されてしまった。どうしょうもない兄貴だったが……、死んで欲しいとまでは思って無かったぜ。
そして父親だが、今考えると、最低のクズで金の亡者、家では美食家気取りのデブだった。エトワール家唯一の快挙は叔母のレイダであろうか、現国王の妻。要するに王妃様って訳だな。そんなどうしょうもなかった俺だが、叔母の手助けで秘密りに、国を抜け出そうとしていた。
━━アレイク王国の闇……。
黒衣に。気をつけて逃げなければならないからだ。どうしてこうなったんだか……、未だに良く分からないぜ?、
どうにかこうにか、商人に頼み込み。荷馬車に乗せてもらいターミナルの街まで来ることが出来た、だけど俺は夜営の経験も無かったから身一つで逃げるのは大変だったぜ、今までに味わったことのない苦労の連続だった。いやマジでさ~。
何せあの平民には好かれていたケレルってのは、噂とは裏腹に、メチャメチャ腹と裏は黒かったんだよ。
いやいやマジでさ。これにはびっくりしたんだぜ。
叔母の話では、王家とターミナルにある土竜ギルドの間には、密かに繋がりがあるそうで。今度の逃走すると決まった時に、土竜ギルド長に手紙を書いてもらった訳さ、東大陸だと黒衣の情報網に引っ掛かると。俺は直ぐに消されるかねないからな。流石にヤバイ、叔母上と相談の上で、自由と冒険の生活に憧れていた俺は、冒険者になって、地下迷宮の旅を許してもらえることになった訳だな。
実際の所。叔母上に言われても正直な所、はあ~とかしか言えなかった。
現場を知る。土竜ギルド長に聞くまでは、地下迷宮のことなんて何も知らなかったからな~、想像なんて出来るかよ。でさ聞けば地上では見掛けない数多の種族が住んでいて。見たこともないモンスターと戦えると聞いて燃えたぜ。
「冒険者とは、時にモンスターを倒して村や町を開拓する者だ若いの」
地上の冒険者と違い命懸けの仕事が山ほどあるとか。
━━ターミナルと呼ばれてる街は、たった二ヶ所、東と南大陸を繋ぐパイプラインでもあるが、俺が知ってるのは土竜馬車を運行する交易道である。
俺もさっきまでは、土竜ギルドとは南大陸との交易場を担うだけのギルドだと思っていた。
で、交易道とは別に。地下迷宮には地上とは違い無秩序で独自のルールが存在している。国なんて存在しない。自由都市が無数に点在していて。土竜馬車は主要な町や村によって交易する内回りと南大陸との交易だけを担う外回り馬車を運行しているようだ。俺は僅かな食料を手に、たった一人で、迷宮に降りたとうとしていた。まあ~理由もある。内回りの土竜馬車に乗るためには必要なことだからだ。聞けばターミナルからは。内回りの土竜馬車が出てないと初めて聞いたからだな。
ギルド長からは、土竜馬車を使い。安全に南大陸へ向かえばよいと言われたが。どうせ一度は殺される可能性があった身だしな。
だったら一生に一度の人生だ。冒険したって構わないだろ、だから地下迷宮に降りたって訳さ、
んで個人の俺が迷宮に降りるには、大洞窟から地下迷宮に降りれる訳がない。作業階段が何ヵ所かあって、幾つか地上に出れる場所もあるらしいが、大概は海上にある島に繋がっているそうだ。
「ふむ気をつけて行くがよい。運が良ければ半年から一年で、南大陸に着くだろうぞ」
「そうか、世話になったなじいさん」
「気をつけて行け若いの」
最初から最後まで、俺を個人と見てくれた大人は初めてだった。ギルド長だけじゃなくて土竜騎士と呼ばれてるもの達は。肩書きを見ないから滅茶苦茶楽しかったな……、
━━翌日、
ギルド長の案内で、地下に繋がる階段が隠されてる壁に掛けられてた板を外すと。壁の中に暗闇が広がっていた。
俺は魔力をチャージすることで何年も使える魔法のランタンに魔力を込めて、仄かな明かりを灯して、足元に注意しながら、壁を手探りに歩いてく、
まるで永遠にも等しい体感時間も。闇の中にたった一人で。無言で降りてく感覚は、中々精神的に来るものがあった。
最初気を張ってるから。空元気で行けた。でもさ一人ってのはちょっとしたことから。不安感を覚え始める。ほんの小さなことを積み上げてくと、やがて恐怖感を味わう、
(どれくらい時間がたったのかな……)
気をはってると。精神的に疲れてくるので何回かの休憩を静寂の闇の中にいると。やがて気にしなくなって行った。
無心でただ階段を降りて行くことが出来るようになる。そうなると心に余裕が生まれる。視野も広がるからちょっとしたことにも対応出来るようになった。
━━やがて、最下層に到着していた。
それから程なく歩いてくと。木造の扉を見つけた。この先から地下迷宮が始まるのだ。無論この扉の先から、いつ命を落とすか……。
こうした扉は避難場所として地下迷宮には幾つもあるそうで、土竜馬車が故障したり乗客がいた場合。動かせない時のために点在していた。
息も荒くなりながら。静かに緊張を孕み、俺は背のバトルアクスを確認していた、意を決意して小屋の外に出た。
━━そこには巨大な……、
俺の視界をあまりに巨大な洞窟が広がっていた。
俺はしばらくの間。ただどこまでも高い。空も見えぬ洞窟を見上げていた。天井付近にはほんのり光る燐光を放つ巨大な鍾乳石が滴り降りていた。視界を暗闇が阻害しないが、ほの暗いから先が見えないのは否めない。小屋の前は一本道で、ある程度真っ直ぐ整備されていた。ここから道なりに歩けば、数日で、一番近い集落にたどり着けると聞いている。多少の金はあるから、大きな街まで歩き、内回り巡回の土竜馬車に乗って、地下迷宮を巡るつもりだ。
俺は、馬鹿でガキだったから。貴族の所詮は次男だと言うのに勘違いしていた。今でこそ大きな間違いを起こしたと分かるが。学生だったあの時は、あのオーラルが『オールラウンダー』の称号を得ることになるなんて、思いもしてなかったがな。
「ライト」
魔法の光を作り出して前に飛ばした。
━━親父が、大罪を起こした。
兄貴が殺されたことを利用して、オーラルを陥れたのだ。さらには王家に内緒で、黒衣を使って、アレイ学園の生徒。オーラルを暗殺させようとしたことが発覚した、重く見た国王の命によって親父は死罪となった。
━━俺は、天涯孤独の身となった。
その時……、始めて思い知る。
権力を失った人間は、侮られ、嫌われ、蔑まれた、今まで当たり前に支えてた小人用、摺り寄って来てた貴族連中。バローナの手下は、
━━蜘蛛の子を散らすように。居なくなって行った……。
残ったのは僅かな小人用だけ……。あの時は王妃である。叔母の名が、重圧に思えたもんだ。
(全ては、オーラルのせいだ!!)
俺はそう思った。
だから俺は、オーラルのことを調べに調べた。復讐するためにな、
親父のせいで孤立した俺は、アイツに復讐するためミザイナ達に近付く事にした。いくらなんでもただの平民なんかに苦汁を舐めさせられて、
「このままでは終われない!」
暗い闇を宿して……、ミザイナに話し掛けたら、
「愚かな……」
いきなり殴られた……、
「あははは、馬鹿な奴がいるぜ」
それを見てた生徒達に笑われ。侮蔑を込められた眼差しを受けた。あまりの羞恥に、俺は怒り狂った。
━━初めてだった……、俺は貴族で王家に連なるエトワール家の人間だぞっと。わめき散らしたが、最早誰にも相手にされなかったのだ。
━━俺は、ようやく気付いた。俺は所詮は親父と同じただのクズだったのかと。貴族とは名ばかりの平民でしかないのだと。それも最低のことをしてしまったと知ったのは、この後叔母からの手紙を受け取った時だった。
自分の不甲斐なさ。無知なガキのせいでミザイナの友人だったオーラルは、アレイ学園を退学になってたことを知った。
「ちっ、叔母上も俺の生活がよくなるようにもっと金をくれれば良いのに。オーラルだ?、退学になったからなんだよ。僕には関係ないね?!」
だからと言ってこの時の俺は、そんな昔の話を聞いても気にせず。まだオーラルを恨み。ミザイナに復讐すると誓っていた。
━━そんな俺が、真っ当になるきっかけが訪れたのは、それから半年後のことだ━━。
何だかんだ言って腐ってたが、俺は負けず嫌いだった。この頃人生で初めて、真面目に剣の修行をしていた。
元々素質があったのか、メキメキ大剣の実力が上がっていった。見詰める先生の目や、周りの皆からの目が少しずつ変わり始めた頃だった。
俺はガキだったからか、無駄に自信だけはあった……、
今まで勝てなかった同級生に初めて勝てた。相手は『特待生』だったのに実にあっさり勝っていた。
「ミザイナ!俺と闘え」
だから俺は鼻息も荒く。ミザイナに決闘を申し込んだ、自分は強いと。強くなったのだ。今までの鬱憤から、先走っていた。
一瞬鼻白むミザイナだが、
「良かろう、練舞場に来るがよい」
あっさり了承され、肩透かしを食らった気分だった、審判はミザイナ小隊のレイナ・フォルトが勤めた。
「始め」
合図と同時に。俺は走り、勢いそのままの凄まじい斬撃を放つ、紙一重で、受け止められたが身を滑らせたミザイナを見て、行ける。俺は強くなったのだと、鼻息荒く。次々豪剣を放つ。得意になって、
どうだ!、睨み付けると、ミザイナなの顔に浮かんだのは、深い失望だった、虚を突かれた俺を見て、
「お前は何がしたい?、その程度の腕で、自惚れるにも程がある!」
凄まじい殺気、身の縮む思いをして身構えた俺の大剣は、根元から、斬られていた。カラン……、あまりの毎に腰を抜かしていた。
「何時でも相手になってやる。バローナよ慢心するな」
鋭い刃のような言葉は、鋭く俺のなけなしね自信を撃ち砕いた。自分の甘さに、激しく後悔しながら、
(これも全てオーラルのせいだ!。)
内心で叫ぶ。
走り去るバローナを見送り、ほんのり目を柔らかくしたミザイナは、
「少し変わったな……」
「ん~かもね。じゃなかったら、私がぶん殴ってるわよ~」
ほんわかしたお嬢様。見た目と違い苛烈な性格のレイナは、本気で今すぐにも殴り飛ばしたくて仕方ないと、目が笑ってないなと思わず苦笑しながら、ここにいない大切な仲間。オーラルの事を二人は考える。
「大丈夫……、私達は先生を信じて、部隊ポイントを稼ぐよ」
「は~そうだね。オー君元気かな?」
レイナは寂しそうに呟く。
「大丈夫だ………」
自信はない、でもオーラルは、今まで、奇跡を起こして来たのだ、
何度も「大丈夫…、」自分に言い聞かせた。
バローナは挫折した、今までの自分を、全て壊された。
━━走って、走って、一晩中街をさ迷った。
「大聖堂?……」
足は痛み、身体も疲れて、重い足取り、辺りの空気が変わったと感じたバローナは、オーラルを見付けていた、一瞬幻かと思った、こんな早朝から、馬車の荷下ろしをする姿、
「何をしてるんだ?…」
戸惑い、訝しむ……、だってそうだろ?、あいつは学園を追われても新しい魔法理念を作ったことで、破格の金を手にしていた筈だ………、
呆気にとられるバローナの前で、生き生き人足に混じり、荷を担ぐ姿を、信じられない物を見たように首を振る。
「だって彼奴は……」
ハッと目が醒めた、そう言えば聞いた筈だ、彼奴は新しい魔法の利権を放棄して、学園に譲渡したと。僅かな報償金だけをもらったと……、思わずよろけた、
「馬鹿か彼奴は………、たかが後輩の1人を守る為に。学園を追われて。しなくていい苦労してる。馬鹿か俺は!、何を見てたんだ」
膝を着いて泣いた、生まれて初めて、自分のしたことに後悔した。
それからバローナは変わった、学園で今まで、入りもしなかった図書室に通い。歴史。政治。経済、魔法理論、武芸を磨いた。まるでスポンジが水を吸うように、目を見張る速さで、バローナは変わっていった。
ミザイナ小隊が解散となる年。バローナは、エトワール家の名代として。世界で唯一の移動国家、巨大な船に乗り込んだのはそれから二年後のこと……、
エピローグ
━━あの海難事件から数ヶ月後、
再び練舞場に足を踏み入れ、ミザイナと対人した、
「お前の相手も今日で最後だ、お前はどうする?」
二年前の面影はなく、精悍な顔立ち。鍛え上げられた肉体を誇るバローナを、油断なく見ていた。
「俺は、従兄に暗殺されないように、旅に出るつもりだ」
「そうか……」
バローナは変わった、誰からも一目置かれる若者になっていた、それ故に、危険視されたのは、皮肉なものだ……、
「ままならないものだな……、オーラルとは会わないのか?」
一瞬……、心が奏でる苦痛に。顔を歪めながらも、魅力的な笑みを浮かべていた。
「もっと強くなってから……、彼奴に土下座するかな」
魅力的な笑みを浮かべ不敵に呟く。思わずミザイナは小さく笑み。
「そうか……。そいつは見物だ」
「行くぞミザイナ!、100度目の決闘だ」
獰猛に笑い、二年前では、信じられない、力量のバローナを、ミザイナは笑みを持って迎え撃つ。
学園を卒業したその足で、叔母の用意した商隊に紛れ込み、今は地下迷宮である。しかも……、
「こいつはまた……」
洞窟一杯に、巨体を蠢かせた黒い岩肌を持ったミミズ。はぐれワームを前に、早くも危機を迎えていた。
素早く魔法を。風の刃を放った。が、分厚い皮膚に弾かれた。
「固いな……、これはどうだ?、因子を解き放つ」
不敵に笑い、オーラルの作ったあの魔法形体は、皮肉なことにバローナと相性が良かった。卒業間際では、学園有数の使い手だった、因子は解き放たれ、魔法の一部が、書き換えられて、風に触れたワームの四方から、無数の岩の槍が、突き立った。
「少しずつ楽しくなってきたな」
豪快に、背からバドルアクスを外して、四肢を魔法で強化。凄まじい速度ではぐれワームに迫り。バトルアクス一閃。
一撃で、はぐれワームを倒していた。
バローナの冒険の旅は、こうして始まった。




