友の思い。人の思い、そして…………
プロローグ
━━━聖アレイク王国……、王座の間。
先の四ヶ国会談より王が戻る。
━━━国王レゾンが、旅の疲れすら見せず。王座に着いた。
傍らには、旅より戻った王妃レイダ様が、自らのお手から慎ましく皆の為。お茶の用意をしていた……、
王座の間には現在。ケレル皇子含め。アレイク王国の重鎮と会談中である。
本当であれば、天気が良い今日など、庭園での会談が望ましいが……、
━━本日の議題が、それを止めていた。
王の命に答えるためケレル皇子、カレイラ准将が内々に進めていた案件。特別処置による『オールラウンダー』候補の現在の報告を受けていた━━、
アレイク王国の歴史上━━、
『オールラウンダー』となった者は僅か5名と少なく。
現在。候補者も生徒に。何人かいる程度である。候補者となれる者は、学生時代の内に。自分たちの力で隠された試練を見つけ。それを乗り越えた者だけが、国王含めた重鎮に認められて。『オールラウンダー』の称号を与えられる。
「現在。アルファードの森に向かっております」
「ほ~うアルファードの森か……、試練とはまさか?」
王も耳にしていたのだろう……、
「あのヴァレ・カルバンに任せてあります」
「まさかオーダイのか?」
驚きが隠せない国王に。ケレル皇子が頷いた。
アレイク王国で、ただ一人。レゾン国王自ら、騎士にと登用を願った人物。彼は『聖弓』の称号で呼ばれ。名誉職ながら、カレイラ・パレスと同じ。准将の地位にいる。
だが……陛下の護衛以外に、全く興味をもたない。表舞台には現れる事がを嫌う。変わり者である。
━━オーダイ准将とは、平民出の腕のよい猟師でしかなかった……。
だが、ただ腕前がよいだけでは、国王直々に。登用されはしない。正確無比な精緻な射撃と。人間離れした遠射技術は、もはや神掛かってるほどで、様々な逸話を残している。
━━以前になるが……、酒の席で、レゾン陛下が、オーダイをこう称する。1人で、一軍に匹敵すると━━。
━━かのオーダイの逸話の一つに、
気難しいと知られていた前魔王ヒザンが、
『見事なり。オーダイ!、我が子に、弓を学ばせん』
最大の賛辞を述べさせたと言う……、
「我がカレイラ師団に。オーダイ殿の子息が入りましたので、任せようと思います」
国王は、カレイラの悪戯子のような瞳を見て、思わず苦笑していた。確かに彼の子息なら十二分に信頼出来た。
それに……、国王として民が苦しむことに。胸を痛めていた。急を要するが、軍を動かすには難しく。少数の兵では倒すも困難。それ故に判断が難しい。
……アルファードの森に、翼竜種ワイバーンが、住み着いたのはつい最近だと聞いている。
レゾン王の胸中では、
━━喩え。娘を救った人物とはいえ……、いささか荷が重いと思うが…、
もしも……、
ワイバーンもの魔獣を倒したとあらば、『オールラウンダー』の称号を与えるに相応しく。十分に試練の一つ。空をクリアしたと認めれる。
『オールラウンダー』の称号には、5つの試練が存在する。地、海、空、知、魔である。
『オールラウンダー』とは、あらゆる武器。あらゆる道具。それを使う知識。精神力。そして魔法。
この5つの才能を満たした者だけが、
『オールラウンダー』の称号を与えられる。
それは━━アレイク王国の建国に従事した。三人の重鎮の物語に由来した秘事。
「よかろう━━━」
王の了承を受け、満足そうにカレイラは微笑して、深く一礼したが、下を向いた顔に。強かな光を宿していた……。
何せ……、
今頃オーラル達は、アルファードの森に入ってる頃だからだ……。
━━━5日前。
国内の民に、大々的にオーラルの偉業が発表された。
一介の訓練生が、ミレーヌ様をテロリストの魔の手から守った功績は、凄まじい勢いでオーラルの立場を動かしていた。
━━連日。貴族の夜会に呼ばれたり。有力者からの会食に呼ばれたり。数えたらきりがない。そんなある日のこと。オーラルの元に。ケレル皇子様から使いがあって、別邸に赴き、ケレル皇子との謁見中である。
「よく来たねオーラル君」
挨拶もそこそこに。訓練生で、しかも平民でしかないオーラルに。カレイラ准将は、王女を狙ったテロ事件のその後を語る。多くの負傷者を出した戦士養成学校は、一時休校となったこと。学舎が壊れたため復興に時間が掛かることなど。様々なこと。
「これでもわりと忙しい身の上でね。テロリストの取り調べがまだ終わらないわ。そのうえ校舎の復旧。予算の計上と資金の確保が、まだ出来ていない。そこで君たちには不十をかけるね。済まないと思ってるよ」
国王夫妻が戻らねば、未だにめどがたってい事案は多い。
「カレイラ准将閣下、それは仕方ないことです……」
しみじみオーラルという青年は呟く。見た目眠そうな眼差しからは、怒りや焦り。諦めとかいった。分かりやすい感情など。表情からまるで読めなかった。こんなことは初めての経験である。
目を細めながらケレル殿下と視線をかわしていた。
━━それでも留守を預かるケレル皇子にとって救いは、目の前の訓練生による。迅速なる行動によって。
最悪の事態を回避出来たことは、行幸であった。
━━カレイラは殿下の命令を受け、訓練生とは言え。養成学校生徒のあまりにも見事な行動を調べていた。
そして……二人は、感心していた。
まだ訓練生でしかない生徒を纏め。見事に指揮したその手腕。オーラルの事を事前に調べさせて。二人は再び驚くばかりであった。これだけの逸材が野に埋もれてたのかと、愕然としたのだ。
そこで……人となりを確かめるため。カレイラとケレル皇子は、直接会って話す面接を望んだ。
「忙しいところ、済まないね」
ケレル殿下が直接労をねぎらうと、困ったように笑う顔に。カレイラは、見覚えがあることを思い出す。
「……確か、アレイ学園……。そうだ……、入学式の時の……、ミザイナ大使と、決勝を戦っていたね?」
カレイラの記憶力に、やや驚くが、
「はい。そうです」
全く緊張した様子がないオーラルは、気負いなくあっさり認めた。その様子を観察しながら困惑していた。豪胆な人物か?、それとも性格破綻者か……、
『正直分かりにくいが……、』
豪胆で、人に好かれる人物だと判断した。そう判断したのには、幾つか理由があった。
材料の一つに、豪胆で知られてるミザイナ大使、
我が国の宮廷魔導師筆頭ケイタ。妻で財務官のカレン・ダレス=シルビア、
エレーナ大司教からオーラル人となりを聞いていたからだ。そのなかでも彼に対する評価が、一番高かったのが、自分を律していつも公平を喫し。自分や周りにすら厳しいあのミザイナ大使が、絶賛してたのには、幾分驚かされたが……、
「この国はオーラル。貴殿に多大な迷惑と、それ以上の借りがある。我が父は、そなたの行いに報いるため。最高の称号に価するか、オーラルそなたに試練を与えたい」
「はい、承ります!」
一切迷いなく。あっさりと申し出が受けられてしまい。二人は思わず見合う。何も疑問は持たないのだろうか?、
━━少し心配に思った……、オーラルの真意を読むべく。表情を見ていたが、あくまで自然体。
「なるほど……」
ミザイナ大使においとまを告げた時に。言ってた言葉を思い出したのだ。
『カレイラ卿……、オーラルは一見。簡単に何でも引き受ける一面があります。貴方の狙いが何か解りませんが、十分に期待に応えますよ』
目をまるくしていたケレル殿下は、愉しげな笑みを浮かべ。何時のまにかオーラルに好意を抱かせている。
『彼奴は、必ず英雄と呼ばれる男になるでしょう……』
その事実だけでも興味深く。ミザイナ大使の言葉。カレイラも信じてみたくなっていた。だからではないが、思わず笑っていた。
「早速だが、ヴァレ・カルバン」
「はっ!」隣室から、すらりと背の高い青年が入ってくる。身に付けた衣服は、かなり良質な物で、
上級騎士=少尉以上、小隊長の身分を意味する。真新しい階級校章が、胸元に輝いてた。歳はオーラルより少し若い印象だ。
青年は茶目っ気のある瞳を、興味深く認めていた。
「オーラルよ。そなたは今より5つの試練を与えられる。見事これらの試練を越えて見せよ!。まずは空の試練である。詳しい所在は、カルバンに聞くがよい。彼は『聖弓』オーダイ殿の子息、自身も弓の天才でもある。貴殿の新たなる力を引き出すことであろう━━」
厳かに命じるケレル殿下。期待に答えるべく、オーラルは静かに頷いていた。
━━カルバン、オーラルの両名は、その足で、用意されていた馬を駆り、
西の街道を南下する━━、
ターミナルの街から、東の山道を抜け、4日掛けて、東の小さな街。アルファードに向かっていた。
アルファードの街は、古くは鉱山の街として、知られていた、
が━━銀山が枯渇してより。アルファードの森と呼ばれる。広大な森に。クワイと呼ばれる。黒く小さな果物が実る木々が群生していた、
そこでその葉を好んで食べる。蠶と言われる虫は、繭を作り成虫になるのだが、その過程で繭から、糸を作る事が出来ると分かり。産業として発展。アルファードの街は、蠶から取れる糸を使って作る。アルファード織が名産で、高価な値で売り買いされていた。また交易路にある中継の街として、知られていた。しかしそれは最近のことで━━、
森の近くに。蠶農家が増えていて。小さな集落が点在していた。
そんな専業農家から、蠶の繭を買う目的か、街で作られる織物を買い求める商人が、近隣の村を訪れる。さらに近隣の村。町からも近く。アルファードは、交易の中継所として、小さな街ながら、人の往来は多い。
筈なのだが……、
━━夕方頃。街に着いた二人は、あまりにも閑散とした通りに。驚きを隠せず。馬と泊まれる宿すら、交易の商人が、最近訪れていないと、食堂も閑散としていた……、
「あんた達………王国の兵隊さんかい?」
宿の女将が、眼を輝かせな
がら問うから、仕方なくヴァレが答えた。
「そうですが……、何か?」
上級騎士と一目で判る服装のカルバンに、ひとしきり笑みを振り撒きながら、
「もしかして……、アルファードの森に行くのかい?」
頻りに聞いて来るので、仕方なく。
「そうですが……、何か問題でも?」
訝しげに眉をひそめていると、
「とんでもない!、わざわざ来てくださり、感謝いたします」
大真面目な顔で女将に言われてしまい、二人は少々面食らった。
「もしや女将さん。例の飛竜ですね?」
確認するようにオーラルが聞くと。神妙に頷いた、詳しい話を調べるつもりだった二人は、頷きあって、女将から。話を聞くことにした。
……飛竜が、アルファードの森に住み着いたのは、つい半月ほど前……、
クワイの実の収穫時期で、蠶の餌になる。新芽の葉を取りに出た時だった……。
アルファードの周囲で、集落を作り蠶の育成作業と糸の生産を請け負う。集落の若い衆達が、大怪我をして。街にある女神アレの教会に担ぎ込まれた。さらに荷運び用の馬車に繋いでた馬が、何頭も被害にあったと言う……。
近隣の村には沢山のキャラバンが通るのだが……、昨日ついに襲われてしまい、死傷者が出たと聞き、二人の表情が変わった。




