真実はいつも………
━━荒野を埋め尽くす死者の兵達。
対するは、聖職者によって。強力な魔力増幅が掛けられた魔導兵が、国境に配置されていた。
さらに広範囲に浄化の光が広がるように、中継機と小型増幅ゴーレムを接地したことで。かなりの範囲を浄化してくれると。浄化作戦を打ち立てたカール・シタインは考えた。
「予想範囲内に。不死者が入りました」
見回りに出ていた竜騎士が、死者が国境を押しつつむように。徘徊してくるのを。知らせてきた。
「ご苦労~、ではみなさんヨロシクね~」
ルメージ大僧正以下、聖職者が、垣根を越えて手を取り合うのを見ながら作戦開始を促した。
「承知した。さあ皆よ?!。神々に不死者の安寧を。呪いの連鎖を解き放とう」
「「「「「不死者に安寧を」」」」」
「魂の救済を」
「「「「「魂の救済を」」」」」
こうして、大規模な浄化共鳴を行うことにした。
━━━浄化の光。
白銀の城を中心に。清浄なる清らかな光が、神々の垣根を越えた奇跡を手を携え願った。聖職者達によって行われたのだ。
それはあたかも、ほんの小さな波紋だった。
なれど聖浄なる波動は、大海に落ちた一滴の水滴が、大海に無数の波紋を広げるように。
浄化の光が、大陸全土を覆っていった……、
中心には、浄化の力を持つ城である白銀の城、これはある意味神々の神意志だったのかもしれないが、少なくともこの場に集まっていた人々は、ただ美しい光景に涙を流した。
━━━浄化の光の中に、神々が降臨した。それは人々の目の錯覚だったのかもしれないが、多くの人々は信じた。
そんな奇跡が起きた。聖域で起こされた奇跡は、
強い願いとなって、中央大陸全土を覆った……、
爆発的に広がった浄化の光は。
『オオオ、オオオ。オッ、………あっ、アリガ……、タ、ヤ………』
━━突然動きが止まった死者の兵は、次々と砂になって朽ちてゆく。
変わり果てた。死者達は、怨の唸り声を止めて。静寂が押しつつむ。
「耳が痛いほど急に静かになった……」
聖職者の護衛に出ていた冒険者達は、恐怖に居たたまれない気持ちとと戦っていた。
人々の耳には、苦悶と同時に呪いの言葉が聞こえていたのだ。
━━更なる奇跡が、秘かに起きていたことをオーラル達は知らない。もしも聖職者がその奇跡を見ていたのならば、間違いなく呟いていた。
━━━彼等は、許しを得たと…………。
彼等とは魔人と呼ばれ、元は古代の民、赤の民と呼ばれた者達であった。
━━魔人の呪いとは。神々が冥界に落ちた時に。赤の民が変異してまで生きることを命じたと。赤の民は勝手にそう考えた。変わり果てた己が姿に対する思いであった。
だが真実は違う。古代民とは魔力に強い種族を指していた。今の魔人己の姿は単に。自分達の呪いに呑まれたこと、魔人王レイアスが生け贄に。人間の他、魔獣、魔物を選んだ為で、その呪いが強すぎた為に自分自身に返り。身を変じていたのだった。
白銀の城は、太陽神アセードラの神器である。
また此度は、12神殿に支える。聖職者が集まっていた。
言い訳を上げればきりはないが、神々の奇跡は確かに起こった。
急速に力を失い始めた……。魔人達は膝を着いて、訳も解らず涙する。
━━そして……、
少しずつ姿が、変貌を始めていった。あまりの痛みに倒れ伏す魔人達、
凄まじい痛みを伴う変化に。のたうち回る。
………それほど数百年の呪いとは重い……、
━━そう簡単に消えることは無かった、
あまりにも長すぎたのだ。
やがて静寂が訪れた。浄化の光も消えてゆく。
一人。一人。また一人と元魔人だった者達は立ち上がっていた。
「これは……」
元魔人だった一人が呟いた。
「おい、その姿は………」
絶句していた。元魔人と変異した者達は、容姿こそはほとんど元に戻ったが、
背の翼だけが残った。
━━その頃……。
リブラの操る竜王プライムに同乗したオーラルは、
「父さん、早く終わらせて、姉さんに謝らなきゃね」
暢気に父リブラの心にダメージを与えていた。
「そっ、そうだった……
ミリア、綺麗になったろうな」
「父さん、そんな簡単な言い訳で、済まないと思うけどね。なあプライム、父さんを姉さんに早く。会わせたいから急いで頼むね」
『グアアアアア!(承知した!)』
「なっ。おい!」
任せろと竜王プライムは、スピードを上げていた。
━━作戦通り。浄化の光が、二人の視界を消していた。
始まりと終わりは突然だった。
巨大な神殿が、突然二人の視界に現れたように見えていた。
「さすが、この辺りはまだ危険そうだな」
オーラルは竜王プライム、自身、リブラに浄化の補助魔法を掛けていた、
周囲に漂う冥界の毒素を中和したのだ。
「おっ体が楽になったな。今のが補助魔法ってのか?」
「うんそうだよ」
「使えなくはないが、魔法に妙な因子をつけてあるが、あれは意味があるのか?」
オーラルはリブラの観察力に舌を巻いていた。
「うん簡単に言うとね。この魔法に因子を付けて放つと、因子に少しの魔力とワードを唱えることで、変異を促すんだ。となれば空間に残された魔力は、別の魔法として返還されるようになる」
「ほほ~う。ようるにリサイクルかよ」
独特な言い回しだが、意味は分からなくはない。
一人納得したリブラは、ニヤリ不敵に笑っていた。
━━竜王ブライムは、やがて闇の神殿と化した神々の神殿前に。緩やかに降りた。
二人が素早く降りると、竜王プライムは、上空で待機してもらうことになった。
「父さん、行こうか」
「ああ~、何だか大詰めぽい空気だな」
リブラはウキウキした物言いで、実に楽しげだった。
そんな父に影響を受けた訳では無いだろうが、オーラルの心も沸き立つ高揚を感じていた。
━━二人は、闇の神殿内に。
足を踏み入れた━━。
浄化の奇跡も。闇の神殿と化した神々の神殿まで、浄化することは出来なかったようだ。
中に入ると。二人は強い負の感情を感じた。まるで魂を圧迫するような、息苦しい闇の魔力。
「聖なる光よ、魂の救済を与えよ浄化結界」
浄化の結界で、強い瘴気となった魔力を中和させた。
「大いなる力よ。恐れを知らぬ戦士に力を。戦士の魂」
さらに二人の抵抗力を上る補助魔法をかけた。
「ふう、こいつはいいな。よし覚えた。次は自分で出来るからこれは要らないぜ」
多少ましになると、リブラはとんでもないことを言い出した。
他の人間が言えばざれ言と言えたが、実際一度みた魔法は使えている。呆れて物が言えなくなった。
「つっ、こいつは………」
━━突然、凄まじい威圧を。二人は感じていた。
「……神殿内に、魔人は居ないようだが……」
シニカルに笑うリブラの頬を。汗が滴る。見られている………。
確かにそう感じていた。
やがて、神殿を守るように。左右に巨大な石像が立ち並んでいた。
二人はその通路を歩いていた。
━━かつて……。
巨大な像は、神々を模した。雄壮な像だった筈だ。
しかし像は、瘴気が染み込み。灰色に汚染されていた。
二人が注意しながら歩いてはいた。そんな二人をあざ笑うように。
神々の像が動き出した。
━━ズシン、ズシン、闇の女神カーレルの呪い『祝福』(カース)を受けていた。
侵入者が、ある一定に近づくと。排除に動きだした。
「おいおい……、あんなのが動くのかよ」
冷や汗流すリブラにとっても。予想外なことだった。
━━━ゴガゴゴゴゴ、ズシン、岩よりも固い特殊な石を加工している神殿を。闇の像は破壊、または壁を。床を破壊しながら歩いてくる。
その姿は圧巻だった。一歩歩く度に重さで床が砕け。圧倒的な力と暴力を闇の像は感じさせていた。
明らかに魔導兵の数倍はある石像は、二人に隕石が落ちてくるような畏怖と。恐怖を。錯覚を与えるような。巨大な拳を振り上げ、落とす。
二人は咄嗟に飛び退くと、石像が落とした拳が、石畳の床を。まるでクッキーを割るように簡単に砕いていた。
思わず顔をひきつらせ親子は見合った。
「あんなの喰らえば、ひとたまりもないぞ」
オーラルは素早く。岩の槍を放つが、像は特殊な素材で造られてるのか、傷一つ付かない、反対側でリブラが竜鱗の剣で斬り込んだが、逆に刃が欠けた。
「嘘だろ、これは竜王プライムの鱗で作らせた剣だぞ。恐ろしく硬いな……」
単純だが、効果的だった。
巨大な物量のある。石像を二人で相手するには、かなり危険な相手であった。
「あれ……、俺達の攻撃は通用しないぞ、どうするオーラル!」
冷や汗をぬぐいながら、息子に視線を送る。迷いがあるがオーラルは頷きがあった。目にある光から、何らかの手段があるようだ。
「時間を稼ぐ」
「頼むよ父さん!」
素早くオーラルの考えを読んで、リブラは像の注意を惹くよう。足元を必要以上に、攻撃を繰り返した。
━━オーラルは数歩。僅かな距離をとって、白銀の剣を刺突きの構えをとった。
学生時代一度だけ。ミザイナが用いた。ファレイナ公国。剣技の奥義。
ファレイナ公国の技は、風の魔法を剣付与して使う。
オーラルはその部分付与を独自にアレンジした攻撃手段を模索した。一度は狂乱の女神となったラグラドに用いた。
しかしあの頃は、練度も低かった。奥義と呼ぶほどの力は無いだろうが、オーラルは研鑽を積んだ。
━━ただひたすらに膨大な魔力を。『聖王の剣』レプリカに集めた。
ミザイナの必殺技は、剣の国の女王ながら。斬る技ではなく、物体に直接的な破壊力エネルギーを付与することで、叩き付ける剛剣となっていた。
「おら甘いんだよ」
リブラを捉えきれず。石像は、自分で破壊した床に足を捕られて、体勢を崩した。
「父さん!?、ハァアアアアアア!!」
「おうよ」
まるでオーラルと場所を入れ替わるように。石像の右に回り込むとオーラル。左に回避しながら石像の注意を惹くリブラ。
石像は、ただリブラを夢中になって、追っていた。何故リブラに執着するかは、分からないが、これはチャンスであった。
石像は、足を取られていた無理な体制で、強引に体を捻っていた。
その瞬間オーラルの背に。風の烈風ではなく。魔力の爆発が、強引な推進力を産み出した。
「クッ……」
背を殴り付けるような、強い圧迫に息が止まりそうになった。
オーラルの背を爆風が打ち据える。だが爆風追い風となった。
駆けるオーラルのスピードがさらに上がった。
「うぉおおおおおおおお!!」
石像の懐に飛び込み。烈火の気合いを込めた一撃は、ガキン凄まじい打撃音を響かせ。像の胴体を砕くや上半身だけ。床を破壊しながら転がってゆく。あまりの破壊力に。床と壁を。さらに巨木よりも太い柱に。ピシリ、ピシリ不吉な音を響かせさせるほどだ。
際奥の祭壇がある。神の金属で作られた。豪奢だった巨大な扉を破壊して、ようやく石像は止まった………、
後日知ることになるが、石像はアドマンタイトと呼ばれる。硬度で言えばダイヤモンドに次ぐ。最固の鉱石を加工せずに使われていたことが分かった。
「ほう……、なるほどな。オーラルの技は、魔力を純粋な力として、敵に叩きつけるのか、ありだな……」
実に楽しそうにシニカルに笑む父リブラは。肩で息をしながら疲れた顔をする息子を見て呟いた、
あれは凄まじい集中力と膨大な魔力に耐えられる剣。それに背後に爆発を起こすことで、前に進む推進力を与え。破壊力を出す技のようだ。必要以上に体にダメージを食らうのはマイナスだが、利点は多い。例えば背に爆発を受けるのではなく。硬い剣にとかならば、
「試せるか?、あの奥に居るので……」
実に愉しげに笑っていた。
「父さん?」
戸惑いながら、父の迫力に思わず唾を飲んでいた。
少し休んだ二人は、ようやく神殿の奥に。足を踏み入れた。
━━元は。祭壇の間。あるいは赤の王プロキシスが籠る。『祈りの部屋』とも呼ばれた巨大な空間。
━━その昔。
━━神を模した像達が、祭られてるはずだったが…、
オーラルが本来あった。主神であった。太陽神の像を破壊していた。
ならそこにいる者は……、
闇を衣服のように纏う。闇の女神カーレルだった。
神との邂逅。
予想だにしてなかった存在に。二人は呑まれそうになっていた。
ただそこに存在するだけで。闇を内包したような、人間には恐怖と畏怖を、何故か蠱惑的に笑っていた。
━━女神の笑みは慈愛に満ちている。と言われるが、
カーレルの笑みは欲望に満ちていた。
『人間よ。良く来たな~』
美しく。切な気な眼差しには、闇の膨大な魔力が込められた。神眼となって、二人の人間を捕らえる力がある筈だった。
それが普通の人間ならば………、
「消えよ。闇の女神カーレル。俺達は赤の民でもある。ここは太陽神アセードラを筆頭にした神々の神殿だ。直ちに退去を命じる!」
強い言葉は、言霊。神々の言霊に等しく。ハッと女神の顔が強張る。
『ばっ、バカな……、赤の民は最早……』
「父さん!、今だ」
動揺したカーレルが、動いた瞬間、禍々しい心臓が、祭壇の裏にあるのを見ていた。
元は。神の金属で作られた。豪奢な椅子だった。今や古びたような椅子になっていた。恐らくあれは滅ぼされた神。死者の神アレビスの心臓だろうと理解した。さらに椅子だったものを。神々のシステムを汚染させるために。死者の神アレビスの血にくで加工したのだろう。でなくばあれほどの汚れた魔力は放たない。
オーラルは白銀の剣に。渾身の魔力を与えて。女神カーレルに投げ付けた。
例え『聖王の剣』レプリカとは言え。神器から作られた。媒体の剣である。
さらに言えば太陽神の加護を秘めていた。
女神カーレルは咄嗟に払い除けていた。
「太陽神アセードラよ!、汝の民が願う。祝福を与えよ」
オーラルは、ずっと考えていた。何故父が襲われたのかを、その答えがあり得ないと思っていたが………。
━━━『聖王の剣』レプリカは、
カッと発光して、爆発した。すると無数の刃が、闇の女神カーレルを襲う。
『クッ……、これは太陽神の』
剣が放った光は、膨大な清浄なる光を放ち。太陽神アセードラの浄化の光となって、女神カーレルの存在を襲った。
『クッ、こんな馬鹿な……、そんなことが……』
清浄なる光が、古ぼけた椅子に設置された心臓を貫き、焼き払い、死者の神アレビスの闇の呪縛から、中央大陸は解き放たれた。
『ギィアアアアア!!?』
顔を焼く清浄なる光に。耐えられず。のたうつ女神を避けて、リブラは急ぎ。古ぼけていた椅子に座った
。
瞬間━━。
━━━世界の時は、止まった。
━━ありとあらゆる音。
━━光すら消えた世界。神々の世界……。
女神カーレルの時すら、止まっていた。
『何だこれは……』
「これはいったい………」
呆然と呟くリブラ。
その時。リブラの胸の内側が、急に輝きだした。
「これはいったい………」
リブラとて何が起こっているのか、分からなかった。ただ胸の内側から。赤い宝石せりだして来たのだ。
コロンとリブラの手の上に、拳大の美しい赤い宝玉が落ちた。
『━━流石、我が子よな~』
労る。優しい思念が聞こえてきた。
ひょっこりとお茶目な顔をした老人が、リブラを覗き込んでいた。
「あんたは………」
老人は、歯の欠けた口を愉しそうに開いて、高笑いした。
『ほっほほほほ。実に愉快じゃ』
『じいさん?、じいさん聞こえるか、じいさんは確か、失われた赤の民の街で……』
老人は驚いた顔をしていたが、ニッコリと眠そうな目を、優しく笑みにしてから、実に優しい眼差しでリブラを見ていた。愛と言わんばかりに。顔をしわくちゃにしていた、
そして、老人はリブラの手に……、
己の手を重ねた
。
『苦労をかけてすまん』
『じいさん……あんたは』
儚げに笑う老人は、
『わしは既に死んでおる。お前さんに、迷惑を掛けて済まないと思っておる』
白髪頭を下げた老人に、リブラはただシニカルに笑う、
『まあ~いいさ、わりと楽しかったからな』
ハッと息を飲んだ老人は、驚いたように目を丸くした。
『そうか、そうか……、楽しかったか』
ピシャリ額を叩くと、かかと笑い出した。
『面白い孫まで育ってよって、善きかな、善きかな』
━━老人は、妻に似た黒髪のリブラ。
そして……、曾孫のオーラルを見ていた。
慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべる。
━━そして……、赤の王としての最後の力を使う。
闇の女神カーレルに手を向けていた。
━━赤の秘宝に、カーレルを取り込み封じていた。
『これで遺恨はない。後のこと、頼んだぞ……』
今だから気付いた、老人はオーラルに似た顔立ちだった。
リブラはよえやく理解した。自分が捨て子だった訳を…。
リブラは理解したのだ。一筋の涙を流した。
『さらばだ……親父』
一つ頷き、赤の民の王プロキシスは、優しい笑みを浮かべた。
双子の片割れを心配しなからも。全てをやりとげた赤の王プロキシスは、最後にリブラを見つめながら。
優しい笑みを残し。消え失せた。
『ナタクすまなんだ……』
呟きを残して、
━━再び時が動きだした━━。
リブラは涙した。終わった……、
ようやく終わったんだと……、
━━力を取り戻した中央大陸は、緩やかに、下降を始めた……。
1000年の時。悠久の時を刻みようやく。
世界に戻った……。
まもなく各国に。報せが届いた。
人々は安堵した。
しかし……此からが大変であることを理解していた。
各国は、新たな大陸について。中央大陸の利権を主張しかねない状況である。
━━そうなれば数百年前のような、戦乱を招く恐れがあった……。
それに……、生き残った堕ちた赤の民。
沢山の魔物が未だに中央大陸に巣くっていた。




