第8話 - 日陰を追う者
天井の高い石造りの部屋に、二つの人影がある。一人は装飾が美しい木製の椅子に腰かけ、もう一人はその正面に姿勢を正して立っている。黒のクレリカルシャツをまとう二人の姿は、一見すると普通の聖職者としか思えない。
歴史を感じさせる白い漆喰の壁には、組織を象徴する十字架が飾られている。宮殿の一角にも思える美しい内装だが、それに似合わず、机の上には最新のノートパソコンが開かれている。
椅子に座る男は微笑をたたえ、目の前の栗毛の少年に目を向ける。
「五十年前にドイツから姿を消した悪魔だが、ようやくそれらしいやつが見つかった。場所は日本だ」
「日本?」
少年の少し高い声が反響する。少年は首をかしげ、ヘーゼルブラウンの大きな瞳をまたたかせる。
「ずいぶん遠いところに行きましたね」
「日本にはアヤカシという、悪魔に近い存在が多いからな。隠れるのにちょうどよかったんだろう。実際、五十年も見つからなかったわけだしな」
「五十年って結構長いですよねー」
「過去最長だ。まったく、世話の焼ける」
男は肩をすくめ、冗談めかして笑う。
「お前には、その悪魔らしきやつの孫が通う高校に編入してもらう。近づいて情報を集めろ。情報収集だけだからな。くれぐれも祓うんじゃないぞ」
「わかってますよ。この間ボクがザコ悪魔を祓ったことをまだ怒ってるんですか?」
「当たり前だ。オレが司教にどれだけ怒られたと思ってる」
「知りませんよぉそんなこと」
「本当にお前は祓魔しか能がないな!」
男は眉をつり上げ、指先を上に向けてすぼめて手を上下に振る。
「いいか。お前はまだ見習いで、祓魔の権限はない! 祓うのはオレの仕事だ! お前は大人しく補助に徹しろ! 特に今回の相手は、第一階級の血を濃く引いている。いくら天才と言われるお前でも、一人での祓魔は無謀だ! わかったか!」
「はーいはい。わかってますよぉ、ドン・マルコ」
へらへらとした少年の態度に、男は両手を広げて肩をすくめる。どうやら苛立ちより呆れが勝ったようだ。
男は青い目を細め、眉間のしわを深くする。
「腹は立つが、この任務にお前をつけるのは、お前の能力を買ってのことだ。並みのエクソシストなら、悪魔に正体がばれた時点で殺される。だがお前なら逃げられると判断した。ただの情報収集だと侮るなよ、ノエ・サントーロ見習いエクソシスト」
「はぁ~い」
「本当にわかっているのか? まったく……」
男は天を仰いで首を横に振る。これから起こる苦労を案じているようだ。
対して少年は微笑み、緩く巻いた髪を揺らす。軽い様子とは裏腹に、その瞳には闘争心が満ちていた。




