↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔みたいにかわいい彼女は、本物の悪魔でした  作者: わしお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/61

第57話 - オレもこうなりたかった

 大輝は真剣な顔でスマートフォンを睨む。数字が大量に羅列している画面から、ただ一つの数字を探す。

 隣で手を合わせる天音も、大輝と同じかそれ以上に真剣な目をしている。威圧感でスマートフォンが壊れてしまいそうなほどだ。


 スクロールすると、探している数字と近い番号が出てくる。大輝の手は不安で震え、心臓がドクドクと痛いくらいに脈打つ。

 スクロールする大輝の手が止まる。大輝と天音の視線は、画面の中央に注がれている。そこに書かれた数字を見て……二人は同時に破顔した。


「っしゃ――! 受かった――!!」

「おめでとう!!」


 大輝は強く拳を握り、天音は高速で拍手をする。共に机を囲むノエと結衣も、天音ほど速くはない普通の拍手をする。翔太だけは、目の前のフライドポテトをもりもり食べていた。


 この日は大輝の合格発表をみんなで見ようと、なぜかカラオケに集まっていた。天音と翔太のときは集まらなかったのに、なぜ大輝だけ見守られているのかは謎だ。そんなに危ういと思われていたのだろうか。

 結衣は机の中央に置かれたバスケットからポテトを取り、身を乗り出して大輝たちを見る。


「全員第一志望受かったの? すごいじゃん」

「すごいデス!」


 未だに拍手を続けるノエは、おそらくどれくらい凄(すご)いのかわかっていないだろう。だが、褒めてくれるのは素直に嬉しいと大輝は思う。

 翔太は緑茶をカクテルのように傾け、得意げに笑う。


「俺はテストの神様だから余裕だったな」

「面接で落ちたら爆笑だったんだけどね」


 結衣は相変わらず容赦がない。しかし翔太は「それなー」と緩く返す。テストがそれだけいいのに、どんな面接をしたら落ちるのだろうか。


「はぁー……」


 大輝はソファにもたれかかり脱力する。もう当分、勉強はしたくない。いや、大学に入学したらするのだが。


「よかったね、大輝くん」


 天音の明るい笑顔に、大輝はほっとする。自分が受かったことより、天音に悲しい顔をさせずに済んだことに安心している。


「よしっ」


 翔太が何の脈絡もなくマイクを握る。歌うのかと思ったが、マイクは大輝に向けられた。


「じゃあ合格祝いに一曲どうぞ」

「オレ? お前が歌えよ」

「俺はポテト食うのに忙しいから」

「オレだってポテト食いたい」


 そう言いながらも、大輝は諦めてマイクを受け取る。しかしふと気になったことがあり、マイクはノエにパスした。


「ノエ、オレたちへの祝福になんか歌って」

「ハイ! 日本のアニメの曲、入れるします!」


 ノエはノリノリでマイクを受け取り、デンモクを持っている結衣と共に曲を探す。結局ノエの恋は実っていないようだが、大輝には悪くない雰囲気に見える。

 ノエが少し懐かしいアニメソングを入れる。普通に日本語で歌っているが、イタリアでも日本語で放送されているのだろうか。


 賑やかな音の中、大輝は真面目な顔を翔太に向ける。


「なあ」

「ん?」

「翔太はなんで、オレから離れなかったんだ?」


 それは大輝がずっと聞けなかったことの一つだ。翔太だから何も考えていない……とも思ったが、聞いたら関係が壊れてしまいそうな気もしたのだ。

 大輝が不良扱いされるようになってから、小学校から仲が良かった友人たちは皆離れていった。残ったのは翔太だけだ。翔太は小学校から高校まで、大輝に対する態度を一切変えていない。

 翔太はそれまでの雑談と変わらず、ポテトを食べながらモニターを見ている。


「離れる理由なくね? 俺が殴られるわけじゃないんだし」

「いや、あるだろ。殴られるんじゃないかとか、自分も不良だと思われるんじゃないかとか」

「別に。俺が何もしなければ殴らないだろ?」

「そうだけど……」

「周りからの評価も興味ないしな。つか、毎日真面目に授業受けてテストも百点取ってんのに、不良だと思うやついるか? 何も見てないだろそいつ」

「いるだろ、そういうやつも」

「少なくとも、俺は出会わなかった」

「あっそう……」


(よくわかんねー……)


 大輝は半ば呆れてポテトを一本つまむ。「何も考えていない」が正しかったようだ。

 しかしそんな翔太が、大輝にはうらやましくもある。翔太の中には「他人の物差し」が存在しない。常に自分の物差しで物事を見ている。それができる人間は少ない。

 天音も過去を話したとき、『自分の価値観を大切にする』と言っていた。大輝もノエに、『最初からわかり合おうとしないのは違う』と言った。それと同じことを、翔太は自然にできている。


(オレもこうなりたかったんだよな)


 大輝はずるずるとコーラをストローですする。かつての大輝は、誰かがやらなければならないが誰もやらないことをしようと思い、不良になった。方法を間違えたことに気づき、今度は普通になろうとした。そして今は、不良でもない、普通でもない、新たな道を進んでいる。

 答えは案外近くにあったのかもしれない。大輝は今さらながらにそう思った。


 そして特に結論がないまま会話は終わる。それも、翔太との付き合いではよくあることだ。


「翔太、次なに食う?」


 なくなってきたポテトを見て大輝がメニュー表を取ると、なぜか天音がくすくすと笑い出す。大輝は不思議に思いながら天音に目を向ける。


「どうした? なんか食べたいのある?」

「あるけど、そうじゃなくて……」


(あるんだ)


 大輝は天音にメニュー表を渡す。注文用のリモコンを手に取ると、翔太の方から「たこ焼き」と聞こえてきた。大輝は天音を見ながら、横目でたこ焼きを探す。

 天音は少し恥ずかしそうに、メニュー表で口元を隠す。


「やっぱり好きだなーって思っただけ」

「???」


 今のやりとりの何にそう思ったのか、大輝には全くわからない。しかし何でもない瞬間の天音を『好きだ』と思うことは、大輝にもある。

 そう思ってもらえることも、言ってくれることも嬉しい。しかし少し恥ずかしくて、大輝はごまかすようにコーラを口に含んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。