第53話 - 話さなきゃいけないこと
大輝と天音は有料サービスも利用しながら、とにかくたくさんのアトラクションに乗った。
みんなが恐怖に絶叫するジェットコースターは、大輝には少し物足りなかった。しかし隣で大爆笑する天音を見ていたら、冷静な大輝の方がまだまともに思えた。こういうとき、やはり天音は悪魔だと感じる。
ボート型の乗り物で物語の世界を巡るアトラクションは、ぼんやりとした記憶より楽しかった。とにかく速い乗り物が好きだった子供時代より、情緒が身についてきたのかもしれない。
待ち時間では景色を楽しみながらポップコーンを食べた。くだらない雑談に花を咲かせ……たかったのだが、結局受験の話になった。参考書を持ってきているあたり、案外自分は真面目だと大輝は思う。
昼食はレストランで、食べるのが勿体ないほどかわいらしい料理を食べた。大輝は崩すのに躊躇して写真を撮ったが、天音は容赦なくフォークを刺していた。どれほどかわいくても、食べ物は食べ物なのだろう。
たくさん歩き、たくさんアトラクションに乗り、たくさん食べ、気づいたら夕方になっていた。さすがに足を休めようと、二人はたまたま見つけたベンチに座った。
目の前を歩く人々の多くは、パレードの話をしている。大輝の感覚だとまだ早い時間だが、もう場所取りをするらしい。そんな早さで動かないと見られないものなのだろうか。
天音はパレードを見たいだろうか。そう思い、大輝が口を開こうとしたとき――
「ねえ、佐藤くん」
天音の真面目な声が聞こえてくる。大輝は発しようとした声を飲み込み、天音の横顔に目を向ける。一見穏やかな瞳は、少し不安そうに思えた。
「ん? なに?」
大輝は努めて平然と返事をする。視界の端に映る天音の手は、強く握られている。
天音は大輝に目を向けず、まっすぐに景色を見ている。
「前に、話さなきゃいけないことがあるって言ったの、覚えてる?」
(やっぱり、その話か)
大輝はなんとなくわかっていた。天音が真面目に話すとしたら、その話か卒業後の話しかない。
「……うん」
「気になってたよね。ごめんね。やっと……落ち着いて話せる気がするの」
夕日に照らされる天音の瞳は、いつもより赤みを増している。しかし悪魔の力を発動したときとは違う、優しい赤色だ。
「あのね……」
そこまで言って、天音は一度言葉を切る。よほど言いにくいことなのだろう。
「無理に言わなくていい」と大輝は言おうとした。しかし話そうという天音の意志を尊重して、ただじっと続きを待つ。
天音は意を決したように口を開く。
「私ね……中学生のとき、佐藤くんに助けてもらったの」
「……え?」
大輝は自分の目が大きく開くのを感じる。人助けをした覚えがないという困惑もあるが、それよりも、中学生のときに天音と出会っていることに驚いた。
(え、いつだ? こんなかわいい子見たら忘れないと思うんだけど……。ていうか)
「じゃあ、最初から知ってた? オレが、その……不良だったこと」
「不良かは知らなかったけど、喧嘩してるところは見たよ」
「あー……」
大輝は頭を抱える。ひた隠しにしていたことも、別れる覚悟で話したことも、なんだか馬鹿みたいに思えてきた。
(知ってたなら言ってくれたら……いや、なんか言えない理由があったんだろうな)
大輝は気を取り直して天音を見る。
「え、いつごろ?」
「二年生の……秋、くらい」
(……なるほど)
大輝は天音が話さなかった理由を察する。おそらく、大輝が目を怪我した時期だからだ。
(自分のせいで傷ついたんじゃ……ってことか。そんなことないのに)
大輝にとって、目の傷は自業自得だ。攻撃を避けられなかった自分が悪い。しかし天音が罪の意識を持ってしまったのなら、申し訳なく思う。
天音は膝の上の拳をぎゅっと握る。
「あのとき、私は大学生の集団に声をかけられて、逃げようとしたら腕を掴まれたの。どうしたらいいかわからなくてパニックになりかけてたとき……助けてくれたのが佐藤くんだった」




