第51話 - 入れるよな?
目的地の最寄り駅に着き、大輝と天音は電車を降りる。すっかり冷たくなった冬の風が吹きつけるが、つないだ手は温かい。
「楽しみだね! 私、学校行事以外でここに来るの初めて!」
にこにこと笑う天音はすでに楽しそうだ。天音はつき合い始めたころより、こういう子供っぽい顔をすることが増えた気がする。
クリスマスデートの場所を考えていたとき、デートの定番だが行ったことのない場所にしようと思いついたのが、この東京と名がつくが東京ではない巨大テーマパークだった。大輝は小学校の遠足で行ったきりで、全く記憶にないといっても過言ではない。
行きたいがお金が……と二人で悩んでいたところ、正雄がチケット代を出してくれたのだ。無職なのに。
「勉強の息抜きも兼ねてるんだろ? 妥協せずに行きたいとこ行けよ。一生の思い出になるからさ」
大輝たちは正雄の好意をありがたく受け取った。そしてこの日に合わせて受験勉強を頑張り、クリスマスイブを迎えた。
すでにはしゃいでいる天音に、大輝は笑みを返す。楽しみ……というには緊張が強いが、天音と同じようにわくわくした気持ちなのは間違いない。
「オレも初めて。学校からも一回しか行ったことないな」
「一緒だね! じゃあ、順番に全部のアトラクション乗ろう! おじいちゃんからお小遣いもらったし」
「ありがたいなー。正雄さん無職なのに」
「たぶん、おばあちゃんの稼ぎだね」
大輝と天音は同時に苦笑いを浮かべる。天音にドヤ顔で小遣いを渡す正雄の姿が、大輝にはありありと想像できた。
そんなふわふわとした気持ちの中、大輝たちはテーマパークに足を踏み入れる。入口からまっすぐ進み、視界が開けた途端、大輝は思わず声を漏らした。
「でっか……」
空に向かって伸びる城は、想像していたよりもずっと大きい。三角形の屋根が、雲を突き刺しているかのようだ。
天音はその城を、キラキラした瞳で見上げる。
「すごい大きいね……!」
「入ってみる? てか、入れるよな?」
「入れそうだよ。行ってみよう!」
天音に思いのほか強く手を引かれ、大輝は慌てて足を踏み出す。大輝がリードするつもりでいたが、そんな暇もない勢いだ。天音に任せた方がいいかもしれない。
近づく城は見れば見るほど立派で、大輝は場違いなところに来てしまった気分になる。しかし隣で白い息を吐く天音には、この城がよく似合っている。白いダッフルコートも青いスカートも水色のショルダーバッグも、もしかしたら城に合わせたのかもしれない。
大輝は自分の服を見る。黒いダウンコートは無難すぎて、夢の国に着ていくには地味だったかもしれない。
(オレは羽生さんの召使い……くらいの気持ちでいようかな)
キラキラした世界に早くも打ちのめされそうになりながら、大輝は城の扉をくぐった。




