第50話 - 空けておいたから
そのとき、ガラガラと教室の扉が開く。
「おつかれー。差し入れ持ってきたよ」
緩いテンションで入ってきたのは、コンビニの袋を掲げる結衣だった。
「ユイー!」
「ありがとう結衣ちゃん」
「ありがとー。マジで助かる」
結衣は天音の前の席に座り、袋の中身を机に広げる。チョコが多いのは糖分補給のためか、結衣の好みかどちらだろうか。
ノエはそわそわした様子で、机に並ぶ菓子を眺める。
「ボクはどれ食べるいいデスカ?」
「あんたの分はない」
「Oh! なぜ!」
「あんたは受験勉強してないでしょうが!」
ノエは残念そうに口をすぼめる。よほど食べたかったのだろう。少し不憫になり、大輝はいちごのチョコを一粒ノエに差し出す。
「ノエ、一個食べる?」
「ハイ! アリガトございます!」
ノエは心底嬉しそうにチョコを頬張る。その顔が眩しくてもっとあげたくなるが、結衣はあくまでも大輝たちのために買ってきてくれたのだ。ほどほどにしようと大輝は思う。
大輝は次のチョコレート菓子を手に取り、口に放り込む。ホワイトチョコの甘さが疲れた脳に染みわたり、思わずほっと息がこぼれる。結衣が女神に見えてきた。
「食べたらとっとと再開しなよ。佐藤は余裕ないんでしょ?」
……全然女神ではなかった。
「今休憩はじめたとこなのに……」
「休んでる暇あるの? クリスマスとかあるんだから、そこ考えて勉強しなよ」
「クリスマス……!」
大輝ははっとする。今年のクリスマスは、去年までと違い単なる平日ではない。
(やばい、馴染みがなさすぎて何も考えてなかった……!)
大輝は慌てて天音を見る。天音はそんな大輝を見て、こてんと首をかしげる。
「は、羽生さん! クリスマスイブ、予定ある?」
「今!?」
結衣は信じられないものを見る目を大輝に向ける。仕方がないだろう、クリスマスの認識がなかったのだから。
天音は特に気にする様子はなく、いつも通りおっとりと笑う。
「空いてるよ。空けておいたから」
(……そういう理由で空けてくれたと思っていいんだよな?)
天音はあまり積極的なアピールはしない。しかし「そういう理由」だと解釈し、大輝は膝の上で拳を握る。
「えっと……一緒に出かけませんか……?」
「うん! もちろん!」
天音が満面の笑みを浮かべる。大輝の自意識過剰ではなかったようだ。
(よかったぁ~!!)
大輝は安心と同時に緊張してくる。当日まで心臓がもつだろうか。
「ユイ!」
ノエが勢いよく立ち上がり、大輝はびくりとする。結衣もかなり目を丸くしているが、ノエは気にしていないようだ。
「ボクもユイとクリスマスイブ、過ごすしたいデス!」
「え? まあいいけど」
あっさりした返事に、大輝は思わず驚く。なぜか誘ったノエも驚いている。
「いい……デス?」
「うん。もう内定もらったし。進学組と違って暇だから。でも、日本のクリスマスの過ごし方って特殊だと思うよ?」
「アリガトございます! 日本のクリスマス、楽しみデス!」
ノエが大輝と同じようにそわそわしはじめる。その表情からも、喜びと緊張が溢れている。
大輝はちらりと結衣に目を向ける。
(意外だったな……。断るかと思ってた)
結衣がノエに心を開いているようには、少なくとも大輝には見えなかった。心境の変化でもあったのだろうか。
気にはなるが、大輝は考えるのをやめる。ノエと結衣のことより、今は自分のことで手いっぱいだった。




