第49話 - 寂しいなるデス
「あー……」
大輝は参考書を広げたまま机に突っ伏す。志望校のレベルを上げたら、受験勉強が一気に大変になった。しかしこの大学の方が、天音が目指している大学に近い位置にある。高校卒業後にまだつき合ってる可能性が少しでもあるなら、天音との時間が取りやすいところに進学したい。
結局やりたいことではなく、下心で決めてしまった。やりたいことは、大学に入ってから探す。それもきっと悪くないはずだ。
隣に座る天音が微笑み、握っていた水色のシャープペンシルを置く。
「少し休憩する? 根を詰めてもよくないし」
「そうする……」
大輝もペンを置き、ぐーっと伸びをする。ふと窓の外を見ると、校庭の桜の木が鮮やかに紅葉している。
(もう十一月が終わるんだな……早っ)
少し前までは暑かったのに、もう冬が来るのだと感慨深くなる。歳を取るともっと早くなるというが、今からこの調子で大丈夫なのだろうか。
「受験は大変なのデスカ?」
大輝の前の席で作業をしていたノエがくるりと振り返る。本当に疑問に思っていそうな顔は、馬鹿にしているわけではないようだ。
あれからノエは、大輝たちと行動を共にすることが増えた。ノエを狙っていた女子たちも、今は受験勉強に忙しく、ノエどころではないらしい。
ノエはおそらく、意図して大輝と天音と話すようにしている。ノエなりに、歩み寄ろうとしているのかもしれない。大輝もその行動に報いたいと思っているし、ノエのことを知りたいと思っている。ちなみにこの日、翔太は面接の練習で勉強会に参加していない。
大輝は「うーん」とノエの質問の答えを考える。
「志望校によるんじゃないか? オレは目標をレベル高いとこに変えたから大変なだけ」
「大抵の人は大変だと思うよ。本番は一回きりだし」
天音は大輝をフォローするように言う。大輝より余裕がありそうな天音が言ってくれると、大輝は自分がみじめではないと安心できる。
「ノエは何書いてんの?」
大輝はノエの机に広がるノートを見る。写真がたくさん貼られたそれは、まるで日記のようだ。
ノエはそのノートを自慢げに持ち上げ、キラキラした目で大輝に見せてくる。
「日本の思い出を書くしてます! イタリアに帰るしたら、妹に見せるします!」
「妹いるんだ」
「ハイ! 反抗期で喋るしないデス」
「あるよな、そういう時期」
大輝はノートを端から順に見る。本当に何気ない日常のことを書いているようだ。大輝たちの弁当の写真もある。
「すごいいっぱい書いてるな」
「思い出、毎日たくさんできるデス!」
ノエは少し寂しそうに目を伏せる。
「ボク、卒業したらイタリアに帰るします。きっと寂しいなるデス」
(そうだよなぁ……)
ノエはずいぶん日本を満喫しているように見える。半年の滞在は、飽きるには短い。
(去年なら修学旅行とかもあるし、もっと思い出作りできたんだろうけど……タイミングが悪かったよな)
ここから先、楽しめるような行事はない。大輝は少し残念な気持ちになった。




