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悪魔みたいにかわいい彼女は、本物の悪魔でした  作者: わしお


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第44話 - 才能を発揮する努力

「ここの公式どれだっけ……あ、これか」


 大輝は参考書とにらめっこしながら問題集を解く。隣で同じ問題を解いていたはずの翔太は、大輝より何ページも先に進んでいるようだ。


 今日は天音が進路指導室におり、勉強は大輝と翔太の二人きりだ。進路指導室なら有馬もいるからと、大輝は久しぶりに天音と別行動を取っている。

 大輝はペンを置いて翔太を見る。憧れを越えて恐ろしい友人の能力に、思わず苦笑いを浮かべた。


「翔太、問題解くの早くね? なんの修業したらそうなんの?」

「んー?」


 翔太は問題集から目を離さず、手を止めないまま口を開く。


「たくさん解いて、迷う時間をなくすようにしてる。受験って、けっこう時間との戦いじゃん? じっくり考えたら全問解けるんだけど、そんな時間はないから。いかに迷う時間をなくすかに注力してる」

「まず前提がちげぇー……」


 大輝にはじっくり考えても解けない問題がある。スタート地点の違いに打ちのめされそうになった。

 しかし、天才肌の翔太から「たくさん解く」という言葉が出てくるのは意外だ。てっきり、大した勉強をせずとも点が取れるのだと思っていた。小学校でも、中学校でも、翔太が人前で勉強することはほとんどなかったからだ。


「お前も回数こなすとかするんだな」

「大輝はさ、右から拳が迫ってきたときどう避けるかとか考えてる?」


 一見脈絡のない問いだが、大輝は喧嘩をしていたときのことを真面目に思い出す。


「考えない。考えてる間に殴られるから」

「避けられるようになるまでどう練習した?」

「兄貴と死ぬほど喧嘩した」

「それと一緒」


(……なるほど)


 大輝は納得する。頭でわかっているのと、咄嗟に動けるのでは違う。大輝が「兄に勝つ」ためにやってきたことを、翔太は「テストで勝つ」ためにやっているのだろう。時間に殴られないように。


(元の才能はあるかもしれないけど、それを発揮する努力もしてるんだな)


 適当に生きていると思っていた友人の、新たな一面を大輝は見た気がした。


 そのとき、廊下からパタパタと足音が聞こえてくる。急ぐようなそれは大輝たちの教室の前で止まり、ガラガラと勢いよく扉が開いた。


「ダイキ! 頼み、あるデス! 屋上に来るほしいですデス!」


(ノエか……)


 大輝は思わず顔をしかめる。ノエはおそらく、大輝にいい感情を抱いていない。いつも天音と話そうとするノエを邪魔するからだ。そのノエからの呼び出しということは、ろくなことではないだろう。


「屋上って立ち入り禁止じゃね?」


 大輝はわざと眉間にしわを寄せる。ノエは焦ったようにわたわたと手を動かす。


「だから急いでマス! 早く行かないとばれるします!」

「うーん……」


 明らかに怪しい。大輝を名指しする意味がわからないし、そもそもばれたら困るようなことをする方が悪い。


(断るか? でもなぁ……)


 本当に困っている可能性を考え、大輝は後頭部を掻く。そしてここにいるのは、何も知らない翔太だけだ。断ったら不自然に思われるだろう。

 大輝は仕方なく、問題集を閉じて立ち上がる。


「翔太、ちょっと行ってくる。もし羽生さんが戻ってきたら、ノエに呼び出されたって伝えて」

「りょー」


 気の抜けた返事をしながら翔太は手を振る。大輝は警戒心を抱きながら、ノエの後について行った。




 屋上に着くと、ノエは一気に中ほどまで走っていく。大輝は少し距離を取りながら、ノエが立ち止まるのを待つ。


 ノエは一番空間が開けているところで足を止める。振り返ると、その顔からは「頼みがある」と言っていたときの焦りが消えている。やはり罠だったようだ。

 大輝も立ち止まり、半ば呆れて腕を組む。


「急いでるってのは嘘か? 用がないなら帰……」


 そのとき、ノエが大輝に手のひらを向ける。その中心に十字架が見えた瞬間、ノエの手が光り出した。

 大輝は直感で、ノエの手の延長線上から垂直に逃げる。予感は当たり、先ほどまで大輝がいたところを光線のようなものが通過した。

 光は空中で霧散する。ノエは手を下ろし、にやにやと大輝を見る。


「“うーん、動けないように足を焼くつもりだったんだけど、避けられちゃった。やっぱり反射神経がいいね”」


 イタリア語(たぶん)で言われ、大輝は顔をしかめる。何を言っているのか全くわからない。


「……頼みってこういうことか」

「ハイ!」


 ノエは元気よく答え、再び大輝に手のひらを向ける。


「アマネを呼ぶ、難しいデス。だから、ダイキをエサにします。大人しいしてクダサイ」

「……急展開すぎるだろ」


 大輝は十字架を警戒しながらノエを睨む。漂う緊張感に、大輝は懐かしさを覚えていた。

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