第43話 - ハエを叩くのと同じ
十字架が宙を舞い、ノエの手の中に落ちる。ノエはそれをまた空中に投げ、落下点に手を差し出す。
ノエは考えていた。どうにかして悪魔を……天音を祓う方法を。
(露骨に動いたら怪しまれちゃった。上手くいかないなぁ)
ノエは十字架を投げる動作を続けながら、ふてくされるように口をすぼめる。ノエは情報収集のような、ちまちました作業が苦手だ。さっさと祓ってしまいたい気持ちが強い。
しかし、教室では祓えない。規則の問題ではなく、ノエの力の性質の問題だ。いや、規則の上でも問題なのだが、ノエは無視するつもりでいる。
ノエは多くの悪魔を一気に祓える代わりに、小さな攻撃を苦手としている。教室で力を放ったら、クラスメイトを全員巻き込んでしまうかもしれない。それどころか、校舎を破壊するかもしれない。
ノエにとって悪魔を祓うことは、ハエを叩くのと同じだ。目障りだから倒す。それ以上の理由も、感情もない。しかしだからこそ、人間を巻き込むことは憚られた。
(だからアマネを人がいないところに誘導したかったんだけど……難しいね)
ノエは十字架を握り、ソファに寝ころぶ。キッチンでマルコが作る料理の匂いが、ノエのいるリビングまで漂ってきている。今夜はリゾットのようだ。
(アマネは案外ガードが緩いんだけど、ダイキがねー……。まあ、ダイキに犠牲になってもらってもいいんだけど。悪魔に魅入られた人間は、そのうち悪魔の仲間になるからね)
ノエはまだ、大輝が天音の正体を知っているとは思っていない。しかし惚れ具合からして、天音が悪魔だと知っても離れないだろうと予想している。
そのとき、ノエはあることを思いつく。
(ダイキを餌にすればいいんだ。ダイキはボクとアマネが二人になるのは邪魔するけど、ダイキとボクの二人になるのは拒まないはず)
ノエはにやりと口の端を上げ、ソファから体を起こす。悪魔を祓うその瞬間が、今から待ち遠しくて仕方がなかった。
「ノエ! 暇なら手伝え! いつもオレにばかり作らせて!」
「やだよ~。ボクはマルコと違って忙しいんです~」
「どこがだ!!」




