第38話 - 民家のドレスコード
(秋だなぁ……)
近くの席の生徒が持っている菓子を見て、大輝はそんなことを思う。ハロウィンを意識した紫色のパッケージには、「かぼちゃ味」と書いてある。細長いビスケットのようなそれを見ていると、大輝も菓子が食べたくなってくる。しかしまだ登校したばかりで、おやつの時間には早い。
受験勉強は、思っていたより順調だった。理由は簡単だ。授業が終わった後、天音と翔太と一緒に勉強しているからだ。頭のいい二人といると、わからなかったことがすぐに解決する。ちなみに、結衣は就職組だ。
すでに志望校の合格ラインには届いている。担任の有馬からはレベルを上げることを提案されたが、答えは保留した。大輝にそこまでのモチベーションはない。
それに、一つ大きくなっている不安がある。
「アマネ! ユイが好きな食べ物、教えるお願いしマス!」
文化祭以降、ノエが天音に話しかけるようになったのだ。
内容は結衣のことだ。趣味、特技、部活、好きな色、今欲しいもの……。普通に考えたら、好きな人へのアピールのために親友から情報を聞き出しているのだろう。
しかし、大輝にはそうは思えなかった。結衣のことから徐々に話題を逸らし、天音の秘密を探ろうとしているように感じる。ノエが悪魔祓いに本気を出したように見えた。
大輝は席を立ち、ノエと天音の会話に混ざる。ノエへの牽制にも、だんだん慣れてきた。
「ノエ、そういうのは本人に聞きなよ」
「教える、くれないデス」
「避けられてんじゃね? しつこいから」
「Oh……」
ノエは残念そうに肩をすくめる。しかし大輝が見る限り、結衣はノエを避けてはいない。結衣の物言いがもともときついだけだ。
その証拠に、結衣も会話に入ってくる。
「そうそう。天音を困らせないでよね。ていうか、興味がないなら近づかないでって言ったでしょ。あと、好きな食べ物はイカの塩辛」
「渋っ!」
大輝は思わず驚いてしまう。好きな食べ物がイカの塩辛の女子高生に初めて出会った。
ノエは全くピンときていないようで、きょとんとしている。
「イカのシオカラ?」
「あんたが聞くなら、どうせプレゼント目的だろうと思ったから言わなかったの。学校に持ってこれるものじゃないから」
「今度一緒に食べる行きましょう!」
「わざわざ食べに行くものでもないんだよね……」
そのまま結衣とノエの会話が弾み始める。大輝と天音はそっとその場を離れ、大輝の席まで移動した。
「なんか、ノエが羽生さんに話しかけること増えてるよな」
「うん……文化祭からかな」
「文化祭でなにかあったっけ?」
「私は覚えがないんだけど……」
「私は」という言い方に大輝は引っかかる。天音以外の誰か……例えば天音の両親や正雄には、何かあったということだ。
(ここでは言えないよな……)
ノエに聞かれるとまずい話かもしれない。ちらりとノエを見ると、結衣と楽しく話しているように見えて、意識が大輝たちの方にも向いている。油断はできない。
(また進路指導室で有馬先生に……いや、あそこ最近人多いんだよな。面接練習とかもするから)
「どこかで話せたらいいんだけど……」
大輝が悩んでいると、天音がぽんっと手を叩く。
「それなら、私の家に来る?」
「えぇ!?」
大輝の声が教室に響き、一斉に視線を向けられる。その視線はすぐに消えたが、大輝の顔は恥ずかしさで熱くなっている。きっと真っ赤だろう。
(いや、だって羽生さんの家だぞ? 地主の家系だぞ? 豪邸だぞ?)
大輝の額に汗が浮く。しかし他に気兼ねなく話せる場所が思いつかない。大輝の家は部屋の壁が薄く、兄に会話を聞かれる可能性がある。聞かれて困ることはないかもしれないが、それよりも彼女を連れてきたことをからかわれるのが面倒だ。
大輝は諦めて首を縦に振る。
「じゃあ、お邪魔します……」
「うん!」
天音が満面の笑みを浮かべる。歓迎されているのは嬉しいが、今から緊張してきた。
「いつがいい? 今日の学校帰りは?」
「えっ、そんな唐突で大丈夫?」
「うん! いつでも大丈夫!」
「じゃあ……今日、よろしくお願いします」
大輝はなぜか、かしこまって頭を下げる。
(学校帰りでいいってことは、ドレスコードはなさそう?)
行き先は民家だというのに、大輝は妙なところを気にしてしまっていた。




