第37話 - 見慣れてしまった学生証
チュンチュンと聞こえる鳥の歌声に、天音は目を覚ます。目覚ましが鳥を追いかけるように鳴り、天音は体を起こして、淡い水色の時計を止める。
天音は枕の隣に佇む、ハシビロコウのぬいぐるみに目を向ける。鋭い目つきはいつ見てもかわいい。
ハシビロコウのふわふわとした頭を撫で、天音はにこりと微笑む。
「おはよう、上野さん」
「上野さん」という名前は、当然出会った場所に由来している。上野さんは夏休みのあの日、大輝がプレゼントしてくれた物だ。ハシビロコウから名前を取ることも考えたが、結局思い出の場所にしてしまった。「上野さん」と呼ぶたびに、あの日の楽しさが蘇る気がする。
天音は伸びをしてベッドから下りる。和風の外観にそぐわない洋風の部屋は、布団も枕もカーテンも水色をしている。天音の好きな色だ。
カーテンを開けると、少し前より弱くなった光が部屋を照らす。十月に入り、ようやく秋らしい日差しになってきた。
部屋の中に視線を戻すと、日差しの届かない壁でひまわり畑が輝いている。大輝が描いた枯れない花は、憂鬱な日も明るい気持ちにさせてくれる。
天音は勉強机のコンセントからプラグを抜き、コードの反対側に刺さったスマートフォンを手に取る。少ない通知の中に、大事な用事はなかった。後で返事をすることにして、天音はスマートフォンを机に戻す。
そのスマートフォンの隣に、ずいぶんと異質なものが置いてある。しかし見慣れてしまった天音は、それを気にも留めず部屋を出る。匂いからして、今日の朝食は焼き鮭だ。
誰もいなくなった部屋で、その異質なものが日光に照らされる。カード型のそれは、天音ではない人物の学生証だ。平凡な顔に短い髪の、男性の写真が付いている。
それは中学校のものだが、天音が通ったところではない。隣の学区の「東中」と呼ばれる学校だ。
ところどころ傷ついた学生証の氏名は、「佐藤 大輝」だった。




