第33話 - かわいいのは認める
「だから、お前の仕事は情報収集だと言っただろう!!」
校門を入ってすぐのところで、ノエは上司であるマルコに怒鳴られる。周囲から奇異の目を向けられるが、誰もそれ以上踏み込んでは来ない。それが日本人の気質なのか、ノエとマルコがイタリア語を話しているからかは、ノエにはわからない。
ノエはうんざりして肩をすくめる。
「だって、あの赤い輝きを見たら悪魔だってわかるじゃないか。それ以上何を調べたらいいの?」
「その赤い輝きとやらが、お前にしか見えないから言っているんだ! 普通の人間には、その輝きは悪魔が力を発揮したときしか見えない。だから、全員が納得できる確かな情報が必要なんだ!」
「ボクには見えてるんだから、それでいいじゃん」
「本当にお前には見えていると、どうやって証明するんだ! 警察が一人の目撃情報を鵜呑みにして容疑者を殺すか!?」
ノエは呆れるように、両の手のひらを上に向ける。輝きが見えるノエには、見えないマルコの気持ちがわからない。そして納得させるのが面倒だから、ノエは自分で悪魔を祓いたくなるのだ。
「じゃあ、確かな情報って何? 羽生家の歴史? 力を使った痕跡? そんなのわかるわけないじゃん」
「だから孫に近づいて、ボロを出すよう誘導しろと言ってるんだ。それなのにお前は孫の友人の情報ばかり集めて」
「だってユイの方がかわいいんだもん」
「女に現を抜かしている場合か! これは仕事なんだぞ!?」
「本当にかわいいんだって。見たらマルコもわかるよ」
ノエはスマートフォンをポケットから取り出し、写真アプリを立ち上げる。昨日結衣に頼んで、一枚だけ撮らせてもらったのだ。
ノエは自慢げに、結衣とのツーショット写真をマルコに向ける。マルコはじっと写真を見ると、肩をすくめて首を横に振った。
「わかった。かわいいのは認める。たしかにこんなに愛らしい女性がいたら、口説かない方が失礼だ」
「でしょ!?」
「だが仕事は仕事だ。そのユイという女性を口説きながらでもできるだろう。その子が対象の友達なら尚更だ」
ノエは文句ありげに口をすぼめるが、反論はしない。たしかにマルコの言う通りだ。結衣に警戒されるから天音の話題を出さないが、結衣の情報を得る名目で天音に近づくことはできる。
(邪魔になるとしたらダイキだよね。彼は並みのエクソシストより強そうだ)
体育祭で大輝の走りを見たとき、ノエは驚いた。ただ足が速いだけではない。気迫のようなものがある。それも、アスリートが出すタイプではない。死線を潜り抜けた者が出す、殺気に似たものだ。
反論しないノエに満足げな顔をして、マルコは胸元にかけたサングラスを手に取る。
「とにかく、今日は悪魔の家族と接触できる数少ない機会だ。見つけたら偶然を装い話しかけろ。発信機はばれるからやめておけよ」
「はー……」
「はーい」と返事をしようとした、そのときだった。ノエの背中に、突然ぞくりと悪寒が走る。それはノエが初めて強い悪魔と対峙したときと同じ感覚だった。
(まさか……純血の悪魔!?)
ノエは慌てて周囲を見渡すが、それらしい気配はすぐに消えた。
(消えた……。力を使った? もしさっきの気配がドイツから逃げた悪魔なら、認識を阻害する力があるはず。もう気配はたどれないね)
ノエは赤い輝きを探す。それは気配を消そうが変わらないはずだ。認識を阻害されるのなら、見つからないかもしれないが。
(目……それが無理なら金髪のドイツ人を探せば……)
ノエは目を凝らす。マルコがずっと「おい、どうした! いたのか!?」と聞いているが、ノエの耳には入っていない。
そのとき、遠くに背の高い金髪の男が目に入った。
(いた! あれだ!!)
ノエはすぐに走り出す。マルコのことなど、頭からすっかり抜け落ちていた。




