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悪魔みたいにかわいい彼女は、本物の悪魔でした  作者: わしお


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第28話 - 本物の方が……

(はー、緊張する……)


 大輝は逸(はや)る鼓動を鎮めようと、胸に手を当てる。今日はいよいよ、ひまわりの絵の完成形を天音に見てもらう日だ。


 文化祭は二日間行われる。金曜日である今日は生徒しかいないが、明日は一般開放され、外部の人間も入ることができる。

 今日絵を見てもらうことになったのは、有馬の指示が理由だった。


「明日は校外の人間が入れる……つまり、ノエ・サントーロ以外のエクソシストが来る可能性があります。人の出入りが少ない美術室は、あまり安全とは言えません。今日中に見てきてください。他にも二人だけで行きたいところがあれば、回っておいてくださいね」


 たしかに、複数のエクソシストに狙われたら大変だ。大輝たちは素直に従うことにした。


(けど、いざそのときになるとドキドキするなぁ……)


 大輝は絵に自信がある方ではない。美術部員が描いた絵を並べたとき、大輝の絵は見劣りすると自分では思っている。

 それでも、頑張って描いた絵だ。見てもらいたいし、できれば喜んでもらいたい。


(途中経過の反応は悪くなかったし、大丈夫なはず!)


 自分にそう言い聞かせながら、大輝はカクカクした動きで廊下を歩く。右手と右足が同時に出ている気がするが、きっと気のせいだろう。

 隣を歩く天音は、いつも通り……いや、いつも以上ににこにこしている。間違いなく、相当楽しみにしている。


(期待外れだったらどうしよう……。いや、頑張ったよ? オレの中では自信作だし。でも頑張ったら上手く描けるわけじゃないし、技術が劣ってるのは一朝一夕じゃどうにもならないというか……)


 大輝は美術室に着くまで、ずっと脳内で言い訳を繰り返した。

 とうとう美術室の前にたどり着く。中からは人の声が聞こえ、思いのほか賑(にぎ)わっているようだ。


(二人きりじゃない方が安全でいいけど……ボロクソ言われてたらどうしよう……。胃が痛い……)


 しかし、ここまで来て引き返すわけにはいかない。大輝は意を決して、美術室に足を踏み入れた。


 嗅ぎ慣れた絵具の匂いを感じながら、大輝たちは絵を一枚一枚見ていく。一学期と夏休みを使って描いた作品からは、部員たちの強い思いや試行錯誤が感じられる。制作過程を知っている大輝は、「ここの色変えたんだ」「ここ描き足されてる」などの変化を楽しむ。人の絵を見る分には気楽だ。


「森くんって、こういう絵描くんだね」


 翔太の絵の前で立ち止まり、天音が興味深そうに言う。たしか『人間の脳内』と言っていたその絵は、最後に見たときよりカオス度が増している。そもそも抽象画が少ない中で、その絵は確実に浮いていた。

 大輝は苦笑いを浮かべる。


「なに描いてるかわかる?」

「タイトルが『思考』だから、頭の中とか考えとか、そういうことを描いてるのかな」

「よくわかるね」

「タイトルがなかったらわからなかったかも」

「オレはタイトル見てもよくわかんなかったよ」


 過去形で言ったが、今でもよくわかっていない。大輝は親友の謎が、また一つ深まった気がした。


 次の絵を見ようとして、大輝の足が止まる。翔太の絵のインパクトが大きすぎて、次が大輝の絵だということを忘れていた。


(翔太の次だと、普通すぎて見劣りするー!)


 大輝は自分の絵の埋もれ具合を見て思う。きっと誰の次でも同じ感想を抱く……ということには、気づかないふりをした。

 天音の目が大輝の絵に向く。大輝は祈るような気持ちで天音の反応を待った。


「わあ、きれい……!」


 天音は満面の笑みでそう言ってくれた。


「すごいね! 本当に外の景色みたい! 私が見たときと、ちょっと変わったんだね。光が増えたのかな? 透明感が増してる気がする」

「あ、うん……そう……」


 なんだか恥ずかしくて、大輝はぎこちない返事しかできなくなる。微妙な反応をされるよりいいが、褒められるのもむず痒(がゆ)い。

 天音は微(かす)かに頬を赤らめ、絵の中の少女を見つめる。


「この人、私がモデルなんだよね。すごく美化されてて、ちょっと恥ずかしい……」

「えっ、いや、本物の方が……」


 綺麗、と言いかけて、大輝は慌てて口をつぐむ。他の生徒もいる中でこんなことを言うのは恥ずかしすぎる。

 しかし、天音には伝わったのだろう。天音は顔を真っ赤にして目を伏せた。


「あ、えっと……ありがとう」


 その笑顔は、少しぎこちない。大輝も頑張って笑顔を作るが、同じようにぎこちないだろう。


「この絵、展示が終わったらどうするの?」


 天音に問われ、大輝は返事に困る。本当のことを言うと家に持って帰って捨てるのだが、あの反応を見た後で「捨てる」とは言いづらい。


「家に持って帰って、押し入れにしまうかなー……」


 大輝は適当な嘘をつき、天音から目をそらす。天音は嘘に気づく様子もなく、「そうなんだ」と絵を眺めている。


「佐藤くんとご家族がよければ、私の家に飾ってもいい?」

「えぇ!?」


(あのでっかい家に、オレの絵が……!?)


 羽生家といえば地主の家系だ。天音は本家筋ではないと聞いているが、それでも屋敷と言っていいほど大きな家に住んでいる。そこに大輝の絵が飾られるなど、場違いすぎる。


(さすがにそれは羽生家によくないんじゃ……)


 そう思って天音を見ると、その目は不安に満ちている。大輝の反応を見て、断られると思ったのだろう。


「まあ、羽生さんがよければ……」


 結局、大輝は天音の視線に押された。そんな子犬のような目をされたら、駄目とはとても言えない。

 大輝の答えに、天音の表情がぱっと明るくなる。


「ありがとう! 大事にするね!」


 キラキラと輝く笑顔は、本当に嬉しそうだ。大輝は照れくさい気持ちになりながら、小さくうなずいた。

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