↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔みたいにかわいい彼女は、本物の悪魔でした  作者: わしお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/61

第25話 - 話してよかった

「それから殴るのをやめたんだ。『なんで殴っちゃダメなのか』の答えが、なんとなくだけどわかった気がしたから。今でも揉め事見かけたら止めるけど、誰も傷つけないように気を付けてる」


 ザッザッと砂を踏む音が響く。長くなると思っていた昔話は案外短く、教室からグラウンドに足を踏み入れるまでの、ほんの数分で終わってしまった。あと話せることと言ったら、大輝に臆せず話しかけてきた翔太のことくらいだ。


(まあ、翔太は小学校から一緒だしな……。話すことでもないか)


「幻滅した?」


 大輝は笑顔を作って天音を見る。いつの間にか大輝の小指を握っていた天音は……泣いていた。


「えっ、ちょ、大丈夫!?」


 まさか泣き出すとは思わず、大輝は慌てて立ち止まる。ポケットからハンカチを取り出して天音の目元を拭うと、天音は小さくうなずいた。


「うん、大丈夫……。ごめんね、心配かけて」


(あ、『ごめんね、別れてください』って言うかと思った……)


 覚悟していたはずなのに、『ごめん』と言われるとやはり怖くなる。大輝はバクバクと鳴る鼓動を感じながら、涙にぬれたハンカチをポケットにしまう。


「オレの方こそ、ごめん。怖かったよな」


 大輝は天音が泣いた理由を、怖かったのだと解釈した。自分のことだから普通に話せるが、客観的に見て、大輝の行動は恐ろしいだろう。

 しかし天音は、ふるふると首を横に振る。


「違うの。怖かったんじゃなくて……」


 天音は大輝の顔に手を伸ばし、左目の近くにそっと触れる。


「痛かったよね……」


 その行動に、大輝は少し違和感を覚える。たしかに、目を殴られて痛かったのは間違いない……はずだ。正直、あまり覚えていない。しかし傷ついた部位は他にもあり、ただ後遺症が残ったのが左目というだけだ。痛みの度合いでいったら骨折の方が痛かった。


(でもまあ、話に出てきたのは目だけだもんな……)


 だから目を心配したのだろう。そう解釈し、大輝はぽりぽりと頬を掻く。


「殴ったら殴り返されるのは当たり前だし。自業自得だよ」


 その大輝の言葉に、天音は何か言いたげに口を開く。しかし、何も言わずに閉じてしまった。

 天音はうつむき、大輝の左手をそっと握る。少し震える手に、大輝は目を細めて笑う。きっと本当は怖いけれど、強がっているのだろうと思った。


「……別れたくなった?」

「ううん」


(あ、違うんだ)


 あっさりと否定されて、大輝は恥ずかしくなる。先ほどの『……別れたくなった?』は、少し格好つけたトーンだった。


(え、じゃあなんだろ……。ていうか、本当に別れなくていいの? オレ、まだ羽生さんとつき合えるの?)


 半信半疑になりながら、大輝は天音のつむじを眺める。右巻きだ。


「あのね、佐藤くん」


 天音の手に、ぎゅっと力がこもる。


「私も、佐藤くんに言わなきゃいけないことがあるの」

「え……」


(悪魔ってこと以外に?)


 大輝は思わずきょとんとする。このタイミングで言うということは、結構大きなことだろう。しかし「実は悪魔です」以上の告白など、今後の人生で出会わない気がする。

 大輝は天音の顔を覗き込もうとするが、天音はうつむいたまま、顔を上げる気配がない。


「言わなきゃいけないんだけど……まだ、勇気が出なくて。いつか絶対に話すから、それまで待っててくれる?」


 天音の手の力が強くなっている。本当に、強い思いを秘めた何かがあるのだろう。

 大輝は天音の手に、自分の右手をそっと重ねる。


「うん。待つよ。羽生さんが話したくなるまで」


(羽生さんが、待っててくれたみたいに)


 それを言うとまた格好つけてしまいそうで、大輝はぐっと我慢する。天音は顔を上げ、潤んだ瞳をふっと細めた。


「ありがとう」


 安心するようなその笑顔に、大輝もつられて微笑む。フラれるのではないか、幻滅されるのではないかという不安は、全て溶けていった。


 天音が大輝の手を放し、指を絡めてつなぎ直す。ベンチが近づくにつれ、体育祭の喧騒(けんそう)が大きくなってきた。

 大輝は握った手に力を込める。


「ありがと、受け止めてくれて」

「ううん。私の方こそ、話してくれてありがとう」


 そう言った天音の顔に、無理をしている様子はない。大輝は「話してよかった」と、心から思った。

 大輝は吹っ切れた気持ちでグラウンドを見る。始まったばかりだと思っていた体育祭は、いつの間にか昼休みに入ろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。