第13話 - デートは二人で作るもの
展示を見終わった大輝たちは、駅の近くの店でとんかつを食べた。大きなカツとエビフライをぺろりと平らげた天音は、見かけによらず大食いなのかもしれない。学校に持ってきている大きな弁当箱で察していたが。それでも上品に食べる様子に、育ちの良さが感じられる。
大輝のデートプラン的には、脚を休ませられるように映画を観る予定だった。しかし天音の希望を聞いた方がいいと思い直し、大輝はデートプランを書いたスマートフォンの画面を閉じる。
「次、行きたいとこある?」
「動物園とかどう? せっかく上野に来たし」
「たしかに。行こっか」
大輝たちは自然豊かな公園を歩き、動物園に向かう。天音の華奢なヒールでは疲れるのでは……と思ったが、天音が脚を気にしている様子は、今のところない。ただ表情に出ないだけなのか、それとも悪魔の脚が強靭なのかは不明だ。
動物園に入り、大輝はマップを広げる。敷地は西園と東園に分かれており、どうやらここは西園らしい。
「羽生さんの好きな動物ってなに?」
大輝はさりげなくそう聞いてみる。実は、天音について大輝が知っていることは少ない。天音は自分の話をあまりしないのだ。聞けば答えてくれるから、隠しているわけではないと思うのだが。
「ハシビロコウ!」
迷いなく返ってきた答えは、案外渋かった。
「えっと……あの動かない鳥だっけ」
「うん! ここにもいるよ」
マップを見るとちょうど西園にいるようで、二人はハシビロコウの展示スペースに足を運ぶ。そこにはぼんやりした記憶どおりの、鋭い目つきの大きな鳥がいた。
「けっこうデカいんだ」
「うん。一メートルちょっとあるんだって」
「へぇー。ハシビロコウのどういうところが好きなの?」
「顔! かっこいいよね!」
「そうだね~」
(かっこいい……か?)
笑みを浮かべながらも、大輝にはハシビロコウのかっこよさがあまり理解できていない。鋭い視線は睨んでいるようにも見え、どちらかというと怖い。
(すっごい淡々と問い詰めてきそうな雰囲気あるけどな……。有馬先生の第一印象みたいな。いや、それなら“かっこいい”に入るのか?)
大輝は“かっこいい”の定義に悩む。少なくともこの顔が天音の趣味なら、大輝の顔はタイプから大きく外れている。
少し悲しい気持ちになりながら、大輝は目の前の鳥をじっと見つめる。青いような灰色のような羽は、ただ風に揺られるだけで大きく動く様子はない。
「本当に全然動かないんだ」
「動かないのはね、魚を待ち伏せしてるからなんだって。ナマズとかハイギョとか、けっこう大きい魚を食べるんだよ。羽が水を弾くようになっててね、それは羽をくずした粉を塗ってるからなんだって。ハシビロコウはペリカンの仲間で……」
(本当に好きなんだな)
天音がこんなに喋っているところを、大輝は初めて見た。いつもは天音が質問して、大輝が答えて、それを天音が掘り下げるのがお決まりのパターンだ。
(ひまわりが好きな理由も、聞いたらこれくらい喋ってくれるのかな)
夢中でハシビロコウのことを語る天音を見ながら、大輝はそんなことを考える。やっぱり、好きな人のことはもっと知りたい。
天音がハシビロコウから大輝に視線を移す。大きな瞳と目が合い、大輝は自分がハシビロコウではなく天音を見ていたことに気づく。
天音は顔を赤くし、恥ずかしそうにうつむいた。
「ご、ごめんね。私ばっかり話しちゃって。楽しくなかったよね」
「ううん。羽生さんが楽しそうだと、オレも楽しい」
素直にそう口にしたとき、大輝は先ほどの美術館での天音の気持ちに気づく。天音が大輝を見ていたのは、今大輝が天音を見ていたのと同じ理由ではないだろうか。
(楽しんでる人を見てると、自分も楽しくなるのか)
もし本当に天音も同じことを思っていたなら、大輝が早く展示を回ろうとしたのはまったく意味がない。大輝は少し前の自分の考えに苦笑する。
(相手のことを考えるって、相手に合わせるだけじゃないのか……。難しいな)
そう思いながらも、嫌な気はしない。大輝の目元には、自然と笑みが宿っていた。
それからしばらくハシビロコウの魅力を聞いた後、大輝たちは少し駆け足で動物園を回った。広い園内を全て見るには時間が足りない。
最後にショップに入り、大輝はハシビロコウのぬいぐるみを天音にプレゼントする。四十センチ以上あるぬいぐるみは高校生の財布に優しい値段ではないが、初デートの思い出にはいいだろう。何より、天音が嬉しそうにしていると大輝も嬉しい。
「ありがとう、佐藤くん! また来ようね!」
天音に微笑まれ、大輝は嬉しいと同時に安心する。考えてきたデートプランからは大きく外れてしまったが、天音に楽しんでもらえたなら、それが一番だ。
(デートって、二人で作るものなんだな)
翔太の姉は違ったのかもしれないが、少なくとも天音とのデートはこれが正解だと大輝は思う。大輝は天音と手を繋ぎ、夕日に照らされる駅に向かって歩き出した。




