第11話 - イマキタトコダヨ
そわそわした気持ちで、大輝はショルダーバッグの紐を握りしめる。約束の時間までまだ十五分あるが、それまで心が持ちそうにない。
あの日天音から来た返事は、「うん。楽しみにしてるね」だった。楽しみにされたからには、万全の準備を整えなければならない。
翔太と翔太の姉に手伝ってもらい、服やデートコースも考えた。ボタニカルなシースルーシャツは、自分一人では絶対に選ばなかっただろう。無地のTシャツの上に羽織るにはちょうどいい。サンダルもおしゃれなものにした。
翔太の姉からはいろいろなアドバイスをもらった。が……
「集合時間に遅れるな」
「彼女がヒールを履いてきたら長く歩かせるな」
「薄い色の服なら汚れに気をつけろ」
「髪型やメイクに気づいて褒めろ」
「ぼさぼさの髪で行くな。寝ぐせがあるとか論外」
「買い物の荷物は持ってやれ」
「食事は奢ってもいいが、引け目を感じる人もいる。提案はしても無理に通そうとするな」
……他にも言われた気がするが、数が多くて覚えられなかった。正直、テストより大変だ。
大輝は何度もスマートフォンの時計を見る。緊張しすぎて心臓が爆発しそうだ。
「佐藤、デートかぁ?」
「頑張れよ~」
「失敗してフラれてこい」
駅に入っていく同級生の声は、聞こえているが頭に入らない。いっそ殺してくれと思いながら、大輝は大きく深呼吸した。
そのとき、光り輝く美しい少女の姿が目に入る。水色のワンピースがふわりと広がる様子は、まるでおとぎ話のお姫様のようだ。
少女は亜麻色の髪を揺らし、眩しい笑顔で大輝に駆け寄る。
「佐藤くん! ごめんね、待たせちゃった?」
「う、ううん! イマキタトコダヨ!」
咄嗟についた嘘は、テンプレすぎてバレバレだっただろう。しかし天音は追及せず、ほっと息をつく。
「そっか。それならよかった」
(え、バレてない?)
……天音が本当に気づいていないのか、大輝に気を遣ったのかはわからない。
「てか、羽生さんも早くない? まだ十五分前だけど……」
「えへへっ。楽しみで、つい早く家を出ちゃった」
いつもより少し子供っぽい笑顔に、大輝はつい見とれてしまう。合流する前に考えていた髪型やメイクの話は、全部頭から吹き飛んだ。
「じゃあ、ちょっと早いけど行こっ」
「あ、うん!」
天音に手を引かれ、大輝は慌てて足を踏み出す。いつになく積極的な天音は、どうやらかなり浮かれているようだ。
(本当に、楽しみにしててくれたんだ)
そう思うと、大輝もだんだん楽しみになってくる。吐きそうだった胃袋は収まり、心臓は別の意味で早鐘を打つ。
天音のサンダルのヒールだけ確認し、大輝は駅の改札をくぐった。




