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現代魔女はダンジョンに潜る  作者: 齋藤 真白
第1章 青春ダン活編
9/11

第9話 準備が一番楽しいタイプ

 ダンジョン第五層。

 一枚目のプレートにかたどられた第十層までの、ちょうど真ん中の中間地点である。


 ここまで来ると往復だけで時間を使ってしまう。さらにその先、第六層以降に進むならなおさらだ。

 そのため、探索者協会は第五層の入り口付近を中継キャンプ地として運営している。

 こういう場所では大抵のものが高い。それはもう高い。

 お金ではなく魔石を通貨として扱えば、いくらかお得ではあるものの、それでも赤字になりかねない。


 キャンプギアを自前で揃えるには当然のようにお金がかかるし、荷物が増えるので探索での稼ぎもその分減ってしまう。

 一応キャンプ地でレンタルもあるけれど、超強気価格なのはともかく、どういう使われ方をされてきたのか不安はある。

 うら若き乙女としてはシャワーも浴びたい。温水が出るアイテムが設置されたシャワーブースもあるものの、やはり価格はアレだし競争率も高い。


 おそらく、わたしたちはいきなり順調に進みすぎた。そのせいで、普通なら第五層に到達するまでに貯まっているはずの軍資金が足りなくなっている。

 第四層のフロアボスまでは無事に突破したものの、第五層で活動するための元手が足りず、十全に活動できない状態になってしまったのだ。

 あるいは社会人なら貯金を切り崩すという道もあったのかもしれないけれど、わたしたちはしがない学生なのだった。

 茜ちゃんが親に頼んでみると言い出したときは三人がかりで止めた。


 ちなみに、わたし一人のソロ探索ならこのあたりは全く問題にならない。

 そもそもわたしは空を飛んで移動している。モンスターにも気づかれないし、ちょこちょこ倒しつつ進んでも短時間で第五層に到着できる。

 なので今のところキャンプとは無縁である。

 第五層より先もそこまで気にしなくていいだろう。第十層まで踏破すれば第一層までショートカットできるようになるので、復路を気にする必要がなくなる。


「こっちは集めました」

「サンキュー」


 そういうわけで、今は第四層で金策集中期間だ。

 わたしはドロップアイテムを拾い集めつつ、ソロ探索で得た魔石を少しずつ紛れ込ませている。


「やっぱり四層ってだいぶ稼げるね。もう魔石がこんなに」

「そ……ですね」


 ……少しずつ、紛れ込ませている。

 塵も積もればなんとやらなのか、慣れてきて調子に乗って量を増やしてしまったのか。

 たぶん、どちらも合っているだろう。


 なんとかドロップ率の上振れだったということにしたい。でないと、胸が痛い。



 ---



「目標まであとちょっとだな」

「あと一日こもればいけるかも」


 金策期間にも終わりが見えてくる頃になったある日。

 その日の探索および査定を終え、パーティ資金を含めた分配作業中のこと。


 遥香ちゃんがスマホに数字を打ち込んでいる横で、わたしはテーブルに広げられたダンジョンキャンプギアのカタログを眺めていた。


 中継キャンプ周りはモンスター()けのアイテムが設置されているとはいえ、イレギュラーでも起こればどうなるかわからない。

 それだけでなく、ダンジョン内のキャンプにいるのは全員人間離れした能力を発揮する探索者だ。人間同士のトラブルや誤射だってあるかもしれない。

 そもそも今後中継キャンプ以外の場所で野宿する可能性だってゼロではない。


 諸々の理由で、普通のテントではなくダンジョン産素材を使用した頑丈なテントが必要なのだ。


「そっちはどう? 候補(しぼ)れた?」

「一応予算内で三つほど」


 遥香ちゃん以外のメンバーはといえば、最初に決めた価格帯の範囲でどのテントにするか候補を探していた。

 安全性は担保した上で、持ち運びやすさ・組み立てやすさ・快適性をそれぞれ重視したものをリストアップしてある。


「へぇ、どれもよさそう」

「一応口コミも見てみます」


 カタログスペックに表れないメリット・デメリットを調べるとき、わたしはSNS――特にTwiX(ツイックス)の口コミを参考にしている。

 メーカー名と商品名を検索して、PR案件を除いてみると、どれもまあまあ好評のようだ。

 少なくとも「組み立てやすさを売りにしているのに実は組み立て難易度が高い」なんて詐欺商品ではなさそうである。


「問題なさそうですけど、もう少し見てみますね」

「おっけー」


 何かをおすすめしたりレビューしたりしてバズったポストには、「それよりこっちの商品の方がいい」と口を出す人がいるものだ。

 有益情報かもしれないのでそちらもチェックしておく……けども、大抵は予算オーバーだったり、コスパは良くても安全性が削られていたりする。

 適当な商品のアフィリエイトリンクだったときなど最悪だ。これは元のレビューにも同じことが言えるので注意。


 わたしが魔法を使えば安全面はクリアできる。しかしこのテントはリーダーかつ進学後も実家に残る遥香ちゃんが引き取ることになっているのだ。

 わたしがいないときに使うことだってあるはずだ。あらゆる物事について、わたしありきで進めてはいけない。


 そんな気持ちでリプ欄を漁っているうち、一番最後のリプライまで辿り着いたらしく、下部におすすめ関連ポストが表示された。


『次は地元に帰るついでにオオミヤダンジョンに潜る予定です(*'▽') 楽しみだー』


 今はオオミヤダンジョン前の協会支部にいるので、位置情報が連携されているのかもしれない。

 それにしてもやたらと反応が多い。有名な探索者の人だろうか?


「やっぱり組み立てやすいのが一番じゃない? 広くても軽くても使えなかったら意味ないよ」

「おれ何度かキャンプ行ってるから、普通に組み立てられるやつならおれが教えるよ。それよか広い方が絶対いいと思う。荷物で場所とるだろ」

「でも、はるちゃんやちーちゃんが運ぶんですよ? あんまり大きいのはちょっと……」


 おっと、関係ないポストを見ている場合じゃなかった。


「わたしはいくらでも運べるので心配しなくていいですよ」

「ほ、他にも着替えとか寝袋とか食料とか用意するんですよ? 本当に大丈夫なんですか?」

「魔道士型でもそれなりに力はついてるので」


 むきっと力こぶを誇示するポーズをしてみせるものの、まあ当然そんなものはない。

 でもダンジョン内での身体能力が上がっているのは事実だ。探索者とはそういうものなので。


 それにわたし自身は荷物にはさほど困らないし。


「あたしもそんなにヤワじゃないから平気平気!」

「ならいいんですが……」

「それよりテント! 那月ちゃんが組み立てわかるなら、広いのでもよさそうだね」


 三つの候補のうち、快適性――というか広さを重視したものに軍配(ぐんばい)が上がりつつあるようだ。

 予算や一パーティごとのスペースの問題があるので、広々ゆったりというわけにもいかないけれど、寝る時くらい余裕があった方がいい。


「次のダン活は中継キャンプの下見にしようぜ。前はちょっと見て引き返しただけだったし。そんでこの大きさで良さそうだったら決まりな」

「うん、それがいいね」

「まーダンジョン用だし、その辺は大丈夫だろうけど」


 そんな那月ちゃんの提案にみんな賛成したところで、今日はお開きとなった。


 大宮駅までみんなで移動し、それぞれの改札をくぐり、それぞれの駅で降り。今はわたしひとりだ。


「……んー」


 なんとなく、さっきちらっと見たポストが気になって、TwiXを開く。有名人が来るなら急に混みあうこともあるかもしれない。

 けれど既に口コミのポストは閉じてしまっていて、そこに紐づいていた件のポストも見つからなかった。アカウント名も覚えていない。

 キーワード「オオミヤダンジョン」で検索をかけても出てこなかった。ポスト自体を削除した可能性もある。


「……まあ、いっか」


 出入口が混むくらいは許容できる。中に入ってしまえばどうとでもなるだろう。

 件のポストのことを頭の隅に追いやり、購入予定のテントの商品ページを開く。


「んふっ」


 キャンプ。友達とキャンプ。

 今までも少なからず友達付き合いはあったけれど、こんなのは初めてだ。楽しみすぎて変な笑いが漏れた。

 決して広々とは言えないテントの中で四人で寝袋を並べて、ほのかな明かりの下でいろんな話をする。なんて青春らしいんだろう。


 最初からソロで探索者をやっていたら、一生経験せずに終わっていたかもしれない。

 今のパーティに入れてよかったと心から思える。


 浮かれたわたしはスキップしたい気持ちを抑えながら帰路に就くのだった。

 玄関のドアを閉めたあと、くるりと一回転したのは内緒である。

活動報告にて、芒原 茜のイメージ画像およびプロフィールを公開しています。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3057657/blogkey/3633242/

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