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現代魔女はダンジョンに潜る  作者: 齋藤 真白
第1章 青春ダン活編
10/11

第10話 足音

 世の受験生たちが前期日程試験に向けて必死の追い込みをかけている今日この頃。

 気楽な推薦入学組であるわたしたちは、オオミヤダンジョン第五層の中継キャンプの下見のため、少し早い時間に集合していた。


「やっぱり休日は人多いねー」

「それにしてもいつもより多いような……」


 思い出されるのは先日のTwiXのポストだ。

 やっぱり野次馬的な人が増えているのだろうか。


「なんか有名な人がここのダンジョンに来るって話聞きましたよ。誰なのかとか具体的にいつなのかとかはわかんないですけど」

「へー。すんなり入れんならいいんだけどな」


 周囲に視線を巡らせると、心なしか撮影機材らしきものを抱えている人がいつもより多いように思う。

 ごっついビデオカメラとか、撮影用ドローンとか。

 ……まだダンジョンの外だし、こんなに人がいるのに、もうドローンが飛んでいる。ルール違反じゃなかったっけ。


「なんか居心地悪いね。早くあたしたちの番にならないかな」


 個人的には、ゲートを潜ったところでカメラがいなくなるわけではないように思えるけれど、今言うことでもないので黙っておく。

 実際、ゲートの待機列に並ぼうともしない人たちも結構いるわけだし、少しはマシになるだろう。


「いつもより手早く入場手続きしてるみたいですし、きっとすぐですよ」


 そんなふうに返した直後に、列が大きく前に動く。少し前にいるのが団体さんだったらしい。

 ダンジョン内での経験値は戦闘に参加した人数で等分され、効率がいいのは五人パーティまでとされている。ボス戦ならともかく、最初からあんな大所帯で動くのは珍しい。

 少し様子を見てみればよかったかなと思ったけれど、既に最後の一人がゲートを潜ったあとだった。


 会話が途切れたので、この隙にSNSでこの状況を調べてみる。最近はSNSよりキャンプのことばかり調べていたのでご無沙汰だ。

 検索をかけるまでもなく「オオミヤダンジョン」がトレンドになっていたのでタップしてみると、やはり有名な人が来るという噂のせいでファンが押しかけているようだ。


「ねえ、『ヒルデ・フォルスター』って知ってます?」

「え、確か世界一若いBクラス探索者さんでしょ? わたしたちの一個上の」

「その人が来るんじゃないかって、噂で」

「……宣言したんじゃなくて、噂でこれ?」

「そりゃまたすごいな」

「すごいですねぇ……」


 みんながげんなりとしている一方、わたしは件のアカウントとヒルデ・フォルスターを結びつけることができなかった。

 もう少し追ってみると、どうやらこういうことらしい。


 わたしがこの間見かけた「次はオオミヤダンジョンへ行く」というポスト。あれは日本で今成長株と話題(わたしは知らなかったけど)の探索者のアカウントだった。

 ポストは結局消されたものの、既にある程度拡散されたあとだった。その人が次の探索――高確率でこの週末に、オオミヤダンジョンの攻略を始めることが知れ渡る。


 それだけならこんなことにはならなかったのだけれど、問題はそのあとだった。

 Bクラス世界最年少にして圧倒的美人な超人気探索者、ヒルデ・フォルスター。彼女の目的が実はそのアカウントの持ち主だったらしい。

 そういえばそんな肩書の探索者が来日したとかいうニュースを見たような気がする。


 そして、どういう経緯かはわからないけれど、彼女は件のアカウントの持ち主とパーティを組んだとか。

 だからオオミヤダンジョンに張り込めば、ヒルデ・フォルスターに会える……と話題になった結果が、これというわけだ。


 軽率に情報を漏らしたりして、なんとも迷惑な話だと思う。実際そういうコンプラ意識とか嫉妬とかで軽く炎上したらしい。


「ファンなのはわかったけどさ、だったら関係ない人にカメラ向けるのやめてくれないかなあ」


 ごもっともである。



 ---



 やっとの思いでゲートを潜ったものの、その先の広場にも相変わらず出待ち勢がひしめいていた。

 外にいるのはライセンスを持たない人たちで、探索者はこっちで待っているという感じだろうか。


 みんなが狭い空間でいそいそと装備を整えているなか、わたしは相変わらず最初に買ったメーカー製の装備のままなのでやることがない。人ごみの中にいても邪魔になるので、先に外側で待っていることにした。

 オオミヤ支部から何かアナウンスがないかと思ってスマホで確認してみると、やはりライセンスを所持していない人や探索目的でない人の入場を制限することが決まったらしい。

 外にいる非探索者の野次馬はそのうち追い出されるだろうし、いつまでもここに留まっている探索者にも警告が入るだろう。


「千世ちゃんお待たせ!」


 いつもより手早く準備を済ませたみんなが、人ごみをかき分けてやってくる。茜ちゃんの鎧がなんとなくずれているのは見ないふりをした。


「早速行こう。五層のキャンプまで一直線で!」


 遥香ちゃんの号令を合図に出発する。

 いつもは第四層までのルート近くにフロアボスのポップ(候補)地点があれば寄り道してみたりするけれど、今日はそういうのはなしだ。第四層でも遭遇戦以外の戦闘はできるだけ避ける。


 第一層のモンスターはもう敵にならず、第二、第三、第四と何事もなく辿り着く。

 真面目に探索しに来た人たちの数はそこまで変わらないので、モンスターの様子にも変化はない。

 わたしたちより前にまっすぐ階段へと向かった人たちによって、ルート上のモンスターはある程度片づけられている。ありがたいことだ。


 ことが起こったのは、もう少しで第五層への階段に辿り着こうというタイミングだった。


「……ちょい待ち。何か聞こえた」


 周囲を警戒していた那月ちゃんがそう言って足を止める。

 耳を澄ませてみると、確かに人の声がした。普通の会話ではなく、言い争っているような。


 ただの喧嘩なので放置して遠回りした方がいいのか、それとも救援が必要な状況なのか、判断するためにも聞き耳の魔法を使う。

 聴力を上げるのではなく、音を風に乗せて届ける魔法だ。これでわたし以外、少なくとも耳のいい那月ちゃんには聞こえるだろう。


『――だから、いらないって言ってるでしょ!』

『そんなこと言わないでよ、女の子二人だけなんて危ないって』

『俺らに任せとけば大丈夫だからさぁ』


 ……なるほど、強引なナンパらしい。とりあえず今すぐ命の危険があるというわけではなさそうだ。

 声の方角にはフロアボスのランダムポップ候補地点がある。下心以外にも、フロアボス戦に便乗したい意図もあるのかもしれない。


「女子二人が男複数に絡まれてるっぽい。どうする?」

「……ほっとけないね。助けに入ろう。スマホで録画よろしく」


 リーダーである遥香ちゃんの言葉にみんなで頷き、声の方向へと走り出す。

 わたしはスマホのカメラをビデオモードにしつつ、相手に話が通じなかったときにどうやって追い払うかに意識を移すのだった。



 

 ★★★


【Tips: ダンジョンにおける動画配信文化】

 ある程度の規模のダンジョンでは、探索者協会によってネットワーク環境が整備されている。

 通常のインターネットとは異なり、探索者協会の提供するサイト・アプリは快適に利用できるものの、それ以外での利用は一部制限されている。

 最下位のクラスDでは通信速度が遅く、動画の視聴すらできないが、クラスアップするにつれてより多くの帯域を使用する権限が与えられ、できることが多くなる。

 その中でも目玉はクラスBから開放されるライブストリーミング機能であり、実力の保証された「D(ダンジョン)ライバー」によるダンジョン配信は、探索者のみならず一般人からも人気のコンテンツとなっている。

 一方で、配信許可のないクラスB未満の探索者たちは、動画を収録・編集して外部サイトに公開することでDライバーに対抗している。過酷なレッドオーシャンではあるものの、ニッチな需要によってファンを抱えている動画配信者も少なくない。

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