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現代魔女はダンジョンに潜る  作者: 齋藤 真白
第1章 青春ダン活編
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第11話 ヒーロー登場

「しつこいわね、もう!」

「お、お姉ちゃん……もう他のところ行こうよ」

「先にこのボスを見つけたのは私たちなのよ! なんで譲らなきゃいけないわけ!?」


 探索者同士のトラブルの気配を察知し、声の方向へ走っているうちに、聞き耳の魔法で全員にはっきりと内容が聞こえる距離まで来た。

 お姉ちゃんと呼んでいるし、気の強い姉と真逆の妹といったところだろうか。


「あのさぁ、俺たち親切で言ってるんだぜ? ボスに負けそうになっても逃げられないのわかってる?」

「知ってるに決まってるでしょ! どうやってこの階層まで来たと思ってるの!?」


 いつだかに遥香ちゃんが言っていた通り、知らない人とフロアボス戦の閉鎖空間に閉じ込められるのはリスクがある。

 光の膜が現れる前に召喚陣に踏み込んだら別パーティでも一緒になってしまう。それで身の危険がなかったとしても、戦闘に参加した以上経験値も等分される。

 悪質行為とされてはいるものの、ボス前まで来られてしまっては対策しようがないのが実情だ。


 ただし、そんな行為をしていると触れ回られたら都合が悪いのもまた事実。


「すみません、その人たち嫌がってますよね。無理やりパーティに入れようとするのも、ボス戦に混ざろうとするのもマナー違反ですよ。録画してます」


 遥香ちゃんが毅然(きぜん)とした態度で割って入る。何かあったときにすぐに前に出られるよう、茜ちゃんと那月ちゃんがそれぞれ盾と得物(えもの)を握りしめる。

 わたしは……もう一人のスマホ係だからなあ。杖でも取り出しておこう。


「は? 何だよ……うわっ、かわいーじゃん!」


 その台詞に遥香ちゃんの肩がひくりと震えたのを、わたしは見逃さなかった。


「マジか。こっちの方が全然いいっしょ」

「それなー!」


 あまりの言いように唖然(あぜん)としてしまう。さっきまで絡まれていたお姉さんの方など顔を真っ赤にして震えている。

 それにしても、こちらはわたしたち四人と姉妹の二人で六人。対してあちらは四人パーティのようだ。

 人数差は逆転しているというのに、全く余裕を崩していない。よほど探索者としての自信があるのだろうか。


「とりあえずそのスマホしまってよ。俺らは女の子がむざむざ死んじゃうかもしれないのを見過ごせないだけなんだからさ」

「そーそー。何なら君らも一緒にどう? ここのボス」

「……ボスを見つけたのはあなたたちじゃないし、四層のフロアボスは何度も倒してます。経験値が減るだけじゃないですか。いりません」

「そう言わずにさぁ」


 男たちの一人が肩に手でも回そうと遥香ちゃんに近づいたところに、那月ちゃんがさっと割り込む。


「おい、触んな」

「あ? ……あーね、なーんだ女じゃん。男かと思ったわ」

「いやそれな!」

「もうちょっと女の子らしくした方がいいぜ~?」


 馬鹿にしたように笑われている那月ちゃんの顔は、ここからじゃ見えない。遥香ちゃんのようにわかりやすい反応はなかった。

 わたしも初対面で男の子かと一瞬勘違いしたので人のことは言えないけれど、それでも友達があんなふうに笑われて、気分がいいわけがない。


 容赦はいらないだろう。

 どうやってこの場をおさめようかずっと考えていたけれど、四人仲良く尊厳を失ってもらうことにする。


「後ろの子たちも結構可愛いじゃん」

「げっお前ロリコンかよ。ひくわー」

「ちょ、眼鏡の子の方だって」


 えい。


「そっちの二人が気になるなら君らも一緒にプレート取るの手伝ってあげようよ。そんで帰りにさぁ――ヒッ!?」


 わたしが魔法を使った、その瞬間。男の目の前を何かが(かす)めていった。


「ちょ、なに……おい、なんで、待っ……!」

「うおっ……うわ、きたね」

「……わぁ」


 四人そろってズボンを濡らしているその光景に、那月ちゃんと遥香ちゃんが後ずさる。さすがに気の毒に思ったのか遥香ちゃんはスマホでの録画をやめていた。わたしは続けてるけども。

 それにしても、わたしもびっくりした。人体をどうこうする魔法は繊細(せんさい)なんだから、いきなり何かを飛ばしてくるとかやめてほしい。尊厳を破壊したいだけで後遺症を残したいわけではないので。


 飛来物は氷の槍だった。

 飛んできた方向を見てみれば、こちらに杖を向けている女の人と、そのパーティメンバーらしき人たちがいる。


「……ヒルデ・フォルスター?」


 ついさっきSNSで写真を見かけたばかりの、雪のように白いゆるふわロングヘアの美人さん。

 世界最年少のBクラス探索者がそこにいた。


「そこまでだ」


 パーティの中から男の人が一人駆け寄ってきて、わたしたちを庇うように前に出る。


「詳しい事情は知らないが、一旦――ん? ……あー、えっと、大丈夫か?」


 背中と声から困惑が感じ取れる。

 それはまあそうだ。四人そろって漏らしてるんだから。


「……はわ……」


 尊厳を失ったナンパ男四人組、ドン引きする遥香ちゃんと那月ちゃん、半ば置いてけぼりの姉妹二人、突然割り込んできた件のパーティ。そして隣で目をハートにしている茜ちゃん。

 そして、この騒ぎを前にして未だに眠り続けているのんきな巨大リス(フロアボス)

 どうしてこうなった。カオスすぎる。前半についてはわたしのせいだけど。


「…………先輩?」


 そんな混沌を極めつつある空気の中で、遥香ちゃんが小さく呟いたのを、わたしは聞き逃さなかった。



 ---



 結局ナンパ男たちは情けない姿で逃げていった。

 まあ、突然四人で漏らすよりも、スペル攻撃にビビッて漏らす方がマシだったかもしれない。運のいい(やから)だ。


「あ、あの! 助けてくれて、ありがとうございました!」


 絡まれていた姉妹の妹さんの方が、勢いよく頭を下げる。ヒルデ・フォルスターに。

 ……いや、まあ、いいんだけども。


「……助けようと言ったのはマサミツ。ワタシはムカついたからスペルを撃っただけ。感謝ならマサミツにして」


 少々ぎこちないけれど、思ったよりは流暢(りゅうちょう)な日本語のヒルデさんは、唯一の男性を見ながら水を向ける。


「ああ、えっと……神林(かんばやし) 正光(まさみつ)です。みんな無事でよかった」

「やっぱり先輩じゃん!!」


 こちらを振り返りながらのその台詞に、「あ、わたしたちも助けられた判定なのか」とか思っていると、遥香ちゃんが大声をあげた。……知り合い、かぁ。


「えっ、遥香!? お前も探索者になったのか!」

「先輩こそ!」


 あわやその場の全員を置いてけぼりにして二人だけで盛り上がりそうな雰囲気になったものの、はっとした遥香ちゃんが居合わせた姉妹の方に向き直る。


「えーっと、とりあえずこんなところで騒ぐのもあれですし……お二人でフロアボス、倒していきます?」

「あ、はいっ! ほら、お姉ちゃんもお礼言わなきゃ」

「そ、そうね。ありがとう……助かったわ」


 どこかぼんやりしていたお姉さんの方も慌てて頭を下げる。まあ、立て続けにいろんなことがあったのだからしょうがないのかもしれない。

 ……しかしながら、今までの出来事はまだまだ序の口であったらしい。


「あ、フロアボス。俺たちも倒さなきゃだよな……」


 思わず「こいつマジか」という目で神林さんの方を見てしまった。

 恐らく知らなかったのだろうけど、一緒にフロアボスを倒そうという名目で絡まれていた人を助けておいてそれを口に出すとは。これが噂に聞く「ナンパから助ける形のナンパ」ってやつなのかもしれない。


「えっ、そうなの? それなら、」

「……正光様、我々は固定シンボル型でも大丈夫でしょう。ランダムポップ型のボスは発見者を優先するべきです」


 それならご一緒に、みたいなことを言いかけたのであろうお姉さんの言葉を、神林さんのパーティメンバーの一人が遮る。

 深い色の髪をシニヨンでまとめた、涼やかな目元が美しい知的な女性だ。細身なオーバル型の眼鏡がよく似合っていて、さながら秘書のような(たたず)まいである。


「その……私たちは一緒でも構いません。助けていただきましたし、神林さんたちなら信頼できますし……ね、お姉ちゃん」

「そうね。さっきの奴らは下心丸出しだったけど……あなたたちならそういう心配はないし。お互いプレート目的なら、助け合いも大切だと思うわ」


 当事者である姉妹がそう言うので、眼鏡の女性も口を閉じて神林さんの後ろに控える。本当に秘書みたいだ。

 確かに、神林さんは女を襲おうとかそういうタイプには見えない。ヒルデさんもあわせて注目される立場の人でもある。心配はないのかもしれない。


「そっか。ありがとう、助かるよ。……あ、そうだ。せっかく居合わせたし、遥香んとこのパーティも一緒にどうだ?」


 …………こいつマジか。




 ★★★


【Tips: ダンジョン内における経験値分配】

 探索者はダンジョン内で経験を積むことで成長する。ダンジョンという環境がゲームライクであることから、俗に「経験値を得る」と表現される。

 ダンジョン内の移動や環境資源の採取等、あらゆる活動で経験値が得られることが確認されているが、最も経験値が得られるのはモンスターとの戦闘である。

 戦闘において得られる経験値は、各探索者の実力やパーティ構成に関わらず、戦闘に貢献した全員の頭割りで分配される。そのため、フロアボスなどの強力なモンスター相手であればパワーレベリングが可能になる。

 ただし、攻撃や支援等の貢献行動を一切取らなかった場合、経験値分配の対象外となる。

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